仁淀川、国道33号線を離れ南下すれば、須崎市に入る。
高知県須崎市に来た目的、それは須崎鍋焼きラーメンを食べるためである。
10年くらい前にも一度来たことがあったが、それはラーメンの入れ物が丼ではなく、土鍋が使われているということが珍しくて食べてみたものであった。
味などは普通であった。
もともと四国はあまりラーメンが盛んというわけではないし、特に話題となっているラーメンがあるというわけではない。
徳島ラーメンはあるが、やはり四国といえばうどん。
これに圧倒的に押されているという感じが強い。
鍋焼きラーメンを食べる店として、ガイドブックには須崎市内の橋本食堂が一番におされていたので、ここに行ってみることにした。
住宅街の中にあるこの店は時間的にも昼食時だったので、すでに順番待ちが出ていた。
駐車場案内係の人より、少し遠い場所に案内された。
須崎ラーメンには市役所を中心とした町おこしの組合があるようだ。
B1グランプリにも『須崎名物「鍋焼きラーメン」プロジェクトXと』言う名前で毎年参加しているようである。
従ってしっかりとした規定、定義があるのだろう。
大体何とか食堂と名乗っている店は歴史が古い。
昭和戦後以来の伝統を引き継いでいる。
この橋本食堂も戦後すぐに開店し、その過程で閉店した店も多い中で、現在に至るのれんを守っている。
そういう意味で元祖の店である。
でも何故鍋焼きになったのかはよくわからない。
須崎市内には多くのラーメン店があるが、それは札幌ラーメンや博多ラーメン、全国有名ラーメンチェーン店でもない限り、すべて鍋焼きラーメン店である。
居酒屋や喫茶店などでも出している。
須崎市民にとってみればラーメンに土鍋はむしろ当たり前だろう。
橋本食堂はラーメン単品メニューの専門店で、営業時間も昼だけである。
値段を見て驚いた。
普通盛りで1杯が550円。
これが人気の答えだ。
ラーメン1杯の値段が600円以下で普通においしければ、リピーターの客は必ず来る。
500円以下なら特においしくなくても特に問題がなければ、これも同様に客はまた来る。
800円以上なら多少おいしい程度では、次にはなかなか来ない。
値段の安い長崎チャンポン、北陸8番ラーメン、日高屋、寿がきやなどの成功の秘密はここにある。
この店の1杯550円という値段は素晴らしい。
その他の余計なメニューがないのもよい。
単品だと合理化が可能で、無駄も省ける。
地元民でたびたび来るという人は多いだろう。
普通盛りを注文したら、まだ鍋の中でスープがぶくぶくしている状態で、比較的早く持ってきた。
須崎ラーメンの特色は鶏がらスープ、少し固い麺、普通の薄口しょうゆの味か。
また中心に生卵がはってある。
鶏がらスープは一般的だが、中四国地方には鶏ガラスープとして名前が知られているものに広島県尾道ラーメンがある。
岡山県笠岡ラーメンも同様である。
中国、四国地方はどちらかといえばラーメンについては後進地域だが、どうやら鶏ガラ使用と言う共通性があるようだ。
徳島ラーメンも一部鶏ガラである。
卵を落とすのは徳島ラーメンと共通している。
スープは濁るが味はまろやかになる。
焼きそばに多用されている。
味などは同じ鶏ガラの山形県新庄トリモツラーメン、酒田庄内ラーメン、岐阜県高山ラーメンなどと同様である。
要するに素直な感じの癖のないラーメンであった。
問題は卵をいつつぶすかということである。
中には生卵を別の皿に分けて、すき焼のようにして麺を付けて食べる等やり方もあるそうだ。
このラーメンは普通においしく550円というお得感もあった。
しかしこの須崎鍋焼きラーメンは現在までの所、須崎市内あるいは遠くとも高知市内までにとどまっている。
全国には広まってはいない。
その理由は分かるような気がする。
味は良くても土鍋を使うということが最大のネックになっていると思う。
これ自体でかなり特殊だと思われる。
また1杯1杯丁寧な作り方をしなければならないだろう。
丼を並べて一斉に背油を落とすチャッチャ系のようなわけにはいかない。
手間と人件費がかかりかなり値段の高いものになってしまう。
大量生産にも適さない。
東京や大阪など高知料理店、高知市内の居酒屋などで締めのメニューとして出している所はあるかもしれない。