una vita in Firenze

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POMODORI(トマト)

ポモドーリ

 イタリアの野菜と聞いて、まず真っ先に思い浮かべるのは『トマト』に間違いないと思う。実際、イタリアのマーケットを覗いてみると、大きいのや小さいの、赤いのや緑色をしたもの、つるんとした丸いものやでこぼこしたもの、季節を問わず必ず数種類のトマトを見つけることは難しくない。
 最も一般的で、1年を通じて見かけるのが、『GRAPPOLO(グラッポロ)』といわれる、絵に描いたような、まあるい、真っ赤なトマト。耐寒性があって、味もよく、イタリアの地方を問わず見つけることができる。 『SAN・MARZANO(サン・マルツァーノ)』と呼ばれる種類は、トマトの水煮の缶詰でおなじみの細長い形をしたトマト。ほかのトマトと比べると、水分が少なく、タネの部分も小さい。市場に出回るのは春から秋にかけてで、日本ではナマのサン・マルツァーノを見かけることは少ないけれど、もちろんナマでも、薫り高くおいしいトマト。サレルノを中心とした地域で栽培されたものが有名。
 『CILIEGINO(チリエジーノ)』というのは、日本で言う、チェリートマト、またはミニトマトのことなんだけれども、特にこの種のトマトで有名なのは『PACHINO(パキーノ)』というシチリアの地方都市で作られたもの。この地域で作られるチリエジーノはあえて、『POMODORO・PACHINO(ポモドーロ・パキーノ)』といって、他のチリエジーノと区別される。というのも、原種は同じチリエジーノなんだけれど、そのパキーノ地方の塩分を含んだ土壌と、気候から他の地域で作られたのとは明らかに品質の違うチリエジーノが栽培されるからである。甘みがあって、薫り高く、乾燥ミニトマトとして海外にも輸出されるようになった。1年を通じて栽培される。
 最近時々、イタリアの中でも高級野菜を扱うようなお店で見かけるのが『DATTERI(ダッテリ)』という、チリエジーノよりさらに小さくて、形としてはサンマルツァーノに近く、色さえ違えばちょうどイタリア語でダッテリと呼ばれるナツメヤシの乾燥させたものにそっくりの形をしているトマトがある。写真の中央にコロコロと転がっている小さなトマトがそうなのだが、薄皮で、丸ごとプチプチ食べる食感も楽しくて、ちょっとした果物よりも甘みがあって、みずみずしい。
 『CUORE DI BUE(クオーレ・ディ・ブエ)』というトマトは、その名を直訳すると『牛の心臓』という意味になる。名前だけ聞くとなんだかグロテスクだけれども、その形を見ると、『うまく言ったもんだ!』とこの名前をつけた人に拍手したくなるくらい、色といい、形といい、うまく言い表していると思うよ!大きさはイタリアにある標準的なトマトよりやや大ぶりで、でこぼこが不規則に盛り上がったハート型。何よりも特出したのがこのトマトの肉質で、タネの部分が少なく、厚肉で、新鮮なマグロの刺身を連想させるようなやわらかさとなめらかさと弾力がある。
 どのトマトも、夏が近づくとその気温の上昇に合わせておいしさも香りもアップする。さっと塩とオリーブオイルをかけただけの厚切りトマトは、暑い夏、ステーキよりもおいしいと思えるほどである。
 こんなにイタリアの気候に適応し、イタリア料理にマッチして、イタリアのシンボルとも思えるほどのトマトたちが、ほんの500年ほど前、コロンブスによってもたらされた『ヨソモノ』だったなんて、とてもとても信じられない。

CARCIOFO カルチョフォー(アーティーチョーク)

 初めて、このテの植物を見たのは、日本の、おしゃれなお花屋さんだったと思う。それは薄いピンク色のビロードのような毛で覆われた硬い花弁が、ダチョウのものと言えるほどの大きさの、たまご型をしていて、なんとも原始的な、まるでそこから怪獣が生まれてきそうなイメージで、わたしのなかでは、『ゴジラのタマゴの花』と呼んでいた。
 ところが、まだ春も浅い時期にイタリアにやってきたとき、八百屋さんの前に大量に『ゴジラのタマゴの花』そっくりのものが積んであるのを発見。それもこっちのは薄いピンクじゃなくてムラサキがかったミドリ色。
 私が花屋さんで見たなんともプリミティヴな姿のお花は、プロテアという名前。わたしはまだ、カルチョフォーとプロテアは絶対親戚かなんかだと思っているのだけれど、実は、ぜんぜん種類の違うものらしい。残念。
 このカルチョーフォ、日本で最もなじみのうすい、ヨーロッパの野菜のひとつではないかと思う。
 カルチョーフォを愛した歴史上の著名人といえば、カテリーナ・ディ・メディチ。彼女はフランスにフォークを伝えた人として有名だが、フランスにこのカルチョーフォを広めたのも彼女の功績。
 また、フロイトが『わたしの一番好きな花』と呼び、イタリアのシンボルとしてカルチョーフォをよく夢に見たというように、イタリアの気候に適し、イタリアのそれぞれの地域によって異なる特徴を持ったカルチョーフォが栽培され、それぞれ異なる調理法で食されている。
 そのなかでも主要なものとしてあげられるのが、サルデーニャとシチリアのもの。これには黄色がかった鋭いトゲがあり、先のとがった卵形で、市場に出回る時期としては中秋から冬。
”モレッロ”と言う、トスカーナを主な産地とする種は、イタリア語で《ピンツィモニオ》という、大きくカットした生野菜に、塩、コショウを混ぜたエキストラ・バージン・オリーブオイルをつけて食べるのにふさわしい。”ロマネスコ”という名前から想像できるように、ローマを中心とする地域で作られるカルチョーフォにはトゲがなく、そのまま、またはなかに詰め物をして調理して食べる。
 アザミの仲間と言うことから想像できるように、トゲのたくさん付いた葉があり、食用として最も珍重されるのは主茎、つまりてっぺんに付く花。枝分かれした部分に付く花は頂上に付くものに比べて小ぶりで、価値も落ちる。鉄分をたっぷり含んでいて、生で食べると、舌が黒くなってしまう。ペコリーノセネーセでも書いたが、シエナでは羊のチーズを作る際の凝固剤としても使われる。
 生でよし、煮てもよし、揚げても旨しのオールマイティで、味はと言うと、ちょっと苦味のある茎の部分は、ごぼうに似た甘い後味があって、また花弁に当たる部分はちょうど、味も、見た目も、食感も、タケノコのヒメカワに似てると思うのは、春先のこの時期でも、掘りたてのかぐわしいタケノコにありつけないもののヒガミかなぁ・・・ そして、春も半ばを過ぎ、緑の濃い季節になると、その畑では、人間の餌食になることを逃れたカルチョフォーが、豪華な紫の花をつける。

PECORINO SENESE ペコリーノ・セネーセ

店先に並べられたチーズの数々

 チーズ好きの人が増えている!と思う。わたしの学生時代を思い出してみても、「石鹸みたいで嫌い」とか、「ニオイがだめ」と言う声はよく聞いたけれど「チーズ大好き!」と言う人は少なかった。それが最近「チーズ、大好きなんです。」と、言う人が多くなった。この現象、単に私自身が食べ物関係の仕事をしているからとか、イタリアに住んでいるから、と言うだけではないと思う。
 さっそく、イタリア・トスカーナの、グルメも唸る『ペコリーノ・セネーセ』について書きたいと思うけれど、心の中ではこんな文章を読んで、まさか『ペコリーノ・セネーセ』を食べてみたい、なんて人が増えないことを祈っている。
 『ペコリーノ』は「羊の」と言う意味の、『セネーセ』は、「シエナの」と言う意味の形容詞である。イタリアチーズの、約40%が羊のミルクで作られる中で、『ペコリーノ・セネーセ』は、きわめて貴重なチーズのひとつと言える。
 イタリアにくれば、羊のミルクでできたチーズなんて山ほどあるし、なぜ、トスカーナの、そしてシエナの『ペコリーノ・チーズ』が貴重なのかと言うと、まずその羊の餌になる牧草に特徴がある。『TERRA DI SIENA』 と呼ばれるシエナ近郊の緩やかなカーブを描く乾いた大地には、ヨモギや、ハギやノコギリソウの仲間など、種類が豊富で、いつも新鮮な薫り高い牧草が、しかも伸びすぎることなく、ジャスト・ヒツジの高さで、自生している。
 お母さんのおっぱいと同じで、羊のミルクだって食べ物によってその味や香りは当然変化する。そしてトスカーナであっても、ほとんどの羊のチーズがパスツール法によって熱処理されたミルクを使うのに対し、『ペコリーノ・セネーセ』は、搾ったままの《生乳》をつかうことから、早春の3月の牧草を食べた羊のミルクからはデリケートな、ほのかな春の香りのペコリーノが、5月6月の春真っ盛りの牧草を食べた羊のミルクからは牧草の薫り高いペコリーノ・チーズができあがる。
 人の手と、自然のつくる、まさに天然風味。

ペコリーノ・トスカーノ

 もうひとつ、『ペコリーノ・セネーセ』の特徴として挙げられるのは、チーズと呼ばれるもののほとんどが、子牛や子羊の胃袋から抽出した酵素で乳を凝固させるのに対し、《凝乳剤》にアーティチョークの花から抽出した物質を使うこと。このことによって、独特の甘く、ほろ苦い風味が生まれる。
 熟成期間は一般的に40日から60日、もみの木でできた板の上で最低1週間に1度、裏返す。熟成期間の短いフレッシュな『ペコリーノ・セネーセ』からはほのかな牧草の香りが発散され、熟成期間が進むにつれて、コクと、チーズ独特の辛味のある刺激が増し、さらに熟成期間が中くらいの『ペコリーノ・セネーセ』には、外側に濃縮トマトとオリーブオイルを混ぜたものが塗られ、独特の風味をかもし出す。また、オリーブオイルとカーボンを混ぜたものを表面に擦り込んだ真っ黒の『ペコリーノ・セネーセ』は、オリジナルの甘み、風味を損なうことなく、さらに味が濃厚である。
 味のバリエーションとしては、トリュフ入り、唐辛子入り、胡椒入り、などがあって、このほかにも熟成の方法として、クルミの葉を用いたもの、香草と一緒にムロのなかで熟成させたものなどがある。
 食べ方としては、ワインはもちろん、ぶどうやなしなどの果物と一緒に、そして意外かもしれないのが、モスタルダと呼ばれるジャムに似たものや、ハチミツをつけて食べると両方の風味が口の中でよみがえってきてついつい食べ過ぎてしまう。手に入る方は是非、ほんのり苦いクリの木のハチミツをつけて召し上がっていただきたい。