(続きから)
しかし同時に私はとんでもないことになったと思った。


病院に入院しているということは自分が誰かがバレているということではないのか・・・


あ、そういえば財布がない・・・


たしか持っていたはずだ


車にぶつかったときに落としたということも考えられる。


しかしもっと恐ろしいのは財布がそのままポケットに残っていて病院のどこかにあるということだ。


その時点で私の身元はわれていることになる。


すると母に連絡がいき、心配してすっ飛んでくるだろうが


いずれ自分が2人いるということがバレてしまう・・・






ふっと目を泳がせた私の目に狭い病室には不釣り合いなほど大きい掛け時計が目に入った。


その針は不気味なほどに正確なリズムで時を刻んでいる。


夜中の3時を少しまわったあたりだった。


私の頭の中にふとひとつの考えが浮かんだ。


それは酷く非人間的で恐ろしさ極まりないものだった。


自分でその考えを生み出してしまったことさえ後悔したほどだった。


しかし一方で残酷で冷静に考える自分もいる。




私はもう一度その計画をゆっくりと頭の中で練りなおした。


どんなに残酷に思えてもそれは唯一の光に思えてきた。



30分後、私は病院の近くの公園にいた。


11月というのにシャツは汗びっしょりになっていた。


少し離れてみると私のいた病院は異様な光を放つ要塞のように東京の町に浮かび上がっていた。




話を戻そう。


まず点滴の針を引き抜いた私はそっと外の様子をうかがった。


白熱灯が1つおきに点灯する病院の廊下は恐ろしいほどに静まり返っていた。


非常口はすでに確認済みだ。


これは運命かと思うほどに体の傷は少なかった。


おそらく手の指の骨が1本折れている程度だと思う。


よって何の障害もなく非常口までたどり着くことができた。


問題は1階まで下りてきた時のことだ。




私が裏口に通じる角を曲がるのと、警備員のライトが私の顔を照らしたのはほぼ同時だった。


目がくらんだ。


しかし、ここで捕まってしまってはもとも子もない。


私は走ったとにかく走った。


どれくらい走ったかは覚えていない





気づくとこの小さな公園にたどり着いていた。