「・・・僕は・・・皆を守りたいんだ・・・!」


そう言っているアレンは少し悲しげな顔をしています。
「今、この世界は魔物が溢れかえってる。

 最近は道にも出てきて、隣町に行くのも難しいんだ。

 それでも、ここは田舎だから、都会から仕入れてるものもいっぱいあるから、行かなきゃいけない。」

それは、悲しく、厳しい現実でした。

「だから、僕が強くなって、皆を守るんだ!街の外を歩く人の護衛をするの!

 そしたら、皆安心して町の外を歩けるでしょ?」

その少年の無垢な瞳に、エタさんは少し懐かしさを感じました。


「そう・・・だな・・・・。」
「え?!いいの?!」

輝くアレンの顔に、かつての自分を見てしまったエタさんは、了承するしかありませんでした。


「あ、あぁ・・・。そんなに言うんならな。但し、修行は厳しいぞ?」

わかってるよ!そう嬉しそうに笑うアレンに、エタさんは、複雑な表情で答えました。


「じゃあ、明日から修行するぞ。明日の朝、村の入り口集合だ。」
「はーい!」
その姿はまるで・・・・・・


「エタさん!エタさん!剣術教えてよ!」
その少年に、エタは頷くことができませんでした。

自分の二の舞にさせてはいけないと思ったからです。

しかし、村の皆を守りたい、その夢を語る姿を見たとき、自然と頷いていたのでした。


その姿はまるで・・・・・―かつての自分―だったからです。


 しかし、我に返ったエタは、少しだけ、ほんの少しだけ後悔しました。

もしかすると、自分と同じ道を歩んでしまうと思ったからです。
 
 悲しい悲しい破壊の道に・・・・・・

 ですが、もう引き返すことはできません。

かすかな希望を信じて、アレンを強くするのみでした。
(もしかしたら・・・。アレンなら、伝説を変えることができるかもしれない。)


もし、アレンが大人になって道に迷った時のために、
孤独になってしまった時のために、
書き残そう。
この村に。
エターナル・シルバーの真意と、
進むべき道と、
信じるべき者の存在と・・・・
…俺の夢を。

アレンには、両親がいて、妹がいました。毎日がとても楽しくて幸せでした。

しかし、森には魔物がはびこり、ついには道にまで出てくるようになったのです。

 アレンの夢は、魔物たちから家族を守ること。

そのために、アレンは力を求め、毎日修行をしたのです。


 ある日、村に剣士が来ました。村の皆はその剣士を怖がりました。

その剣士が何者か知っていたからです。

でも、アレンだけは違いました。剣士の正体を知らなかったわけではありません。

この町には、その剣士にまつわる伝説があったからです。

それでもアレンが剣士を恐れないのは、その剣士に憧れていたからです。

伝説の"エターナル・シルバー"に。

まだ小さくて、伝説の意味がよくわかっていない、というのもあるかもしれませんが
・・・。


 エタさん―アレンは剣士をエタさんと呼びます―が来てから、アレンは毎日エタさんのところへ行きました。

村の人たちからの反対を押し切ってです。

それは、エタさんに剣術を教えてもらうためでした。


毎日毎日通い続けましたが、エタさんは一向に教えてくれません。

でも、アレンはあきらめずにエタさんのとこへ通い続けました。

そんなある日。

「エタさんエタさん!伝説の剣術を教えてよ!!」
これで何回目かの大きな声。

その一字一句も変わらないアレンの言葉に呆れながら、エタさんは答えました。


「だから言ってるだろう。ダメなんだって。村の人からも反対されてるんだろ?」
「そうだけど…。でも僕は怖くないよ?」
「…そういう問題じゃ、ないんだ…。」

エタさんはどこか寂しげです。

しかしアレンはそれに気付かず、エタさんを説得し続けました。
「エタさん!いいでしょ!教えてよ…。」
しつこいアレンに、エタさんはため息をつきました。

「はぁ・・・。なんで、お前はそんなに頼むんだ?何故、この技を知りたい?」


アイシャ村。

不意に占い師の言葉が聞こえました。


(アイシャ村…。……ッ!)


ここはどこですかッ!?

ハッ!っと何を思ったのか、慌てながら聞くアレンに、占い師は答えました。

アイシャ村から歩いて3分くらいの所ですかね。いえ、正確に言うと…


それを聞いて、アレンは青ざめました。

もういいです!ぼ、僕はここに来てはいけないんだ!


…思い出したんですね。

嬉しいような、でもどこか寂しげな顔をしている占い師のその言葉を聞く前に、アレンは走りだしました。


 占い師の側を離れると、広場が視界に入りました。

さっきですら重く感じた空気が、今ではありえないほど重く感じます。

あの立ち並ぶ石たちがアレンをじっと見つめてくるのです。アレンは急いで広場を出ました。


 広場を出ると、あの一本道がありました。

左に行けばさっきの村に戻ることになり、右に行けばアイシャ村。正面は深い森。


 一拍の間を置いたのち、アレンは走りだしました。残された道はただ一つ。


真っ正面の森を突っ切ること。


 アイシャ村には当然行けない。さっきの村にも…噂が広がっているかもしれない。

 アレンは走りました。

奥へ奥へ、道なき道を、がむしゃらに。木の小枝に、茨の刺に、傷つきながら。小石に躓き、転びながら。


 どれだけ走ったでしょう。アレンはふと我に返りました。向こうの方にキラキラ光るものが見えたのです。

(…あれは何だろう?)


行ってみると、深い森の奥なのに、小さな広場があり、真ん中には噴水がありました。

(光っていたのは水か…。)

アレンは噴水に手を伸ばしました。水はとても冷たく、気持ちよかったので、アレンの心は少し落ち着きました。



 そして、過去を少しずつ思い出していました。

(昔は僕にも家族がいた。毎日がとても楽しかった。)

だけどある日、事件は起きた。)


(僕には小さい頃、夢があった…。)


夢を追いかけ辿りついた場所は、見知らぬ所だった。


夢を追いかけた結果は、望みもしない結果だった。


両手を真紅に染め、目の前は真っ赤な海。


夢を実現させるために、戦い続けた結果でも、この自分が生きた証だとしても。


受け入れることはできないんだ…。


夢なんて存在しなかった。だからこそ。



夢を追いかけ続けた道は、跡形も無く消え失せて。

夢を追いかけた末路は、ただ立ちつくす自分だった


夢は・・・・・・守ること。


もう戦わないと決めた。失うものは何もない。


生きる意味すらないのに、死ぬことはできなくて、何か計り知れない大きなものを恨んだ。


自分の運命を、この現状を。


あの澄みきった大空を、何も無かったようにまわり続ける月を、自分を照らす太陽を。


自分を生かした神を、そして自分を。


恨んだ。


それでも、何も変わらない。


結局在るのは、立ちつくす自分だけだった。


 旅人は考えました。

(僕の過去ってどんなのだろ…)


あなたの名前は何?」

突然占い師が聞きました。


僕の…名前?」

(…なんだろう)


 旅人は自分の名前を知らなかったのです。

旅人が考えれば考えるほど、一つの事実が浮かび上がってきます。


それは、『記憶がない』ということ。

過去も、家族も、そして名前さえも思い出せない。何故かもわからない。

(僕は…一体何者なんだ…)

 頭を抱え込んで考え続ける旅人に、心の奥深くから誰かの声がしました。

アレン・ジーク


(・・・。)

首をかしげながらも、旅人はその名を口にだしました。

「アレン…。…アレン・ジーク…?」

そうです。

(あってた・・・。)

あってたという安堵と、なぜあってたのかという不安が交差する旅人―アレン―に、

占い師の言葉が続きます。


「別称、(EternalSilver)エターナル・シルバー。


…エターナル?…シルバー?

別称まであったのかという驚き。

そしてその言葉の意味がわからず、オウム返しのように呟きました。

…ええ。永遠の白銀。つまり、金色には輝けないってことですよ。

え…?

まだ思いだせないのですか?

意味がわからない。

(…エターナル・シルバー。……永遠の白銀。…金色には輝けない。…アレン・ジーク。)


 アレンは一生懸命考えました。

でもいくら考えてもわかりません。

一つ一つの言葉には引っかかるのですが、あと一歩のところでわからないのです。



アイシャ村。

不意に占い師の言葉が聞こえました。

 行く街に占い師がいれば、旅人は必ず会いにいきました。

僕が探しているものは何ですか?」

答えられる占い師はいませんでした。

それは、占い師と言われるそのほとんどが、ただの『相談役』のようなものだったからです。


 旅人が世界を一周したんじゃないかというほど歩いた頃、また占い師の噂を聞きました。

早速、旅人はその占い師の元へ向かいました。

さっきまでいた村から、ほんの少し歩いたところにある広場へ。


 その広場は、まるで誰かを追悼しているような、重い空気が漂っていました。

広場の周りは森ですが、その森と広場の境目に、たくさんの墓碑のような石が立ち並んでいます。

その一つの石の近くに、その人はいました。旅人は尋ねました。

「あなたが、占い師さんですか?」

その人は今まで俯いていた顔をゆっくりとあげ、答えました。

「私にはわかりません。」

「へ?」

その人の予想もしない言葉に、旅人はびっくりしました。

「わかりません、あなたが何故旅をしているのか。さて、聞きたいことは何ですか?」

「あ、あぁ、えーと・・・」

旅人はその人の言葉を不思議に思いながらも、尋ねました。


僕が探しているものは何ですか?」


その人―多分、占い師―は答えました。


・・・ではないですか?」

旅人は目を見開きました。

「……光…?」

何故かがわからないからです。


何故ですか?」

旅人は聞きました。

占い師は淡々と答えました。


それは、あなたが心に闇を持っているからです。

闇……?」

旅人はますます意味がわからなくなりました。

自分が闇を持った覚えはどこにもないからです。


どんな闇ですか…?」


その問いに、今度は占い師驚き、旅人に問いました。


あなたは何も覚えてないのですか自分の過去を。

僕の…過去……?」