「それじゃあ行ってくるね。」
妻がそう言い残して出掛けていく。時刻は20時を回っていた。
妻はマンガを読むのが好きで、明日も早くから経営する店の仕込みやら掃除やらをしなければいけないのに、こうやって夜な夜なマンガ喫茶に出掛けていく。
そもそも僕が根っからのマンガ好きでそれが移ったようだ。職場も一緒な僕ら夫婦はそれこそ四六時中一緒にいる。趣味も一緒で、休みの日もほぼ一緒にいる。
それの息抜きもあってか、大体週に1度か2度。マンガ喫茶に出かけては、しばらく帰ってこない。
「日付変わる前には帰るから。」
と少し後ろめたそうに言う妻をかわいく思いながら見送るのだが、大体帰りは毎度毎度午前回った2時過ぎだ。狙っているんじゃないのかと思うぐらいに2時過ぎだ。
同じくマンガ好きなら一緒に行ってある程度制限すればいいのではないか??とは確かに思うが僕の場合はそうではない。マンガは買う派なのだ僕は。物語ももちろん好きだが、それを考えて具現化した漫画家さんを心から応援したい気持ちが勝り、基本的にはマンガは買う。つまり僕からすればマンガ喫茶は邪道。しかし妻は広く浅くを望んでいるし、また経済的にも助かるので今の状況に甘んじている。
それはともかくとして。
僕は1人の時間を過ごすが苦手だ。携帯のゲームをしながら「これみてよ!!」言ってしまい、飼い猫の少しだけ驚いたような冷たい視線を浴びたりする。
何度も何度も繰り返し読んだマンガはすぐに読み終わり、仕方なく僕は台所の立ち、簡単なツマミとレモンサワーの準備をする。
まだ妻が出掛けて1時間半しか経っていない。ネットフリックスもアマゾンプライムも面白そうな映画を見つけると『今度妻と観よう』と思ってしまい、上映5分から進みそうにない。
レモンサワーを2杯。ウイスキーで割っているので酔いは早い。太るのだろうなと罪悪感を感じつつチーズをかじる。
断っておくが寂しいわけではない。いやそりゃ少しは寂しいけど、こういう時間も大事だと思うしこれでも自分なりには謳歌しているつもりだ。
四六時中妻のことを考えている僕とは違い、今妻はマンガに没頭しているのだろうなぁ。とも思うけど、30にもなって高校生のファンタジーな青春ものにキュンキュンする妻が僕は大好きだ。
酔いが回っていつの間にか寝ている僕が朝早めに目が覚めると
、妻が僕の背中のシャツを握っていたりする。
マンガに出てくるようなイケメンとは程遠いし、クサイ事も言わないししない。それでも今日も妻は僕で良いようだ。
そんな妻が大好きだ。