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ヒツジとサボテン

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第3章 ⑥ ~意思~
                                       written by 未


 

  第3幕 ⑥ ~意思~
 
 
 

「それからユフィさんを仮眠室に案内しました。件の隊員の話を聞いたのがこの後です。話を聞き終えて彼を帰らせ、事後処理の指示を進めていると、目を覚ましたユフィさんが怒鳴り込んできました」

     *     *

「リーブ!」
「おはようございます、ユフィさん」
「シェルクはどこ!」

 部屋に入ってきたユフィはそのままずかずかとリーブの席まで歩いてくると、勢いそのままにリーブの胸倉を掴み詰め寄った。

「撃たれたってどういうこと?」
「……それは、今日の話でよろしいですか?」
「は?どういう意味?」
「いえ」

 昨晩、シエラ号の中でシェルクは撃たれた。その詳細は先ほど撃った本人から聞いた通りだ。が、ユフィが言っているのはそのことではなかった。

「聞いたぞ。目を覚ましたシェルクが、WROの隊員に撃たれて、そのままここから出て行ったって。どういうことだよ!」
「撃たれて出て行ったのではありません。出て行く途中で撃たれたのです。安心してください。命中していないのでシェルクさんに怪我はありません」
「そういう問題じゃないだろ!なんで撃つんだよ!あの子は敵じゃない!」
「……そう信じ切れる人間ばかりではないということです」

 そして、割り切れる人間ばかりでもない。
 お茶を濁すような言葉に苛立ったユフィはリーブを突き飛ばして部屋を出て行こうとした。

「待ってください」
「待たない。シェルクを探しに行く。一人でいたらまた撃たれるかもしれないだろ。私が見てないといけないんだ。クラウドとも約束したんだ」
「今は大丈夫です」
「なんで分かるんだよ」
「ケット・シーが見ています」

 ユフィの足が止まる。リーブは言葉を重ねる。

「今は安全な場所にいます。ユフィさん。あなたには話しておかなければならないことがまだあります。少しだけ私に時間をください。そして、その後はあなたにシェルクさんを見守って頂きたい」
「見張れの間違いだろ」
「そんなこと、私もクラウドさんも思っていませんよ」

 やや落ち着きを取り戻したユフィをソファに促して、リーブは話し始めた。

「まず、今朝の話をしましょう。と言っても昼前のことですが。シェルクさんは目を覚まして自力で治療装置から出ました。そしてそのまま部屋を出て、真っすぐにエントランスを目指しました」
「それで、どこに行ったんだよ」
「今はシャルアさんの病室にいます」

 それを聞いてユフィはほっとした表情を浮かべた。昨日はなかなか病室に向かおうとしなかったシェルクがシャルアを慮っていると思い安堵したのだろう。

「問題はその前です」
「撃たれたんだろ。アタシがついてれば」
「いえ、もっと前です。シェルクさんは、真っすぐにエントランスを目指したのです」
「当たり前だろ。シャルアのとこに行くのに回り道する必要なんてないじゃん」
「シェルクさんは昨日も撃たれています」
「……は?」

 固まるユフィに、リーブは昨晩の出来事について語った。

「……じゃあ、なに?リーブはWROの隊員がまた撃つかもって分かってて、それなのにシェルクを一人でふらふら歩かせてたの?待ってよ、意味が分かんないよ」
「そこに関しては、万全とは言えずとも防衛措置は講じていたということでご容赦頂きたい。シェルクさんを危険に晒したことに違いはありませんが、どうしても確かめる必要があるのです」
「なにそれ?殺されるかもしれない危険を冒してまで何を確かめる必要があるの?」
「シェルクさんの意思です」
「意思?」
「はい。シェルクさんは真っすぐエントランスに向かいました。回り道もせず。身も隠さず。人目も憚らず」
「だから当たり前だろ。あの子は敵じゃないんだ」
「それでも昨晩実際に撃たれているのです」
「撃った奴が悪いに決まってるだろ」
「良いか悪いかの話ではありません。リスクの問題です。あの姿で事情に疎い者の前に出れば自分の身に危険が及ぶ可能性があることをシェルクさんは理解している」

 少し休んだとはいえ未だ意識が朦朧としていて判断力が欠如しているから、というのが希望的観測ではあるのだが、望みは薄い。

「今朝、発砲した者はシェルクさんのことを知っていました。なので、動転して発砲したものの過ちにすぐに気が付き、慌てて駆け寄ってシェルクさんの無事を確認し、何度も謝罪しました。それに対してシェルクさんははっきりとした口調で言ったそうです。『気にしないでください』そして『あなたは悪くない』と」
「……どういうこと」

 ユフィが問うがリーブは答えない。発砲したことを咎めないと解釈することはできる。けれど否応なしに推測してしまう。敢えて省かれたのかもしれない言葉を。すなわち。

 もし私を撃ち殺していたとしても――。

「……少なくとも、冷静な判断力を有した状態とは言い難いでしょう」
「だったらなおさら、どうして出て行くのを止めなかったんだよ。そんなならあの部屋で治療を続けさせておいた方が良かったんじゃないの」
「断定できなかったからですよ。果たして閉じ込めるだけで十分なのか」
「なんだよ、それ」
「決めつけて誤った刺激を与えるのは危険だということです。だから監視と護衛を兼ねて気付かれないようケット・シーに尾行させています。幸い、ここを出た後は積極的に危険に身を晒すような行動はとっていませんし、自らを傷つけるような行為もしていません。ただ真っすぐに病院へ向かい、着いた後は人目を避けてシャルアさんの病室へ忍びこんだようです」
「それならリーブの取り越し苦労ってことでしょ」
「それなら良いのですが、もしそうではなかったら」

 ユフィの顔が曇る。

「何かあったら私はシャルアさんに顔向けできません。そこであなたに協力を依頼したい」
「アタシに?何を?」
「クラウドさんからの依頼と同じですよ。シェルクさんから目を離さないで頂きたい。期間は明日からシャルアさんが退院するまで。今日のところはこのままケット・シーをつけますので、身体を休めてください」
「アタシにケット・シーの代わりをやれってこと?」
「そうです。ケット・シーではいつ露見するか分かりません。いま気付かれていないのは偏にシェルクさんの注意力が低下しているからに過ぎません。あなたの協力が必要なのです」
「……イヤだ」
「ユフィさん」
「友達の妹を陰から見張れなんて依頼には協力しない」
「必要なことなのです」
「絶対にイヤだ!アタシは!」

 ユフィは立ち上がってリーブを睨みつけた。

「シェルクから目を離さない。それは分かった。けど、それ以外はアタシのやりたいようにやる」

 上から真っすぐに自分を見下ろすユフィの目を見て、リーブは深く頭を下げた。

「ありがとうございます」

     *     *

「その日はシェルクさんがこの病室から出ることはありませんでした」
「翌日からはユフィが?」
「他にも数名に協力を仰ぎました。それぞれから話は聞いていますので、そちらもこれからお話しします」
「頼むよ。ああ、その前に教えてくれ」
「なんでしょう」
「ヴィンセント・ヴァレンタインはどこにいる?」
「目下、捜索中です」
「そうか」

 片手落ちだな、と呟いてシャルアは軽く唇を噛んだ。

 

 

 
                                         to be continued
 
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