「出張のため、飛行機や新幹線に乗ると、急激に不安感が増して心臓がドキドキして、息が苦しくなる」-こういった訴えで駐在員のSさん(40歳代、男性)が受診されました。昨年のことです。最終診断はパニック障害

 

心電図や採血といった通常の検査では異常はみられませんでした。Sさんは普段は元気で何の支障もなく仕事をされています。

 

 

パニック障害はとてもよくある病気です(100人中、年間に1人が発症)。わたしが上海で仕事を始めて、すでに何人もの患者さんにお会いしています。時々しか症状が出ない軽い症状でしたら内科で対処できます。ただし、頻繁に悪化する場合は心療内科や精神科の先生に治療をお願いすることになります。

 

古くはダーウイン、最近では長嶋一茂さん(元野球選手)などもこの病気をもっています。長嶋さんは病気の克服について手記も出版しています。

 

Kinki kidsの堂本剛さんのソロアルバム、ROSSO E AZZURROのジャケット(2002年発売)。堂本剛さんは、自分がパニック障害をもつことを公表していて、このアルバムには自作のPanic Disorder(注:パニック障害のこと)という曲を収録している。画像はこちらから引用。

 

 

上海でよく遭遇するのは、新幹線や飛行機に乗ると、動悸や息切れ(=自律神経症状)が急に悪化して、不安感が強くなる(=パニック発作)という症状。

 

「なりそう、なりそう」という前兆を感じる場合もあれば、前兆がないこともあります。自宅で一人の時に症状が繰り返して出るという方もいました。

 

この病気は脳内の扁桃体を中心とした機能不全状態が病気を起こすと言われていますが、詳しいことは解明されていません。

 

患者さんたちは、発作さえなければ普段は元気な方です。ご本人にはどうしてこうなるのかという自責・自己嫌悪が生まれやすく、他人にはあのひとはサボっているようにみえるという無理解・誤解が生じる場合がよくあります。ご本人には責任のない症状がでているわけですから相当つらいですね。

 

 

治療には2つの方法がとられます。

①抗うつ薬や抗不安薬、時に漢方薬による薬物療法

②認知行動療法

 

抗不安薬は効果が出るのが速い印象があり、患者さんも一度使用するとこの薬をまた希望されることがあります。わたしもよく処方します。ただし時々使うのにはいいのですが、連用や誤った使い方では依存性ができて薬をやめられなくなったりするので注意が必要です。

 

抗うつ薬(SSRIと呼ばれる薬剤群がよくつかわれる)漢方薬は、使い方を誤るとかえって症状が悪化するので、専門の先生に処方をお願いするほうがいいと思います。他院で漢方薬が処方され、パニック障害が改善せずむしろ全身倦怠感が出現し、漢方薬による高度の肝障害と当院で判明して帰国された患者さんがおりました(漢方薬がすべて危ないという意味ではありませんし、非漢方薬なら肝障害が出ないという意味でもありません。念のため)

 

 

パニック障害はつらい病気です。特に、単身赴任で相談する家族などがいないときは、自分で抱えずに医療機関で相談してください。ただし、ある程度じっくり話をきいてもらえて、適切な治療方針を立ててもらえるところを探しましょう。

 

冒頭のSさんは、診察の最後に「弱みをみせるようで、いままで上司にも誰にも相談できなかった。症状を話してすっきりしました。また元気になれそうです」とおっしゃって帰られました。

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付記:この病気については厚生労働省のメタルヘルスのページにわかりやすい解説があります。