人通りの少ない交差点――。






車両用信号(山さん)「ふう……今日で最後……か…。」


歩行者用信号(ヤス)「山さん……」


山さん「ヤス、今まで迷惑かけたな。俺のわがままによくついてきてくれた。」


ヤス「なに言ってんスか!山さんが赤信号になったらオレっちが青信号になる!オレっちが赤信号になったら山さんが青信号になるって仲じゃないスか!湿っぽいこと言わねーで下さいよ!」


山さん「ヤス……感謝してるぞ。」


ヤス「山さん、覚えてますか?オレっちがまだ入りたてのころ。。。山さんはオレっちに言ってくれました。お前は青から赤に変わる時の点滅の時間が短すぎる。それじゃ渡る人が大変だろ?って……」


山さん「………」


ヤス「オレっちそん時気付けたんス。もっと歩行者の気持ちを考えてやらなきゃいけないんだって。車両用信号の山さんにそれを言われてちゃお終いだって。それに………」


山さん「?」


ヤス「……オレっち…山さんのような信号機になりたいって、そん時から思うようになったんス…。」


山さん「ヤス……!」


ヤス「山さんはあと一回赤信号に変わったら現役生活が終わっちまうんスよね。オレっち……」


山さん「なんだ?」


ヤス「オレっち、このまましばらく赤のままでいます!今は夜中だし、あと一時間くらいは大丈夫っス!」


山さん「なに!?」


ヤス「オレっちが時間を稼いでる間に、山さんは最後の青信号の時間を噛みしめて下さい!」


山さん「ヤス……ありがとう。本当にありがとう。嬉しいよ。」


ヤス「へへっ、オレっちにはこんなことしか出来ねえっスけど…。」


山さん「いいや、最高の定年退職のプレゼントだ。……お前からの最後の時間、大切に過ごすことにするよ。」


ヤス「(コクリ)」


山さん「ふう……。35年の信号生活……色んなことがあったな。。。俺を無視して進んで行く車も何台もいたなあ…。あの教習車に乗ってたガチガチに緊張してたヤツ、無事受かったかな。一度くらい赤いポルシェも見たかったなあ…。」




ヤス「…っ!」


山さん「ヤス…!どうした?」


ヤス「………山さん。」


山さん「なにがあったんだ!」


ヤス「………歩行者専用ボタン……押されちまいました……!」


山さん「…な…に……!」


ヤス「こ、こんな夜中に人が通るなんて……」


山さん「……ヤス…お別れだな。」


ヤス「ああ…体が勝手に……青になっちまう……。山さん、すまねえっス!」


山さん「いいんだヤス。お前の気持ち、嬉しかったぜ。」


ヤス「や、山さん……!!」


山さん「フッ…泣くな、ヤス。」


ヤス「だって……。あ…山さんが黄色に……!」


山さん「時間だ……」


ヤス「山さーーーーん!!!!!!」


歩行者(隼汰)「おっ…と、こっちの道じゃなかったか。。」


ヤス「 」


隼汰「えーっと…??さっきあそこを曲がったから…………あぁ、もう一個むこうの横断歩道だ。なんだよまぎらわしい……。」


ヤス「えっ」


隼汰「なんだよー。ボタン押し損だよ。。まっ、車も通ってないし、誰にも迷惑かけねえかっ…と。」


ヤス「……」

山さん「……」







こうして、山さんの35年にわたる信号生活は幕を閉じた―――。


―完―











(cast)

・山さん…道端の信号機

・ヤス…道端の信号機

・隼汰…布川隼汰



(staff)

・脚本…布川隼汰

・演出…布川隼汰

・プロデュース…布川隼汰





・制作…ゆるブロ





・協力…交差点





・英訳…Shunta Fukawa





・スペシャルサンクス…布川隼汰















(終)