銀河英雄伝説ネタバレ感想です。気持ち悪いくらい長いです。
でも舞台を見た人に読んで欲しい。キルヒアイスという人物を。
ラインハルトにとってキルヒアイスがどれほどの人物であるのかを。
私は原作ファンのキルヒアイスファンです。
キルヒアイスがどれほどの人物であるのか、ラインハルトとキルヒアイスの関係性がどれだけ大きなものであるのか、それこそが私にとっての銀英のすべてでした。
だからこそ許せなかった。
舞台ではラインハルトとキルヒアイスの関係がとっても薄っぺらくキルヒアイスがどれほどの人物であるか、全く見えなくなっていたことに。
「キルヒアイス、俺は宇宙を手に入れることが出来ると思うか?」
「ラインハルト様、貴方以外の何者に、それが叶いましょう」
この台詞を聞いたとき、ラインハルトとキルヒアイスが本当にその場に居ると思った。
それくらい完璧な二人でした。
この台詞を聞いて泣いてしまうくらい、確かに二人はそこに存在していました。
だけどラインハルトにとってキルヒアイスがどれだけ大きな存在であるのかさっぱり見えなかった。
キルヒアイスの力量についても全く見えなかったし、No2と言われる所以もさっぱり。
あれじゃただの幼馴染だからNo2なのだと言われているようなものだ。
最初は確かにそう言われていたけど、キルヒアイスの実力を目の当たりにして
「あれでは閣下が二人いらっしゃるようなものだ」と認めるシーンがないからキルヒアイスの力量が全く見えない。
同じような、とされているが私はキルヒアイスの実力はラインハルト以上だと思っている。(原作を読んでそう感じた)
だけどキルヒアイスはラインハルトのためにこそ生きているような人なのでそれが表に出されることはない。
とにかくキルヒアイスがいかに凄いかが丸カットされていてNo2であると言うことが見えないのが残念だった。
時間の問題でカットされるのも仕方ないことだろうけど。
そしてビッテンフェルト処罰のシーン。
あの時本当はキルヒアイスに諌められたその場で「キルヒアイスがそう言うのなら」とすぐに考えを改めて
「ビッテンフェルトの罪は問わぬことにする」となるのだよ。
それだけキルヒアイスの言葉はラインハルトにとって絶対であることをここで示している。
ラインハルトはキルヒアイスをいかに信頼しているのか、どれだけ特別なのか
キルヒアイスの言葉だからこそ聞いているラインハルトあってこそなのだ。
あそこであんなに揉めるなんて、キルヒアイスの言葉に耳を傾けないただのワガママなラインハルトと言うか
そこまで信頼されていないキルヒアイスに見えてしまう。
キルヒアイスの言葉の重みが違って見えてくる。
これはない。
それよりもヴェスターラントの件が私は一番許せない。
あれはキルヒアイスが傍に居たら、絶対に起こり得ない出来事なんです。
あの悲劇はキルヒアイスが艦隊を引き連れて賊軍どもと戦っている間に(ラインハルトの傍にいない間に)起こってしまう出来事なんです。
舞台同様、ラインハルトは阻止しようとする。
だけどオーベルシュタインに言われて阻止艦隊を派遣せずにヴェスターラントを血の海にしてしまう。
だけど、ここでキルヒアイスが傍に居たなら頷かなかったであろうことが原作では描かれている。
キルヒアイスが忠告したのにそれを跳ね除けて実行するのは絶対に有り得ない。
ラインハルトとキルヒアイスの関係がここで大きく崩れてしまった。
キルヒアイスの絶対的な存在が、なぜこうも無かったことにされているんだ。
確かにラインハルトはオーベルシュタインの言うことも一理あると認めた。
ヴェスターラントの有様を見て、これが自分の選んでしまったことなのかと酷く後悔するけど、
だけど起こしてしまったことは仕方が無い、間違っているとは分かっているけど仕方が無いのだと、
ラインハルトは現実を受け入れる。
ラインハルトはあれごときで自分を見失ったりはしない。
ラインハルトがあんなにも喪失してしまうのは、キルヒアイスを失うからなんです。
キルヒアイスが帰艦して、ラインハルトにヴェスターラントの件を問い詰めて初めて
「説教は沢山だ!この件について、俺がいつお前に意見を求めた!?」となるのに。
ビッテンフェルトの件ごときでなぜあの展開になったんだろう。
ラインハルトはヴェスターラントの件で自分が間違っていると分かっていた。
だからこそキルヒアイスに責められることに耐えられなかった。
だけどそれを悟られたくなかった。
だからラインハルトは「お前はいったい俺の何だ!?」と遠ざけようとした。
ラインハルトにこう言われれば「閣下の忠実な部下です」と答えざるを得ない。
言った後で、ラインハルトは一人思うんです。
「そうじゃない、そうじゃないんだキルヒアイス!
こんなことは一度きりだ。もう絶対にしない、好んでやったわけじゃない。
分かってくれてもいいだろう?
小さい頃から喧嘩も沢山してきたけど、原因はいつも俺の方にあって
それでも笑って許してくれたのはキルヒアイスの方だった。
だから今回もキルヒアイスはきっと許してくれる」
これこそがラインハルトのキルヒアイスに対する甘えなんだよ。
今までオーベルシュタインが「キルヒアイスを他の提督と同列に扱うべきだ」と言う度に
ラインハルトは「全宇宙が私の敵になってもキルヒアイスだけは私の味方をしてくれるだろう」と跳ね除けてきた。
だけど、ここのすれ違いから、オーベルシュタインの言うことを受け入れてしまう。
ここで武器の所持を禁じられるのだ。
「たとえキルヒアイス上級大将でも例外は認められないとの仰せです」
「いや、いいんだ…」
ここが本当に切ない。
この台詞にどれだけの想いがこめられているか。
キルヒアイスは、ラインハルトはいつか分かってくださるだろうからひと時のことだと耐えようとする。
本当は寂しくて仕方ないのだけれど、と思いを馳せるキルヒアイスがとても切ないのだ。
今までずっとラインハルトは一時の迷いや誤りがあっても分かってくれたから、と。
それが永遠のものだと信じていた。
だけど、本当にそれは永遠なのかと凄く不安に思い始める(ここ重要)
そこで起きた捕虜の引見。
ブラウンシュバイクの仇をうとうとしたアンスバッハの指輪で打ち抜かれるキルヒアイスを見て
「いつでもどんなどきでも俺を助けてくれて、いつも傍にいて、俺のわがままを受け入れてくれたキルヒアイスが倒れているの俺のせいなんだ」と信じられない思いでキルヒアイスを抱きしめて
「姉上のとこに一緒に勝利の報告に行こう」と言う。(台詞に関してはすべて舞台と原作ではイコールだったからこれだけではないが)
最後キルヒアイスが微笑んで亡くなっていくのは、ここでラインハルトが昔のように自分に接してくれたことに対しての安堵の意味なのだと私は捉えている。
舞台はどうだ。
ヴェスターラントの件ですでに憔悴してしまったラインハルトを、キルヒアイスは「私から告げられることは何もありません」と見放してしまい捕虜の引見の時点で「すべてを失っていた状態」だったのだ。
そのラインハルトが倒れたキルヒアイスを抱きしめて「姉上のところに一緒に勝利の報告に行こう」と言っても言葉の意味が全く変わってくる。
不安がっている(さっきの重要)キルヒアイスに「俺が間違っていた」と案に伝えてこそ最後のキルヒアイスの笑顔の意味が生きるのだ。
というかキルヒアイスならばあの状態のラインハルトを放っておくわけがない。
「命に代えてもお守りいたします。私にできることならば何でも致します」と
つねにラインハルトのためだけに生きてきた。
ラインハルトが求めていなくても、キルヒアイスはラインハルトを傍で見守っている。
それがキルヒアイスなのだ。
舞台であったラインハルトが「キルヒアイス…」と手を差し伸べるシーン。
あの時にキルヒアイスは死んでない限り絶対にラインハルトの手を取る。
その絶対さがキルヒアイスなのに。
舞台のラインハルトとキルヒアイスの関係の薄っぺらいことこの上ない。
キルヒアイスが亡くなって、ラインハルトは三日三晩キルヒアイスの亡骸から離れず誰も何もできずに居る。
そんなラインハルトを見て
「閣下にあんな脆いところがあったとは」<舞台にはないが原作に出てくる台詞
「閣下も生身の人間だったのだな」<舞台のビッテンフェルトの台詞
「そんな情けない姿を見せないで頂きたい」<舞台のオーベルシュタインの台詞
と、なるのだ。
ヴェスターラントを血の海にしたこと如きであんなに打ちのめされたりなどしない。
キルヒアイスを失ったからこそラインハルトは憔悴しきってしまうのだ!
それだけキルヒアイスがラインハルトにとって絶対だったんだよ!!
ここで初めて、ラインハルトを立ち直らせるために、アンネローゼが出てくるのだ。
「貴方は失うべきものをなくしてしまいました~(略)~まだ貴方は疲れてはいけません」と言われ、
キルヒアイスが誓いを守ったのだから、俺も守らねばならぬと思いを新たにする。
宇宙を手に入れると、二人で約束したあの誓いを。
でも宇宙を手に入れたところでキルヒアイスを失った喪失感は拭えない。
だからこそラインハルトは敵を欲した。
戦うことでしか満たされないと。
そこで「敵が欲しい。強力な敵が!!!」なのだ。
戦うことでラインハルトは生き続けるための意味を見つけたけれど
常にラインハルトの傍にキルヒアイスは居る。
最後、ラインハルトの傍にキルヒアイスが出てくるのはそういうことなんだ。
キルヒアイスが大好きだからこそ色々なものが崩された感が拭えなくて舞台は脚本が残念だったとしか言えません。
殿もろみも、とても素敵なラインハルトとキルヒアイスだったから尚更。
本当のラインハルトとキルヒアイスを、原作を知らない人たちに伝えたかった。
そんな想いでいっぱいです。