ベートーヴェンによって交響曲はクラシック音楽を代表するものにまでに引き上げられました。

その後、ブラームスのようにその後継を自認した人を含め数々の交響曲作家が現れ、ブルックナーやマーラーの交響曲の人気はかつてのベートーヴェンを忍ばせるほどです。

その数々の交響曲作家の中で、交響曲に込めた作曲家の想いという意味でベートーヴェンの真の後継となったのがショスタコーヴィチではないでしょうか。

今回はそのショスタコーヴィチの「交響曲第５番」を聴いてみようと、インバルとウィーン交響楽団のCDを取り出してきました。

🔶ショスタコーヴィチの交響曲

ショスタコーヴィチはその生涯で１５もの交響曲を書いています。そしてその殆どが何かしら祖国ソビエトに根差したものなので、一時はソビエトのプロパガンダとして批判されたりしていましたが、ソビエトが崩壊し冷戦が遠いものになった今、その音楽は客観的に聴かれ評価されるようになっています。

私のショスタコーヴィチ体験はご多分に漏れず「交響曲第５番」からで長らくそのフィナーレに夢中になっていました。

その後その他の交響曲も聴くようになって「第５番」は縁遠くなってしまいましたが、やはり名曲であることに変わりはありません。

🔶インバルの「交響曲第５番」を聴く

冒頭の弦楽の優しく柔らかな響きにびっくりさせられます。ムラヴィンスキー始め色々な指揮者で聴いてきましたが、こんな始まりは聴いたことがありません。

この曲は長らく”革命”という愛称が使われていましたが、行進曲風のフィナーレの高揚感は戦争の勝利を願うファンファーレのように演奏されるのが普通でした。

それが「証言」という、今ではその信憑性に疑いが持たれていますが、生前のショスタコーヴィチにインタビューしたという暴露本が出てから、この曲の評価が一変してしまいます。その結果もう誰もこの曲を”革命”とは呼ばなくなりました。

本の信憑性はともかく、この曲は虐げらた民衆の、あるいはショスタコーヴィチ本人の心の叫びとなった訳です。

ここで特筆しておきたいのはデンオンによる録音の素晴らしさです。

デンオンは言うまでもなく日本のメーカーですが、デジタル録音が一般化する前からPCM録音というデジタル録音を始めたブランドです。

その響きは”無色無臭”です。

音にはレーベル毎に特徴があって、ある意味その色付けされた音に魅力があり、私は旧オランダ・フィリップスの響きが好きです。

そういう意味では”無色無臭”というのは味気ないはずなのですが、デンオンは全く味気なく感じませんし、その”無色無臭”が魅力なのです。

それでは楽器の裸の音がするのかというと全くそうではなく、その混ざり具合に絶妙なものを感じさせるのです。

つまり好きな音ということです。

この曲が人気の理由の一つに第３楽章ラルゴがあります。初演時には聴衆のすすり泣きが聞こえたということです。

第３楽章が始まってすぐ、インバルの低い唸り声が聞こえます。その唸り声が示すようにインバルの指揮にも熱が入ります。バーンスタインのように感涙咽び泣くと言った見境の無さとは違った高揚感はなんともいえません。

第４楽章に入るとインバルの唸り声は更に増えていきます。そして圧倒的なフィナーレを迎えます。

しばらくこの曲は聴いていませんでしがが、やっぱりいいですね。

（第４楽章）

マイ・CDコレクション（３８）〜インバルのショスタコーヴィチ「交響曲第５番」を聴く