時々、日本脳炎ワクチンは中国駐在する際に打った方がいいか?患者さんから尋ねられます。

 

上海にだけ居留するならば、成人なら日本脳炎ワクチンは積極的に受けなくてもいいでしょう。ただし、すこしでも病気の心配を減らしたい方は接種したほうが精神衛生上いいです。また、子供は受けた方がいいとわたしは思います。

 

ちなみに、チベット、青海、ウイグル自治区では発生がないので、そこにだけ住む場合も日本脳炎ワクチンは要りません(が、そういう人はあまりいないでしょうね)

 

 

よく知られていることですが、日本脳炎は日本脳炎ウイルスによって起きます。ウイルスは豚の体内に潜んでいて、豚の血を吸った蚊が人間の血を吸うときにウイルスをうつします。感染した人から蚊を介して他人にうつることはありません。デング熱やジカ熱との違いです。

 

かなり単純化していうと

 

インフルエンザ→ウイルスをもった人間がいると感染(うつされる)がありうる

ジカ熱、デング熱→ウイルスをもった人と蚊がセットでいると感染がありうる

日本脳炎→ウイルスをもった豚と蚊がセットでいると感染がありうる

 

というわけで、生きた豚と蚊がいない環境では原則的に日本脳炎の心配はありません。

ただし蚊によっては相当長い距離を移動するものがいて、身近に豚がいなくても、蚊がウイルスを運んでくることはあります。また日本では豚の血清中抗体を検査して、日本脳炎の流行予測を行っています。

 

 

中国の日本脳炎はすごく減っている。

 

下のグラフのようにかなり患者さんは減っています。ただし、まだ世界的にみるとまだ患者発生が多い国で、アジアの日本脳炎の半数は中国で発症しています。

 

中国の発生減少は、日本脳炎ワクチンの普及および環境の改善がおもな理由です。

図は中国の日本脳炎発生数。2014年のこちらの論文から引用。

④は1968年にホルマリン不活化ワクチンが中国で導入開始されたことを示す。

⑤は1988年に弱毒化ワクチンが導入開始されたことを示す。

 

 

発生には地域差がある。

 

下の図のように地域差があります。現在は下の図のcにあるように、南~西の地域で発生が多い。また、全く発生していない地域もあります。

 

 

図は2014年のこちらの論文から引用。

a(左)は1971年、b(中央)は2006年、c(右)は2011年。

色の区分(人口当たりの発生率)は赤>黄>緑色で高い。

同じ赤でも、それぞれの図で示す発症率が違うことに注意。どんどん減少している。

bの網掛けは2006年までに日本脳炎ワクチンを導入した地域。

新疆ウイグル自治区、チベット自治区、青海省では日本脳炎は存在しない。

 

 

昨年の中国全土での発生数は819例で過去最低。

 

中国では間違いなく日本脳炎の発生は減少しています(統計が正しいかどうかはここでは考えない)。下のグラフは左が中国。右が日本。中国の方は死亡者数も表示してあります。死亡率は4~2%と少ないのですが、この病気には精神神経症状の後遺症があるので、かからない方がいいです。感染者の発症率は0.1~1%と推定されているので、ウイルス感染しても発病していない人はもっと多いはずです。

 

ちなみに発生には季節性があります。日本でも中国でも蚊が活発に活動する夏に多く、冬にはほとんど発生がありません。

 

右図で、日本でもそこそこ発生しているように見えますが、縦軸のスケールが全然違います。残念ながらゼロの年はなく、今でも日本国内でも感染リスクは、中国ほどでないにしろ、なくなっていません。

 

中国の統計はこちらの発表から集計。日本の統計は国立感染症研究所の発表から集計。

 

日本は「日本」脳炎という考えようによっては不名誉な名前のウイルスが発見された国ですが(1935年)、ワクチンによって封じ込めはかなりうまくいっています。ワクチンの安全性が一時社会問題になりましたが、現在の培養細胞を使って作られたものは、以前の動物の脳を使って作られたものよりも安全性はかなり高いと考えられます。

 

ところで、上海市での発生数が気になりますね。こちらのデータをみる限り、近年の発生はすごく少ないです。下記に発生数を書き出してみます。

2011年    11例
2012年    8例
2013年    2例
2014年    1例
2015年    2例(これは暫定値)

以上から、上海での日本脳炎発症リスクは相当少ないと思われます。

 

ただし、子供の場合、感染後の後遺症が大変ですし、リスクを最小限にする観点から、ワクチンはしておいた方がいいです。日本国内での発症もいまだになくなってはいませんから、帰国後のことを考えても未接種のお子さんはワクチンをした方がいいでしょう。

 

日本脳炎の症状

 

日本脳炎の潜伏期は1~2週間程度です。

 

症状は38℃以上の高熱、頭痛、吐き気、めまいなどが主体です。子供では腹痛、下痢も多くみられます。その後、意識障害やけいれん、体の麻痺などが起こり、一部の人は死亡に至ります。

 

神経系の後遺症(歩行の障害、手足のふるえ、けいれん発作、麻痺、知能障害、情緒の不安定さなど)がおこることがあり、特に乳幼児や高齢者でおきやすいです。

 

なお、豚はウイルスを保有していても発病しにくいそうです。

 

 

まとめると以下です。

①中国での日本脳炎の発生は減少傾向にある。

②発生には地域差があるのでそれを考えてワクチンをする。

> 上海など大都市にのみ住む場合は必ずしも日本脳炎ワクチンは必要ない。

> 田舎(農村地方など)および流行地域に行く可能性のある人はぜひワクチンをした方がいい。

> さまざまな病気が心配な人は、居住地に関係なくワクチンをした方がいい。

③子供の場合(20歳くらいまでの人)は、ワクチンはした方が安心。

> 上海滞在中のことだけでなく日本に帰国したことのことを考えてもしたほうがいい。

 

実施の判断に迷うときや実際のワクチン実施回数などを知りたい場合は、ワクチンを良く理解している医療機関で相談をしてください。

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