8月12日(日記抜粋)
ルワンダについてよく知るためには、現地の人々の生活圏へと飛び込んでいくことが近道だ。ただ、今まではそれをやってきたかと聞かれるとやってこなかったと言わざるを得ない。日常の生活では、大使館とアパートの往復がほとんどで、外、つまり本物のルワンダと触れ合う機会は少ない。休みの日にしても、テニスをするくらいではせいぜい行くのはウムバノホテルとなり、極めてお金持ちを外国人しか訪れないことから、それもまた、ルワンダの本当の姿を体験しているとは言い難い。
今まで、短いながらも海外滞在したニュージーランド、そして1年しっかり留学したイギリスを思い出してみると、現地と関わる機会が今よりも多かったように思う。例えば、NZの語学学校は町の中心部にあったので、時間があれば町の中心部に出ていた。町の中心部に行ってカフェに入ったり、買い物をすることで、その国の国民性なども見えて来るものだ。イギリスに行った時は休みになるとよくLondonに出かけていたのだが、その時にHMやZARAといった店がやたらと古いビルに入っているのが滑稽に映った。だが、だんだんとヨーロッパではこうした古い建物を後世まで大切に使うことを大事にしているのだ、ということがわかってきた。場所によってはマクドナルドやサブウェイなどの店も煉瓦造りの古い建物にその看板を出していたのだ。
では、ルワンダは一体どのような価値観なのだろうか?
町に向かうきっかけとなったのはひょんなことだった。ルワンダで使うことを目的として日本で買った携帯電話がWifiの電波を全く受け付けなくなってしまったので修理を頼もうと町にある携帯電話ショップへ持って行ったのだ。ところが、そのショップでは修理できないということで、修理専門の店へと案内された。そこで携帯電話を差し出すと、2時間くらいはかかるので後から取りに来てくれ、と言われた。僕はWifiが使えなくなったのは、どこかで設定を間違えてしまったからだと思っていたので、まさかメカニカルな修理が必要だとは思っていなかった。もっと早くできないかと聞いたが、2時間は十分に速いと言われたので諦めて付近をぶらぶらすることにした。
まず向かったのは近くにあった比較的大きなショッピングセンターだ。最近オープンしたばかりのスーパーマーケットがあったので、そこをのぞこうと思ったからだ。Woodland と名付けられたそのスーパーは、どう見ても買い物客より店員の数が多かった。5Mおきくらいに店員が立っており、暇そうにこちらを見ている。一方、買い物客は比較的大きなスーパーながら、数えるほどしかいない。相当な赤字を出しているのは明らかだった。一言でいえば、スーパーなのに、全く生活感がない。真新しさと清潔感はあるものの、商品の並べ方がどこかよそよそしくて、なかなか買おうという気になれない。それに加えて、品揃えにしても、大手スーパーのナクマットとそれほど変わらない。規模では明らかに劣るので、どこかナクマットとは差別化した戦略が必要だろうに、それを行っていなかった。おそらく、欧米人を客として想定していると思うが、欧米人はみな、駐車場も大きくて便利なナクマットに流れてしまっている。おそらく、倒産するのは時間の問題だろう。
何も買わなかったので、あからさまに嫌な顔をされたが、そんなことは構わずにフードコートのある方に向かった。そういえば、もう2時30分をまわっているが、昼は何も食べていなかった。おそらくテナントが半分ほどしか入っていないがらんとしたモールをエスカレーターで2階に上がると少し雰囲気の良いカフェを見つけたのでそこに入ることにした。とても感じの良いウェイターさんがメニューを持ってきてくれた。欧米風のカフェなので、メニューも全て英語で書かれておりわかりやすかった。昨日からお腹の調子がそれほど良くなかったが、空いてはいたので、思い切ってハンバーガーを注文することにした。そして、たまたま近くにいた別のウェイターを呼びとめたところ、ちょっと困ったような顔をしてキョロキョロとし始めた。すると、最初のウェイターが笑顔でI’m hereと言いながらやってきて注文を取ってくれた。どうやら、ルワンダではテーブル担当制が徹底されているようだ。果たしてチップはいるのだろうか・・・(結果いらなかった)
カフェは、本当に日本のスタバのような雰囲気で、違うところといえば、テレビが設置されていることと、椅子と机の配置がもっとゆとりあることくらいだ。僕はこの雰囲気がとても気に入った。思えばルワンダに来てから、こうしてひとりで外食する機会はほとんどなかった。だが、本質的にはひとりでゆっくりと、自分のペースで食事を味わいたい派なので、このような機会を図らずして持てたことは嬉しかった。他の客もわりとお金持ちがありそうな人が多く、それほど大きな声では会話をしていないことからも、品が良いことが分かる。欧米人も若干いることから、まるで先進国のカフェに入ったような気分になった。
料理が運ばれてくるのも早く、30分かからなかった(アフリカではそれはかなり早い部類に入る)。注文したのは卵とチーズが入ったハンバーガーと、アイスコーヒーだったが、ハンバーガーには大盛りのポテトフライがついており、普段食べる倍以上の量はあった。しかし、これでいて料金は5500フラン、つまり日本円にして700円くらいなので、物価はやはりかなり安いと言えるだろう。食べながらテレビに目を向けるとオリンピックが中継されていた。映像も乱れることなく綺麗に映っており、男子の800M走をやっていた。ウェイターのお兄さんに、ルワンダは出ているのか?と聞いたところ、水泳しか知らないと言われた。限られた範囲内での印象でしかないが、ルワンダを見ていても、オリンピックが開催されているという雰囲気や盛り上がりがない。日本は次が東京だし、かなり出場人数も多くメダルも獲っているから盛り上がるが、このアフリカの小国においては、どこか別の世界で行われていることであるかのように受け止められている。
しばらくそこで時間を過ごし、30分以上もかけてハンバーガーを味わった。味も極めて美味しく、非常に満足だった。というか、ここに来て何度か外食をした機会はあるのだが、今までおいしくない、と感じたのは、はじめの歓迎会で行ったケニア料理の店くらいだ。来る前は美味しいものなど全く手に入らないと思い込んでいたが、そんなことはなく、こういったことからも、ルワンダの発展が想像以上であることを思い知らされる。
お会計を済ませて外に出ると、まだ少々早かったが携帯修理の店に行くことにした。ひょっとしたら直っているかも、という一縷の望みを託したが、「まだ2時間経っていないわよ。」と巨乳の受付にあしらわれた。もう、コーヒーブレイクは先ほど使ってしまったので、どのようにして時間をつぶそうか・・・と考えていたところ、目の前にヘアサロンが見えた。髪に関しては、6月27日から切っておらず、そろそろ切りたいとは思っていたが、9月7日から休暇でロンドンに行くのでその時に切ればよい、と思っていた。ただ、最近、短い快適さに慣れてしまった後は、少しでも髪の毛がもじゃもじゃと伸びて来ると、ついつい手が髪の毛にいってしまい、一刻も早くスッキリしたいという耐えがたい思いと格闘しているところだった。店はガラス張りになっており、中には黒人男性が座ってほとんど坊主の頭にバリカンが入っている。見たところハサミを動かしている美容師はおらず、みなバリカンを駆使している。
ただ、一度アフリカで髪を切ってみたかった。ハサミを使わずにどこまでいけるのだろう、ということは気になったし、帰ってからネタとして使えそうだった。
店の前にソファがあり、そこに男性が座っていたので、
「Are you waiting?」と聞いたところ、美容師さんが休憩していただけで、
「No, no. You can come.」と中に案内された。店内は狭かったが、椅子は6つあり、僕は男性に案内されるまま外からは見えないほうの席に座った。3つ椅子があり、両脇には黒人男性が座っていたが、みな突然現れたアジア人に一体何事か、という視線を向けて来る。おそらく、僕のような人をここでかつて見かけたことがないのだろう。
しかし、この時はまだハサミがあるかもしれないと思っていたので、
「Do you have scissors?」と質問してみた。すると、
「Machine only.」と言われた。そうか、バリカンしかないのか。そして、バリカンのことを何と言うのか、わからないから(僕も知らないが)マシーンと言っているのか、と新たな発見があった。
一旦は断って店の外に出ようとしたが、美容師さんは
「No problem, I can cut very good.」と言って来たので、「ものは試し」の精神で突っ込んでみることにした。
彼らもどうやら、あまりアジア人を切る機会などないようで、バリカンにいろいろなアタッチメントを付けては変えてを繰り返して、非常に慎重に切ってくれた。もう、かなり短めにガリっとやられるのを覚悟していたのでかなり意外だった。入念に両脇から仕上げていくのだが、日本の美容師とスタイルの差こそあれ、スキルや仕上がりに問題があるとは思えなかった。同じ要領で左側も刈った。
さて、いよいよ彼にとっての一番の難関である上の部分にやってきた。黒人でも横に毛は生えているが、上がこれほどフサフサな人はそれほどいないだろう。すると、髪をオールバックにしてから、ボリュームを減らすような感じで下から上に向かってバリカンを動かして髪の毛を切っていく。これも、一度にたくさんは切らずに少しずつ、少しずつやっていった。
やれやれ、これで終了か?と思ったところ、何やら手前の引き出しを開けて出て来たとおもったら、それはハサミだった。だが、このハサミ、どう見ても日本の美容師さんが持っているようなハサミではなく、一般家庭にあるようなハサミだった。一体これで何をするのか、と思ったら彼は大きな掌を頭の上に乗せて、強く抑えた。そして、指と指の間から出た髪の毛を少しずつ切っていった。おそらくスキばさみなど絶対にないだろうから、このようにしてボリュームを落とそうという作戦だろう。ハサミの音も明らかにしょぼく、ここだけは素人が図画工作を行っているようなシーンとなった。
それでも最後は再び入念にバリカンを駆使してくれて、堂々の仕上がりとなった。ただ、横の部分が若干長いように感じられたので、
「I prefer a bit shorter」と言ったところ、
「Please show me your picture.」といって、写真を見せるように頼んだ。実は彼に切ってもらう前に以前日本で切ったときの写真を見せておいたのだ。すると、今度は僕の写真を撮り、
「Look, no difference!」と言われた。たしかに、よく2枚の写真を見てみるとほとんど変わらない!そして思わず、Good job!と言うと、
「Yeah, I also think it’s very nice.」と自画自賛した。
結論、僕の髪の毛は、バリカンだけしかなくても全く問題なく切れる、ということ。この後、美女が奥でシャンプーしてくれてお会計。気になるお値段は5000フラン(620円)だった。うん、非常に安い!もしロンドンに行って切ったら5000円は軽くするので、ルワンダで切っておいて本当に正解だったと思う。ただ、これは僕のように髪の毛がもともと短くて、かつくせ毛の人に限って言えることなのかもしれない。長髪でストレートともなれば、このようにはいかないだろう。
さあ、もうさすがに終わったでしょう、と思って修理ショップに行ってみた。
しかし、「まだやっているのでちょと待ってくれ」とボスっぽい白髪が混じった人が出て来た。実はこの店、すぐ裏で修理をやっているのだが、修理の現場を何故か見ることができる。企業秘密なのではないか?と思ったが、普通に入って行っても誰にも何とも言われなかった。
そしてその光景は驚くべきものだった。狭い作業場のようなスペースには何台ものスマホや解体されたスマホが置かれており、PCも複数台設置されていた。メカニックと思われる人が、わずか3畳ほどのスペースに5人ほど詰めかけており、それぞれ顕微鏡などを使いながら、スマホを分解して回線をいじっている者もいる。今まで正直、「アフリカ人にスマホなどいじれない」と思っていたが、目の前の光景はそんな偏見を吹き飛ばしてくれた。しかも、彼らは僕が来てもまるで意に介さないほど真剣にそれぞれ作業しており、真面目さや上昇志向が見て取れた。
今まで、専門調査員として、ルワンダがICTや技術立国に力を入れていることは知っていた。TVETと呼ばれる職業教育、訓練学校が全国にあり、各国からICTアドバイザーがやってきて教育を行っているということもそこには書かれていた。だが、それだけでは実感を持つことができなかった。どうせまた、政府が宣伝のために言っているだけだろう、とそう高をくくっていた。だが、今目の前に繰り広げられている光景は、その自分の固定観念に一矢を報いた。もちろん、これだけを見ただけでルワンダが凄い国だと一転して信じるわけではない。ただ、僕は無性に嬉しくなった。今まで発展から取り残されていたアフリカが、自分たちの力で変わろうとしている場面、しかもそのライブに出くわすことができてとても嬉しかった。
結果、携帯電話は直らなかったが、僕は丁寧に御礼を言った。結局4時間かかってしまったが、彼らはその間中ずっと、何とか携帯を直そうと躍起になり、努力をしてくれたのだ。その姿勢に心を打たれた。それでいて、料金を請求してくることはなかった。
今日、この3つの経験を通して、僕はこの国が将来アフリカをリードしていく国になる予感を感じた。少なくともキガリには、ただお腹を膨らせるのではなく、美味しいと感じられるものを提供し、短くするだけではなく、カッコ良く散髪をし、技術の集大成であるスマートフォンを何とか直してやろうと立ち向かう素晴らしい人々がいるのだ。
もちろん、日本のスタンダードからしてみれば、ちっぽけなことかもしれない。日本だと料理が美味しいのは当たり前だし、髪の毛も言った通りに切ってもらえるのが当たり前。スマホもきっちり時間通りに修理して返って来るのが常識だ。僕たちは往々にして、そういった常識を押し付けたがる。日本と比較して、ルワンダは劣っている、とか、おもしろくない、だとか、娯楽が少ない、だとか。
だが、そういった比較は無意味である。ここに居ては、彼らが基準なのだ。僕たちは、彼らの常識に合わせるしかない。その中で、ちょっとしたものが美味しいと感じられたり、出来上がった髪型をカッコイイと思えればそれで良いではないか。それ以上求めても、こちらが勝手にがっかりするだけであって、彼らは何も悪くない。
これから、もっとルワンダのことを知りたいと思った。
ルワンダについてよく知るためには、現地の人々の生活圏へと飛び込んでいくことが近道だ。ただ、今まではそれをやってきたかと聞かれるとやってこなかったと言わざるを得ない。日常の生活では、大使館とアパートの往復がほとんどで、外、つまり本物のルワンダと触れ合う機会は少ない。休みの日にしても、テニスをするくらいではせいぜい行くのはウムバノホテルとなり、極めてお金持ちを外国人しか訪れないことから、それもまた、ルワンダの本当の姿を体験しているとは言い難い。
今まで、短いながらも海外滞在したニュージーランド、そして1年しっかり留学したイギリスを思い出してみると、現地と関わる機会が今よりも多かったように思う。例えば、NZの語学学校は町の中心部にあったので、時間があれば町の中心部に出ていた。町の中心部に行ってカフェに入ったり、買い物をすることで、その国の国民性なども見えて来るものだ。イギリスに行った時は休みになるとよくLondonに出かけていたのだが、その時にHMやZARAといった店がやたらと古いビルに入っているのが滑稽に映った。だが、だんだんとヨーロッパではこうした古い建物を後世まで大切に使うことを大事にしているのだ、ということがわかってきた。場所によってはマクドナルドやサブウェイなどの店も煉瓦造りの古い建物にその看板を出していたのだ。
では、ルワンダは一体どのような価値観なのだろうか?
町に向かうきっかけとなったのはひょんなことだった。ルワンダで使うことを目的として日本で買った携帯電話がWifiの電波を全く受け付けなくなってしまったので修理を頼もうと町にある携帯電話ショップへ持って行ったのだ。ところが、そのショップでは修理できないということで、修理専門の店へと案内された。そこで携帯電話を差し出すと、2時間くらいはかかるので後から取りに来てくれ、と言われた。僕はWifiが使えなくなったのは、どこかで設定を間違えてしまったからだと思っていたので、まさかメカニカルな修理が必要だとは思っていなかった。もっと早くできないかと聞いたが、2時間は十分に速いと言われたので諦めて付近をぶらぶらすることにした。
まず向かったのは近くにあった比較的大きなショッピングセンターだ。最近オープンしたばかりのスーパーマーケットがあったので、そこをのぞこうと思ったからだ。Woodland と名付けられたそのスーパーは、どう見ても買い物客より店員の数が多かった。5Mおきくらいに店員が立っており、暇そうにこちらを見ている。一方、買い物客は比較的大きなスーパーながら、数えるほどしかいない。相当な赤字を出しているのは明らかだった。一言でいえば、スーパーなのに、全く生活感がない。真新しさと清潔感はあるものの、商品の並べ方がどこかよそよそしくて、なかなか買おうという気になれない。それに加えて、品揃えにしても、大手スーパーのナクマットとそれほど変わらない。規模では明らかに劣るので、どこかナクマットとは差別化した戦略が必要だろうに、それを行っていなかった。おそらく、欧米人を客として想定していると思うが、欧米人はみな、駐車場も大きくて便利なナクマットに流れてしまっている。おそらく、倒産するのは時間の問題だろう。
何も買わなかったので、あからさまに嫌な顔をされたが、そんなことは構わずにフードコートのある方に向かった。そういえば、もう2時30分をまわっているが、昼は何も食べていなかった。おそらくテナントが半分ほどしか入っていないがらんとしたモールをエスカレーターで2階に上がると少し雰囲気の良いカフェを見つけたのでそこに入ることにした。とても感じの良いウェイターさんがメニューを持ってきてくれた。欧米風のカフェなので、メニューも全て英語で書かれておりわかりやすかった。昨日からお腹の調子がそれほど良くなかったが、空いてはいたので、思い切ってハンバーガーを注文することにした。そして、たまたま近くにいた別のウェイターを呼びとめたところ、ちょっと困ったような顔をしてキョロキョロとし始めた。すると、最初のウェイターが笑顔でI’m hereと言いながらやってきて注文を取ってくれた。どうやら、ルワンダではテーブル担当制が徹底されているようだ。果たしてチップはいるのだろうか・・・(結果いらなかった)
カフェは、本当に日本のスタバのような雰囲気で、違うところといえば、テレビが設置されていることと、椅子と机の配置がもっとゆとりあることくらいだ。僕はこの雰囲気がとても気に入った。思えばルワンダに来てから、こうしてひとりで外食する機会はほとんどなかった。だが、本質的にはひとりでゆっくりと、自分のペースで食事を味わいたい派なので、このような機会を図らずして持てたことは嬉しかった。他の客もわりとお金持ちがありそうな人が多く、それほど大きな声では会話をしていないことからも、品が良いことが分かる。欧米人も若干いることから、まるで先進国のカフェに入ったような気分になった。
料理が運ばれてくるのも早く、30分かからなかった(アフリカではそれはかなり早い部類に入る)。注文したのは卵とチーズが入ったハンバーガーと、アイスコーヒーだったが、ハンバーガーには大盛りのポテトフライがついており、普段食べる倍以上の量はあった。しかし、これでいて料金は5500フラン、つまり日本円にして700円くらいなので、物価はやはりかなり安いと言えるだろう。食べながらテレビに目を向けるとオリンピックが中継されていた。映像も乱れることなく綺麗に映っており、男子の800M走をやっていた。ウェイターのお兄さんに、ルワンダは出ているのか?と聞いたところ、水泳しか知らないと言われた。限られた範囲内での印象でしかないが、ルワンダを見ていても、オリンピックが開催されているという雰囲気や盛り上がりがない。日本は次が東京だし、かなり出場人数も多くメダルも獲っているから盛り上がるが、このアフリカの小国においては、どこか別の世界で行われていることであるかのように受け止められている。
しばらくそこで時間を過ごし、30分以上もかけてハンバーガーを味わった。味も極めて美味しく、非常に満足だった。というか、ここに来て何度か外食をした機会はあるのだが、今までおいしくない、と感じたのは、はじめの歓迎会で行ったケニア料理の店くらいだ。来る前は美味しいものなど全く手に入らないと思い込んでいたが、そんなことはなく、こういったことからも、ルワンダの発展が想像以上であることを思い知らされる。
お会計を済ませて外に出ると、まだ少々早かったが携帯修理の店に行くことにした。ひょっとしたら直っているかも、という一縷の望みを託したが、「まだ2時間経っていないわよ。」と巨乳の受付にあしらわれた。もう、コーヒーブレイクは先ほど使ってしまったので、どのようにして時間をつぶそうか・・・と考えていたところ、目の前にヘアサロンが見えた。髪に関しては、6月27日から切っておらず、そろそろ切りたいとは思っていたが、9月7日から休暇でロンドンに行くのでその時に切ればよい、と思っていた。ただ、最近、短い快適さに慣れてしまった後は、少しでも髪の毛がもじゃもじゃと伸びて来ると、ついつい手が髪の毛にいってしまい、一刻も早くスッキリしたいという耐えがたい思いと格闘しているところだった。店はガラス張りになっており、中には黒人男性が座ってほとんど坊主の頭にバリカンが入っている。見たところハサミを動かしている美容師はおらず、みなバリカンを駆使している。
ただ、一度アフリカで髪を切ってみたかった。ハサミを使わずにどこまでいけるのだろう、ということは気になったし、帰ってからネタとして使えそうだった。
店の前にソファがあり、そこに男性が座っていたので、
「Are you waiting?」と聞いたところ、美容師さんが休憩していただけで、
「No, no. You can come.」と中に案内された。店内は狭かったが、椅子は6つあり、僕は男性に案内されるまま外からは見えないほうの席に座った。3つ椅子があり、両脇には黒人男性が座っていたが、みな突然現れたアジア人に一体何事か、という視線を向けて来る。おそらく、僕のような人をここでかつて見かけたことがないのだろう。
しかし、この時はまだハサミがあるかもしれないと思っていたので、
「Do you have scissors?」と質問してみた。すると、
「Machine only.」と言われた。そうか、バリカンしかないのか。そして、バリカンのことを何と言うのか、わからないから(僕も知らないが)マシーンと言っているのか、と新たな発見があった。
一旦は断って店の外に出ようとしたが、美容師さんは
「No problem, I can cut very good.」と言って来たので、「ものは試し」の精神で突っ込んでみることにした。
彼らもどうやら、あまりアジア人を切る機会などないようで、バリカンにいろいろなアタッチメントを付けては変えてを繰り返して、非常に慎重に切ってくれた。もう、かなり短めにガリっとやられるのを覚悟していたのでかなり意外だった。入念に両脇から仕上げていくのだが、日本の美容師とスタイルの差こそあれ、スキルや仕上がりに問題があるとは思えなかった。同じ要領で左側も刈った。
さて、いよいよ彼にとっての一番の難関である上の部分にやってきた。黒人でも横に毛は生えているが、上がこれほどフサフサな人はそれほどいないだろう。すると、髪をオールバックにしてから、ボリュームを減らすような感じで下から上に向かってバリカンを動かして髪の毛を切っていく。これも、一度にたくさんは切らずに少しずつ、少しずつやっていった。
やれやれ、これで終了か?と思ったところ、何やら手前の引き出しを開けて出て来たとおもったら、それはハサミだった。だが、このハサミ、どう見ても日本の美容師さんが持っているようなハサミではなく、一般家庭にあるようなハサミだった。一体これで何をするのか、と思ったら彼は大きな掌を頭の上に乗せて、強く抑えた。そして、指と指の間から出た髪の毛を少しずつ切っていった。おそらくスキばさみなど絶対にないだろうから、このようにしてボリュームを落とそうという作戦だろう。ハサミの音も明らかにしょぼく、ここだけは素人が図画工作を行っているようなシーンとなった。
それでも最後は再び入念にバリカンを駆使してくれて、堂々の仕上がりとなった。ただ、横の部分が若干長いように感じられたので、
「I prefer a bit shorter」と言ったところ、
「Please show me your picture.」といって、写真を見せるように頼んだ。実は彼に切ってもらう前に以前日本で切ったときの写真を見せておいたのだ。すると、今度は僕の写真を撮り、
「Look, no difference!」と言われた。たしかに、よく2枚の写真を見てみるとほとんど変わらない!そして思わず、Good job!と言うと、
「Yeah, I also think it’s very nice.」と自画自賛した。
結論、僕の髪の毛は、バリカンだけしかなくても全く問題なく切れる、ということ。この後、美女が奥でシャンプーしてくれてお会計。気になるお値段は5000フラン(620円)だった。うん、非常に安い!もしロンドンに行って切ったら5000円は軽くするので、ルワンダで切っておいて本当に正解だったと思う。ただ、これは僕のように髪の毛がもともと短くて、かつくせ毛の人に限って言えることなのかもしれない。長髪でストレートともなれば、このようにはいかないだろう。
さあ、もうさすがに終わったでしょう、と思って修理ショップに行ってみた。
しかし、「まだやっているのでちょと待ってくれ」とボスっぽい白髪が混じった人が出て来た。実はこの店、すぐ裏で修理をやっているのだが、修理の現場を何故か見ることができる。企業秘密なのではないか?と思ったが、普通に入って行っても誰にも何とも言われなかった。
そしてその光景は驚くべきものだった。狭い作業場のようなスペースには何台ものスマホや解体されたスマホが置かれており、PCも複数台設置されていた。メカニックと思われる人が、わずか3畳ほどのスペースに5人ほど詰めかけており、それぞれ顕微鏡などを使いながら、スマホを分解して回線をいじっている者もいる。今まで正直、「アフリカ人にスマホなどいじれない」と思っていたが、目の前の光景はそんな偏見を吹き飛ばしてくれた。しかも、彼らは僕が来てもまるで意に介さないほど真剣にそれぞれ作業しており、真面目さや上昇志向が見て取れた。
今まで、専門調査員として、ルワンダがICTや技術立国に力を入れていることは知っていた。TVETと呼ばれる職業教育、訓練学校が全国にあり、各国からICTアドバイザーがやってきて教育を行っているということもそこには書かれていた。だが、それだけでは実感を持つことができなかった。どうせまた、政府が宣伝のために言っているだけだろう、とそう高をくくっていた。だが、今目の前に繰り広げられている光景は、その自分の固定観念に一矢を報いた。もちろん、これだけを見ただけでルワンダが凄い国だと一転して信じるわけではない。ただ、僕は無性に嬉しくなった。今まで発展から取り残されていたアフリカが、自分たちの力で変わろうとしている場面、しかもそのライブに出くわすことができてとても嬉しかった。
結果、携帯電話は直らなかったが、僕は丁寧に御礼を言った。結局4時間かかってしまったが、彼らはその間中ずっと、何とか携帯を直そうと躍起になり、努力をしてくれたのだ。その姿勢に心を打たれた。それでいて、料金を請求してくることはなかった。
今日、この3つの経験を通して、僕はこの国が将来アフリカをリードしていく国になる予感を感じた。少なくともキガリには、ただお腹を膨らせるのではなく、美味しいと感じられるものを提供し、短くするだけではなく、カッコ良く散髪をし、技術の集大成であるスマートフォンを何とか直してやろうと立ち向かう素晴らしい人々がいるのだ。
もちろん、日本のスタンダードからしてみれば、ちっぽけなことかもしれない。日本だと料理が美味しいのは当たり前だし、髪の毛も言った通りに切ってもらえるのが当たり前。スマホもきっちり時間通りに修理して返って来るのが常識だ。僕たちは往々にして、そういった常識を押し付けたがる。日本と比較して、ルワンダは劣っている、とか、おもしろくない、だとか、娯楽が少ない、だとか。
だが、そういった比較は無意味である。ここに居ては、彼らが基準なのだ。僕たちは、彼らの常識に合わせるしかない。その中で、ちょっとしたものが美味しいと感じられたり、出来上がった髪型をカッコイイと思えればそれで良いではないか。それ以上求めても、こちらが勝手にがっかりするだけであって、彼らは何も悪くない。
これから、もっとルワンダのことを知りたいと思った。