メアリーの家を出てすぐ、ヘンリーはシェリングに言った。
「思い出したよ、シェリング。彼女、僕達の下宿に来た依頼人の一人だ。USBの依頼人だよ。あの日は依頼人」
「やっと気づいたか。USBの依頼は珍しいから、もしかしたらと思ったんだよ。しかし、依頼人の名前はアイリーンとなっている。」
「ただ偽名を使っただけではないのか?」
「顔が割れていなかった時点なので、偽名を使う必要がない。」
「じゃあなんだ?似ている人だったのか?」
「いや似ていないと思うよ。」
「なんだよ。どういう意味だ。」
コニーとヘンリーが同じことを同時に言ったので、シェリングはくすくすと笑いながら言った。
「顔はおんなじなんだよ。人は違う。」
「性同一性障害か?でもなぜわかる?」
「それだけではない。家には女ものの靴しかなかった。それに、僕達が彼女の家に行く時にはいつも彼女の妹か姉はいない。いや、家にはいるが僕たちは見たことはない。サイズの違う靴が二つあるからね。姉妹が一軒の家にいることは何の不思議もない。それなのに隠すわけは?」
「顔が同じだからか。」
ヘンリーが思いついたように応えた。
「正解!それだけではないぞ。性同一性障害を何も隠すことはない。覚えているか?僕が、彼女にUSBの話をした時のことを。」
「お母さんとか指輪とかの話をしていましたね。」
コニーが答えた。
「正解だ。あの僕の言葉は矛盾しているんだよ。別に、母親がいてもおかしくない。そして僕が、夫婦のことを言った時彼女は何かをかばうように言った。何かわかるか?」
「なんだ?」
「妹だよ。玄関には、男性の靴がなかった。あんな家に住んでる人だ。靴を履くためのステッキがあってもおかしくはない。しかし、それどころか、リビングにはまるで男の人が住んでいるような生活感はなかった。でも指輪をしている。」
「どういうことだ?」
「姉妹2人は共依存症である可能性が高い。」
「なんだって、じゃあなんでアイリーンの方は僕のところに来たんだよ?」
「君がその事を僕に伝え捜査の妨害を図ろうとしたが、君が疎いものだから、それが裏目に出たってわけだ。恐らく、アイリーンの方が組織の一員なのだと思うよ。さすがに、マフィアとバーの従業員の両立は出来ないだろう。そして組織の大切なUSBが消えた。組織を総動員してボスは探させたはずだ。となると、アイリーンもそのことを知っている。二人がさっき話したような関係だとすると、アイリーンはメアリーに無意識のうちにUSBのことを漏らしてしまった可能性が高い。そして、たまたまコニーの接待をしていたメアリーが彼のバッグに入っていたUSBを見つけた。何かの拍子にバッグの中を見る機会があったのだろう。早速、メアリーはそのことをアイリーンに伝え、アイリーンは組織に伝えたはずだ。さっきも言ったが重要なUSBだ。見つけたものは優遇されるに違いない。」
「でも証拠は?」
「この前、コニーが襲われたときに組織のUSBは彼らの手にわたったが、コニーにUSBはまだ、返ってきていない。僕達が、ガードを徹底してたから。返すにも返せない。」
「返すわけないじゃん。そんなことしなくてもいいだろう。」
「ヘンリー、コニーの職業は何だ。」
「株式関係だといっていたな。」
「株式関係なら重要な情報のはずだ。組織は、USBの中身を見られただけでもまずいのに、株式の情報を悪用したとまで言われると、組織の幹部たちは全員逮捕となり、彼らは一網打尽にされてしまう。コニーのUSBを返した後、コニーの口封じにかかるはずだ。」
「今なんて言いました?」
ノロリノロリと歩いていたコニーが急にシェリングの言葉を聞いて走って近づいてきた。
「いえ、何も。コニーさん、事件は解決しました。犯人を見つけ次第、ご報告しますので、コニーさんはご自分の家に帰られて結構です。」
「そうですか?」
「はい。」
