来る11月4日は一年で何番目かに重要な一日だ。



そう、その日は寮のメンバーでソフトボール大会に出るからだ。



毎年恒例なのだが、例によって空を見上げると晴天が広がっている。



日本中の晴れを東京が独り占めしたかのような青である。




7時に起床して東伏見グラウンドへと向かう。



もう今年で3回目になる。



初めて出場した2008年のソフトボール大会のことが思い出される。



あの日もこんな晴れた日だった。





東伏見に到着すると、学生が大勢集まっている。



みんな自分たちのチームより強く見えてしまうから不思議だ。



今回も同じソフトボールサークルを2つのチームに分けて出場したのだが



私は強いほうのチームに入るか入れないかぎりぎりのラインだったので



ショートを守りたいという思いから2軍として出場した。




試合は10時15分から。



いつも起きる時間から試合が始まる。



今回は後攻だ。



去年はここでいきなり7点くらい取られて戦意喪失したが



今度は外野を固めたことからフライが取れて0点に抑えることができた。



そして、1,2番が惜しくも凡退した後、3番、ショート豊永。





様々な思いを持って打席に入った。



去年勝てなくてとても悔しい思いをしたこと、



夜寮の屋上にて素振りを繰り返したこと、



練習で突き指したり、目にボールが直撃したことなどだ。



それらはすべてこの試合のためにあると思った。



見渡すと一面ソフトボールをやっている光景が広がっている。



大きなグラウンドを4つの区画に区切ってやっているので、



ところどころ守備が交錯している。



これがこの総長杯のいいところだ。




いざ球がきた。



ちょうどよい高さだ、私は思い切り振りぬいた。



しかし、芯には当たらずバウンドの高いサードゴロになった。



しめたと思って全力疾走した。



ここ1年で一番全力疾走だったと思う。



結果は内野安打。



その回は点が取れなかったが、3回の裏に1番打者が3点ホームランを打ってリードした。





しかし、相手も全員が野球経験者のチーム。



そう簡単に勝たせてもらえない。



私たちは安打を許し、少しのエラーもした。



気付くと5-3になっていた。



回は6回裏。



この回で2点取らなければ負けは決まってしまう。



つまり、私の「最後の秋」が終わろうとしているのだ。



最初の2人が凡退して2アウトランナーなし。



打者は2番サキちゃん。



私はここで終わりかなと思った。



もしここで終われば3回連続自分の打席の直前で試合が終わることになってしまう。




頼む、サキちゃん!



何とか塁に出てくれ、絶対俺が打つから。



するとその思いが通じたらしくてサキちゃんはセンター前ヒットを打ち私に回ってきた。




これがいよいよ学生時代最後のバッターボックスになるかもしれないことは察しがついていた。



せめて全力でやろうと思った。



後でビデオを見てわかったのだが、このときの自分はすがすがしい顔をしていた。



今まで見たことのないいい顔だった。



それに安心した。



ああ、俺はなんだかんだ言って楽しんでいたのだと。



打球はまたしても3塁線に転がった。



3塁手が一瞬もたつくのが見えた。



私はもう体が壊れてもいいというくらいの全力疾走をして



ファーストベースを駆け抜けた。



判定はセーフ。



またしても内野安打だった。



結局そのあとが続かず試合は5-3で幕を閉じた。



しかし、終わってみて参加してよかったと思う。



この大会がなければ寮のみんなでに一つになって目標に向かうこともなかっただろうし



日々の努力もなかったわけだ。





ビデオに写っている清々しい顔でバッターボックスに入る自分の顔。



何度見ても「参加してよかった」と思えるいい顔をしている。



ソフティーAチームのメンバー。

開の右が4番金崎、スーツで坊主の監督鈴木、茶髪の女の子がサキちゃん、メガネで黒い子が堅守大澤くん。