春泪花
雨上がり時 庭先に出て
あの子の帰りを待っていたのは
咲くのをやめた 花が知りたい
来年の今ぐらいに
もいっかい来よう
もうすぐね…って言い
それっきりにしていた約束、
鍵穴の向こう
霞んでるからじゃなく
くぐれなくなることが
こわかっただけ
桜の春は
今でもこの町には
しあわせという名の
恋があふれ寄る
育ち盛りの子どもが
走り出そうとします
萌黄の背を脱ぎ捨てて
残りわずかも 実感わかなくてさ
周りのみんなと 行儀よくも得意気
気持ちと素直さが反比例している
もどかしい意地っ張りを
やっぱり悔やんだ
まるで明日からも
身を乗り出しながら
バカなこと言い合うはずだった
1秒単位ずつ、時間と思い出とが
結び散ってゆく
桜の春は
今年も満ちる気配
クロッカス達は
励みの深呼吸
肩、張りながら
将来語りながら
いくぶん、強い風の中
桜の春は
今にもこの町へと
しあわせという名の
恋を降り注ぐ
育ち盛りの子どもが
気にも止めます
いくぶん、強い目をしてさ
※春泪花…クロッカス
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