よく留学の話をしているときに、留学先で友達になりたい人はどんな人かと聞くと、みな現地のアメリカ人やイギリス人、またはオーストラリア人など、いわゆる英語のネイティブスピーカーの白人という答えが返ってくる。ここでアジア系やインド系という答えをする人はまずいないと言って良い。しかし、留学から帰ってきた人に話を聞いてみると、おそらくは6~7割くらいが白人とうまく人間関係を構築することができずに、中国、台湾、韓国や他の東南アジアの学生と仲良くなったという話をしてくれる。では、何故このようなギャップが生まれるのだろうか。今回は、この問題の一面である「何故白人にポジティブなイメージを抱くのか」という点について考えてみたい。
よく白人に対するポジティブイメージとして取り上げられるのが広告やTVコマーシャルである。留学を宣伝するポスターや雑誌などで日本人と一緒に笑顔で写っているのはおそらく白人が中心で、そのまわりに若干の多人種、特にラテン系やアラブ系がいるという構図だ。間違っても全員アジア系で、どれが日本人なのかわからない!なんていう広告は今まで目にしたことがない。このような写真と共に「アメリカで成長しよう」などと書かれていれば、アメリカ留学でのイメージは白人と友達になることと思ってしまっても仕方がない。
しかし、本当にこれだけでこんなにたくさんの人とイメージが作られているのだろうか。広告はあくまでも広告であり、写真から得られる情報なんて限られているし、写真で白人と日本人が写っているのを見て、即座に自分もアメリカに行けば白人と友達になると思い込む人ばかりではない。では、その他にある理由は何だろうと考えてみたときに、やはり広告やTVのような実体験を伴わないものではなく、日常生活や実体験の中に答えが隠れているように思えてくる。ズバリそれは英語の学習環境である。中学校、高校、大学や英会話スクールでの英語の授業を思い浮かべて欲しい。最近では政府の方針で日本人でないアメリカ、イギリスなどからの教師を迎え入れて授業を行っている。しかし、別に彼らが文法や長文読解を厳しく教えるのではなく、役割としてはオーラルコミュニケーションと言われていた科目の中で雰囲気を盛り上げたり、生徒のペアワークに入って会話を盛り上げたりするという役割が中心であるように感じられる。このようにいわゆる「盛り上げ役」のような役割を担っているので、そこから「明るい」とか「フレンドリー」などのイメージが湧きあがってくるのではないだろうか。また、英会話スクールにしたって、英語を教えるということが第一目的ではあるが、その他にも仕事で疲れた社会人を楽しませるというある種のエンターテイメント的な性格があることは否定できない。そこでも英会話スクールの講師は授業を盛り上げたり、楽しませるために「盛り上げ役」の役割を担うことで生徒にポジティブな印象を与える。このように日本の教育機関で彼らが担っている役割の中に「盛り上げて楽しませる」ということが入っているので、私たちのポジティブイメージは作られるのだと思う。
しかし、これだけではない。今までは「明るい」、「フレンドリー」の説明であったが、その他にも「いい人」や「親しみやすい」などのイメージも作られるようになっている。その点についても説明を加えたい。どういうことかというと、先ほど説明した外国人教師が担っている「役割」だけではなく、彼らの「性格・性質」もその理由になっている。では、これを考えるにあたり、一つの質問を提示したい。「日本に、語学教師として来日し、生活したいと思うのはどんな人々か?」 この問題の答えを考えるとおのずと理由が見えてくるのではないだろうか。まず、語学教師ということころに注目したい。これは日本人にも当てはまる特徴だと思うが、語学教師になりたい人、もしくはなる人というのは、一般的に人とコミュニケーションすることが好きで、教師として生徒の成長を見守るのが好きな人ということになる。偏見的なイメージで申し訳ないが、理系のエンジニアや文系のファイナンス関連の仕事をしている人と比べて、どちらに話しやすいとか、親しみやすいというイメージを抱くだろうか。おそらく語学教師のほうだと思う。つまり、語学の教師をしているという時点で彼らは他の人々よりも話すことが好きで、世話好きであるという可能性が高い。
もう一つのキーワードは、日本に来ている ということだ。つまりこれは何を意味しているのか。例えば語学教師になって海外で教えるという選択肢を取った場合に、その選択は別に日本だけではない。アジアでいうと、韓国や中国、台湾香港も多くのいわゆるネイティブ教師を受け入れているし、アジアだけではなく、世界各国に活躍の場は広がっている。その中でも、わざわざ日本を選んでやってきたということは、少なくとも日本に対してマイナスイメージは持っていないことになるし、日本が好きだということは大いに考えられる。自分が好きな国の国民に対して英語を教えるということになったときに、自分の嫌いな国民や中立的な感情を抱く国民に対するよりもよりフレンドリーになったり、交友関係を築こうとするのは自然だと言える。
つまり、これらの点から何が言いたいかというと、日本に語学教師として来る白人教師たちは、もともとコミュニケーションが好きで、かつ日本や日本国民に対してポジティブな感情を持っているということである。これを忘れてはならない。ここから私たちは彼らに対して親しみやすい、フレンドリー、話しやすいなど、一連のポジティブイメージを抱くようになるのだ。そしてそこから一般化が起こる。「アメリカ人やイギリス人はとてもフレンドリーで、簡単に友達になったり、話せるようになり、日本が好きだ」 しかし、これは無理もないことだ。なぜなら国内で英語を勉強している限り、接する、リアルなアメリカ人やイギリス人といったら、語学教師が多いのだから。語学教師ではなくとも、多くの場合、日本に来ている以上は、日本が嫌いではないという部分は当てはまっていると思う。
では、ここからが本当の主張なのだが、全てのアメリカ人、イギリス人が日本好きの語学教師なのか?ということだ。当たり前のことだが、日本に、語学教師として来日するアメリカ人、イギリス人の数など、全体から見ればごくごく少数である。そのほかの多くアメリカ人、イギリス人は語学教師でなければ、親日家でもないのだ。この事実を忘れて、日常的な経験と広告やTVのイメージに頼って、私たちは間違った一般化をするようになる、というのが私の考えである。当然、こうような日本国内だけで作られたイメージを持って留学すると、留学先で出会った現地の学生が、日本にいた語学教師のように親切かつフレンドリーにふるまってくれないことに気付く。そこで私たちは思う、「あれ、アメリカ人はこんなはずではない!」しかし、現実は厳しい。運よく親日家で面倒見の良いアメリカ人に出会えればそのポジティブイメージが持続するだろうが(最初に述べた2~3割の人達)、その他はそういった国内でのイメージと現実のギャップに苦しんだ後、彼らと交友関係を築くことを諦めて、より話しやすいアジア系の学生に友人関係をシフトさせていくことになる。これが白人に対するポジティブイメージのからくりなのではないかと今の時点では考える。