ちょっと前ですが、白髪の原因となる遺伝子が発見され、論文発表されたとの話題になっています。報道されたニュースの記事はこちら。以下引用。

 

> 【AFP=時事】髪の色つやが失われる原因となる遺伝子を突き止めたとの研究結果が1日、発表された。今後、髪染めは、白髪を食い止めるための唯一の選択肢ではなくなるかもしれない。

> 今回の研究で分かったのは、白髪への変化において役割を担っているのが遺伝子IRF4だということ。同遺伝子については、これまでの研究で、髪の色に影響を及ぼすことが知られていた。

> 研究チームによると、遺伝子IRF4の正確な機能に関する研究を重ねることで、白髪化を遅らせたり、さらには食い止めたりする技術や治療法の開発につながる可能性があるという。(以下略)


このニュースのもとになった研究結果の論文はだれでもアクセスできるので読んでみました(Adhikari K, et al. Nature Communications 7: 10815)。

GWASその他の方法で、髪の毛のみならず、眉毛が一本になる遺伝子のことなどが、包括的に調べられて面白いです。対象は6,000人以上のラテンアメリカ人。

下図は上記論文から引用しました。

この図の意味ですが

 

・上に毛の性質(左から、①毛の性状、②ヒゲの濃さ、③眉毛の濃さ、④一本眉毛、⑤白髪化、⑥毛の色、⑦禿げ)があり、関連する遺伝子に太線でつながっている。線の行き先の遺伝子は複数の場合がある。


・遺伝子の名前は大文字で書かれ、下段に1から始まる染色体番号があり、遺伝子が存在する染色体番号がわかる。


・染色体番号の上に「点」で形成される、あたかもビルディングのように見えるものはその染色体上にある遺伝子の関連を示し、上にあるほど関連が強い。またその点の上に小さいrsで始まる番号は特定のSNP(遺伝子多型。染色体上の位置を示す目印のようなもの)を示す。

 

> 例1:眉が一本であること(mono-brow)にはPAX3という遺伝子が関係し、PAX32番染色体の後ろの方にある。PAX3はrs2218065と名付けられた遺伝子多型の場所(染色体上の目印のようなもの)の近くに存在する。点の高さを見ると関連は中くらい。

> 例2:白髪(hair greying) にはIRF4という遺伝子が関係し、IRF4は6番染色体の始めの方にある。IRF4はrs12203592と名付けられた遺伝子多型の近くに存在する。点の高さを見ると関連は結構強い。

この論文と報道で注意すべきは下記です。


1. 対象がラテンアメリカの人で、アフリカ人、ヨーロッパ人との混血ではあるが、日本人について調べたものでない。この手の研究結果は人種差に左右される。


2. 治療(病気でないので治療とは言わないでしょうが)については論文では一切触れられていない。ニュース記事は著者へのインタビューも含めて書かれているのでしょう。

 

3. そもそもこの論文は白髪についてあまり重きをおいて書かれていない。ニュース記者の好みも反映された報道でしょうか?


以下はさらに個人的な意見です。


舞踏病や一部のパーキンソン病のように、症状が重くかつ単一遺伝子の病気は、積極的に治療をした方がいいと思います。明らかに患者さんのためになります。

しかし、白髪や禿げは(一部の疾患を除いて)、病気ではなく形質で、かつ今回判明した以外にも複数の遺伝子が関与するのが普通で、治療(というか形質変更)は難しいし、積極的にしないほうがいいと思います。今回、例えば白髪とIRF4、眉毛の濃さとFOXL21:1対応になっている結果は再検討が必要でしょう。


身長や体重も生まれつきの形質です。たとえば肥満にかかわる複数の遺伝子(PCSK1、CDKAL1、KLF9、PAX6、GP2)が東アジア人ですでにわかっていますが[1、2]、これをもってすぐに治療対象とはしないし、いまだにその方法もありません。

 

また以前から​​IRF4という遺伝子は、悪性リンパ腫や悪性黒色腫といったよくない病気の進展に関係することが知られています。根拠はないのですが、この遺伝子を操作することは危険ではないかと感じます。


一回使ったら半年持つような、よい白髪染めの開発に期待するのが現実的ですねウインク

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[1] Okada et al. Common variants at CDKAL1 and KLF9 are associated with body mass index in east Asian populations. Nat Genet 2012;44:302
[2] Wen et al. Meta-analysis identifies common variants associated with body mass index in east Asians. Nat Genet 2012;44:307