桜の大木は、葉緑素がいよいよ煮詰まって濃厚な緑となった葉を茂らせている。
久しぶりのかんかん照りを避けて、その下で、冷えた酒を飲んでいると、顔見知りのバッサマがやってきた。
隣に坐る。八十一歳だって。
息子が、かあちゃん、ビール、ニ、三本買ってきといてって言うんで、買いに行ったら、一ケース買っちまっただよ。
頭が調子悪いだわ。
多いのは、大して問題にならないでしょう。冷蔵庫に入れておけば、ありがとう、と言って、息子さん、今晩にもみんな飲んでしまうかもしれない。
そうかね。あれはあんまり飲まんよ。うちの兄らは大酒飲んだがね。
七人兄弟姉妹、私だけが生き残ってるさ。
兄四人のうち三人が戦死だわ。すぐ上の兄も、肝臓癌で死んだ。
姪に聞いたんだが、今、お国から、墓の掃除代に、六千円出るんだって。
月に? 年に?
それは、知んねえ。
だけんど、息子が、もう定年過ぎなのに、結構な給料もらってるわ。孫も同じ会社で働いてるわ。ありがてえことだ。
頭が調子悪いだわ。ビール、ニ、三本買ってきといてって言うんで、買いに行ったら、一ケース買っちまっただよ。
デイケアーに、週二回行くわさ。歌、うたえない人が多いな。私は、好きだよ。あれは、健康にも頭にもいいって言うな。

私たちは、星影のワルツを合唱した。
骨まで愛しても合唱した。
あの歌手は、なんてったっけ?
城卓矢。早く死んじゃったね。彼が公演を終えての、打ち上げパーティーの時、鶏の丸焼きが出て、その傍らのカードに、骨まで愛して、と書いてあったんだ。

……買いに行ったら、一ケース買っちまっただよ。

お姉さま、近頃手や腕の皮が剥けると訴えた。見せてもらうと、表皮が、日焼けの後のように剥け、右手が赤く腫れている。私がたまたま持っていたかゆみ止め兼皮膚再生のためのクリームを塗ってあげた。ぶよぶよにむくんでいる。チューブもさしあげた。
あんた、ありがとねえ。
私は立ち上がって言う。
長く坐っていて、ケツが痛くなっちゃった。では、さようなら。