1分で読めるショートショート&ショートストーリー 『エキストラ人生』 -1031ページ目

未来カプセル

最初に、校庭に埋められている「未来カプセル」を開封しようと、
クラスのみんなに持ちかけたのは、他ならぬ俺だった。

 

みんなには黙っていたが、
俺は、どうしても
クラスメイトの奈美との、ゆく末が知りたかったのだ。

 

このままずっと、ラブラブを突き進むのだろうか?

それとも、いつか別れるのだろうか?

 

もしかしたら、
「20年後の俺」が埋めた未来カプセルの中に、
将来のヒントになるものが隠されているのかもしれない。

 

そう考えると、いてもたってもいられなかった。


クラスの中でただ一人、
石田だけは「未来を知ってどうなるんだ?」と反論したが、

俺は、学級委員の権力をここぞとばかりに利かせて、
奴の意見を無理やりねじ伏せてやった。

 

 

未来カプセルの中身は、意外とシンプルだった。

 

宙に浮くスケボーや、タケコプターなど、
「いかにも未来からやってきました」というような類のものはどこにもなく、

代わりに入っていたのは、「20年後の自分」たちが書いた手紙だけ。

 

俺はその中に、
『本木 忠志様』と書かれた、白い封筒を見つけた。

 

「俺の筆跡ではないが。誰からだろ?」

高まる鼓動を抑えながら、それをつかみ封を切った。

 

『忠志さん、私はあなたの妻の奈美です』

 

いきなり手紙の冒頭から、
36歳になった奈美が語りかけてきた。

 

俺たち、やっぱり結婚しているんだ!やった!

 

『これを読んでいるあなたには酷な話ですが、事実を伝えます。

あなたは、私が運転する車の事故が原因で、
すでに亡くなっています。

 

本当にごめんなさい。

私はこれからも、一生この罪を償ってゆきます。
忠志さん、あなたは私と一緒になっちゃダメよ』

 

くずれそうになる俺を、奈美が支える。

 

「…ちょっと、ココ見て」
奈美は、自分宛てに書かれた手紙を俺に見せた。

 

『あなたは、とにかく自動車免許を取らないで。
忠志さんを、事故に巻き込んでしまうわ』

 

奈美の手紙には、
事故の詳細が書かれた新聞記事も付けられている。

 

 

「私たち、どうすればいいんだろう?」

 

その時、俺が持っていた封筒から何かが滑り落ちた。

 

拾い上げてみると、

 

小学生ぐらいの子供2人と奈美、そして「生前」の俺が、

仲よく微笑みかけている写真だった。

 

幸せな未来は、
短期間だが確実に存在しているのだ。

 

未来の奈美が、「一緒になっちゃダメ」と伝えながら、
この写真を同封する意味を、俺は必死になって考えた。

 

未来の奈美も、
本心では揺れているんじゃないだろうか?


事実を伝えた上で、俺に選択させようとしているのでは。
あぁ、難しい。頭を抱え込む。


 

「なあ、未来を知ってみてどうだった?」
封筒をチラつかせながら、石田が話し掛けてきた。

 

「ボクは絶対開けないよ。
よけいな迷いが生じるから。

 

 

タイムカプセルってのは、
過去から現在に届けられるからいいんだ」

 

 

 

くやしいけれど、
奴の言葉は、今の俺にはズシンと応えた。