苦しむ人々の声を代弁し続けたジャーナリストの死 | shellvalleyのブログ

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昨日、偉大なジャーナリストが亡くなった。
名前はメリー・コルビン。
ロンドン・サンデー・タイムズ紙のジャーナリストだ。

政府による市民への無差別な攻撃が続くシリアの激戦区ホムズ。
メリーはあるビルに潜伏していたのだが、そこに政府軍の砲弾が着弾した。


実は、その死の数時間前にメリーは、CNNアンダーソン・クーパー360に電話出演した。
少し長いが再現してみよう。

番組冒頭でアンダーソンはいう。

「この映像を放送するかどうか、我々は大いに悩み、議論しました。
それはかなり残酷な映像だからです。
しかし、我々はこの映像を放送することを決めました。」



映像は、まだ1歳か2歳くらいの男の子、アドニン君が病院のベッドに
いるところから始まる。
シリア軍は無差別に放つ砲弾の破片が、アドニン君の小さな胸に突き刺ったのだ。

まだ息はあるにはあるが、まさに虫の息。
ぐったりしながら、全く動かず、顔は酸欠からか真っ青だ。
薬もなく、何もできず、死を待つばかり。
祖母は、孫のベッドの横で泣き続ける。

次のシーンは、安らかな真っ白の顔をしたアドニン君の映像だ。

頭に包帯を巻いた父親が、いつまでも優しくアドニン君を抱き続ける。
「おまえが何をしたのか?おまえは誰かを傷つけたのか?」
父親はそう息子に語りかけながら、さすり続ける。
そして復讐を誓うのだ。

現場にいたメリーがレポートする。
「実は、アドニン君の祖母が、病院の緊急医療室で働いていました。
 小さな男の子が運び込まれてきたとき、祖母が、
 ”この子は私の孫よ!”と叫んだのです。」

「胸が張り裂けそうな出来事ですが、
 この街では絶え間なく砲撃が続いてます。
 ですから、アドニン君は毎日亡くなる女性や子供や老人の一人にしか過ぎないのです。」


アンダーソンは、こんな映像をテレビのゴールデンタイムで流さない方がよい
という人もいるが、あなたは、どう考えるか?と問う。

「私はこの映像を放送すべきだと思います。
 映像は強い力を持っていますので、このひどい映像を見て、
 これがシリアの現実だということを、世界の皆さんに理解して欲しいのです。
 いまホムズでは、2万8千人に女性や子供が家に隠れており、
 政府軍は、そんな一般家庭を毎日砲撃しています。
 毎日多くの人々が傷つき、毎日多くの子供達が亡くなっています。
 なぜ、このような殺人を止めることができないのか?を考えて欲しいのです。」

「シリア政府は全ての市民に砲撃をくわえています。
 私が隠れている貧民街も例外ではありません。
 実は私のいるビルの1Fも砲撃され、室内は瓦礫の山となりました。
 市民達はカラシニコフ銃と手榴弾で抵抗していますが、
 多勢に無勢です。人数も兵器も差がありすぎます。
 テロリストを攻撃していると政府は言っていますが、
 これは全くの嘘です。その標的は、寒さと飢えに苦しむ人々なのです。」

アンダーソン
「よく言ってくれました。アサド政権は嘘を言っていることがはっきりしました。
 あなたは長年、戦場で取材を行っていますが、今回の違いはなんですか?」

マリー
「今回は最悪です。リビアのミスラタよりも酷い状況です。
 あの時は隠れ場がありましたが、今は逃げ場が全くありません。
 シリア軍が街を包囲し、さらに街の中に侵攻しています。
 政府軍は、戦車と飛行機で攻撃してきます。
 砲弾はどこに着弾するのか、全く予測ができません。
 人々は恐怖に囚われ、虚脱感に襲われています。
 出来ることは、家に砲弾が当たらないようにと祈ることだけです。」

西側の多くのジャーナリストがホムズを後にしたが、
メリーは最後まで踏みとどまった。

それはなぜだろうか?

以前、彼女はインタビューに答えて、こう話している。
「戦争とは何か? 戦争は普通の人々に苦しみを与えます。
 誰も戦争など求めてはいません。
 私が戦争を目撃し、それを世界に伝えることで、
 何か変化を起こせるかもしれない。」

世界が耳を傾けなかったとしても、彼女は取材を続けただろう。

正しいことを行う情熱、真実を伝える使命感が彼女を
最も危険な場所に立つ恐怖、何度も襲われるその恐怖と対峙させてきたのではないか。

「多くの人は、そこまでする価値があるの?家族も心配じゃないの?
 と聞いてきますが、私はこう答えています。」

 ”私は価値があると思っています!”

以上