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授業実践(中学・高校)レポート

『アンパンマンのマーチ』の歌詞の意味を考える

 

私立 蒼開中学校高等学校

教諭 中村吉孝

 

『アンパンマンのマーチ』作詞:やなせたかし 作曲:三木たかし

 

はじめに

 テレビアニメーション『それいけ!アンパンマン』(日本テレビ、トムス・エンタテインメント)の主題歌である『アンパンマンのマーチ』の作詞は『アンパンマン』の原作者である、やなせたかしである。

 この歌詞には幼児向けと考えると、かなり難解なところがある。やなせは「自分の思いをそのまま歌詞にしたまでのこと」(『もうひとつのアンパンマン物語』1995)といっている。そこで、中学2年生と高校1年生を対象に、「アンパンマンのマーチ」の歌詞の意味を考えてもらう授業を行った。高校1年生は高校3ヶ年のアスリートコースの生徒である。

 最初に、アンパンマンについて全員が知っているものとして話を進めても良いか確認する必要がある。結果は高1の中国からの留学生も含めて、全員がテレビ放送の「それいけ!アンパンマン」を視聴した経験があった。その上で、次のことについて確認、共有した。

  • アンパンマンはお腹が空いている人に自分の顔を食べさせる。
  • アンパンマンは顔が欠けると力が弱る。当然、敵の攻撃を受けたときには非常に不利な状況になる。
  • 平和を脅かす敵である、ばいきんまんを撃退するが、追撃はしない。敵の本拠地に対する攻撃はしない。
  • 2011年、東日本大震災の直後に、TOKYO FMがリスナーのリクエストに応じてこの曲をオンエアし、避難所でこれを聞いた子供たちが大声で歌いだし、まわりの大人たちが涙した。また、やなせたかしはポスターを作製し、被災地に配布した。このポスターは被災者や救援活動にあたる自衛隊員を勇気づけた。(サンケイスポーツ 2011.3)

 以上のようなことを話した後、『アンパンマンのマーチ』を聞き、歌詞の意味を考えてもらった。1人1台Chromebookを所持している環境なので、Google JamboardというKJ法をオンラインで実現できるサービスを利用して各自の意見を共有した。Jamboardは、付箋紙を模造紙にはりつけるように各自の端末で即座に意見を共有できるので、たいへん便利であったが残念なことにサービス終了してしまった。同様の機能を持ったサードパーティー製のものはあるが、認証や課金が必要な場合もある。今後は、Google から提供されているサービスで完結できる、ドキュメントの共有を試してみたい。

 

 まず、予備知識のない状態で曲を聴き、歌詞を読んで思ったことを書かせた。その後、やなせたかしの略歴を紹介した。その内容は次のとおりである。

 1919(大正8)年生まれ

 1924年父親死去 嵩(たかし)4歳、弟千尋2歳

  母親が再婚し、伯父夫婦に育てられる

 東京高等工芸学校卒

 1941年(22歳)徴兵 陸軍軍曹として日中戦争に従軍

  戦闘することは無かったが飢えを経験した

  人間にとって最もつらいのは飢えだと痛感した

  弟 千尋 戦死 人間魚雷回天の搭乗員、特攻隊員であった

 1945年 終戦 正義の逆転を体験

 1947年(28歳)結婚

 1973年(54歳)絵本『あんぱんまん』発表

 1988年(69歳)それいけ!アンパンマン放映 主題歌『アンパンマンのマーチ』作詞

 1993年(74歳)妻死去

 2013年(94歳)死去

やなせの略歴を知った後、再び Jamboard に書き込みをさせた。

 

歌詞の意味を考える

 解釈が難しいと思われる歌詞の部分を区切って、Jamboard に発表された中高生のコメントを紹介し、考察を加えていく。

 

〇そうだ うれしいんだ いきるよろこび たとえ むねのきずがいたんでも

 「胸の傷」については過去の辛い経験を表しているのではないかという意見が多くみられた。

やなせの略歴を知る前

高校1年アスリート進学コースの生徒

  • 傷ついたとしても生きていたらそれでいい
  • 生きているだけで価値がある
  • 自分を犠牲にし過ぎだと思う

中学2年の生徒

  • 過去の嫌なことを思い出しても今を楽しく生きる
  • 誹謗中傷などの辛いことを乗り越えて生きる
  • なにか辛いことがあっても生きていることの喜びを忘れないこと
  • 高1生も中2生も歌詞に込められた作者の意図を十分に読み取ろうとしているようである。

やなせの略歴を知った後

高1アスリート

  • 人を亡くして生きることの大事さがわかる
  • 意味のないことなんてない

中2

  • 誰かのために痛みを感じても、誰かのために生きているからうれしい?

 父親と弟を亡くしていることを知り、印象が片寄ってかえって作者の意図から離れているといえる。

 

〇なんのためにうまれて なにをしていきるのか こたえられないなんて そんなのはいやだ!

やなせの略歴を知る前

高1アスリート

  •  好きなことをするため
  •  自分はこの世界を良くするために生まれてきた!
  •  みんなのために生きる!
  •  社会に飼われている、社会のため
  •  一生懸命生きることが大事

中2

  • 目標、目的を持って生活する
  • 生きる理由がほしいのではないか
  • 意味もなく生きてる人に生きてる資格はないって言うことですかね…?
  • 考えることの大切さ
  • 何も自分の目標が定まらずに生きるのはもったいないということだと思った

やなせの略歴を知った後

高1アスリート

  • 長生きするのではなくよく生きる
  • 生きている時間はあっという間に過ぎていく

中2

  • 目標、目的を持って生活する
  • 戦争を経験して「生きる意味」という概念が大きく変わったと思うからこの歌を聞いている人に自分の中でこれと言った理由を考えてほしいのではないか
  • 自分がなんのために生まれたのかはわからないけどその理由は人それぞれだから自分なりにその理由を探していく。
  • 自分の生きる理由を見つけるには、なにかきっかけが必要なのではないか

 

 最初に聴いたときは、高1生の「社会に飼われている」や中2生の「意味もなく生きてる人に生きてる資格はない」というように、ネガティブな意見が見られたが、普段生きる意味など考えずに生活してきたところへ「なにをしていきるのか」と重い問いかけをされて拒否反応が出たのではないかと思われる。

 テレビ放送時のオープニングでは2番の歌詞が使われているが、重い印象を受ける1番の歌詞が避けられたのではないだろうか。

作者が戦争を生き残った人であることを知った中2生からは「目標、目的を持って生活する」という言葉が出てきた。

 

〇なにがきみのしあわせ なにをしてよろこぶ わからないままおわる そんなのはいやだ!

やなせの略歴を知る前

高1アスリート

  • 誰かのために!
  • 誰かのためにやることをわからないままやるのは嫌
  • 幸せなど一周回ってない
  • 生きていることが幸せです

中2

  • 誰かのために
  • ちゃんと自分のことわかるようになれってことですかね…
  • 他人の喜ぶ姿が見たいけれども自分とは喜びの基準が 違うからどうしたらいいのか分からないのではないか。でも時間は止まらないのでこの限られた時間の中で結論づけたいという意味。

やなせの略歴を知った後

高1アスリート

  • わからないまま何もしないのは死んでいった人に悪い
  • 幸せとは今があること

中2

  • もう戻らない弟に対して何をすればいいのか
  • 弟や父にもっとなにかしてあげたかった
  • 自分が本当にしたいことを考える
  • 生きる意味が明確にあってそれに向けて頑張って生きているほうが何も生きる意味を感じないで生きているよりも人生が楽しくて充実する
  • 他者と協力しあい、成長していくことで初めて、人としての生きる喜びを感じられるんじゃないか

 

 「きみ」は歌を聞いている私たちを指していると思うのが普通だろうが、中2生の中には、やなせの父や弟を指していると考えた生徒もあった。

 

〇そうだ おそれないで みんなのために あいとゆうきだけがともだちさ

やなせの略歴を知る前

高1アスリート

  • 恐れずに行動する
  • 後悔は一生勇気は一瞬
  • 友だちが少ない
  • 一人じゃ生きていけない
  • 孤独

中2

  • 友達はいらないということ
  • 愛と勇気があれば何でもできる!!(夢の国のみ)
  • 何かとたたかうときには愛と勇気が必要ということ
  • 愛があるからこそ他人を守ろうと思えて、勇気があるからこそ守るべきものを守れるから、原動力について書いたのかも

やなせの略歴を知った後

高1アスリート

  • 幸せは無意識のうちにいつもそばにある
  • 愛と勇気があれば世の中を変えられる
  • 若いときには一個一個の愛、勇気が友達だ

中2

  • 正義は裏切るけどあいとゆうきは裏切らないということ
  • 愛と勇気は、実際に何かを成し遂げるときには心の支えになります。恐れなくとも、そういう存在があるときは、自分は何かと頑張れる気がするのです

 

 この歌詞の中で、最も問題になることが多い部分である。前述のようにテレビ放送のオープニングでは2番の歌詞が使われたので、いきなりこのフレーズから始まる。実際にやなせのところに苦情が届いたことがあるという。(『わたしが正義について語るなら』2013)「あいとゆうきだけがともだち」なんて寂しいことを言わないで欲しい、ということであろう。幼児から小学校低学年の子どもたちに「ともだち100にんできるかな」と歌わせ、友達が多いのは良くて、友達がいないのはダメと教えている大人たちからしたら、苦情のひとつも言いたくなるであろう。やなせ自身はこれに対して「戦う時は友達をまきこんじゃいけない、戦う時は自分一人だと思わなくちゃいけないんだ」と答えている。(『わたしが正義について語るなら』2009)しかし、この授業では自ら考えてもらうことを目的としたので、こうしたいわゆる「正解」は最後のまとめの際にも示さず考えてもらうのみとした。

 アスリートコースの高1生からは、行動するということに重きをおいている意見が見られたが、中高一貫の中2生は「正義は裏切る」「愛と勇気は、実際に何かを成し遂げるときには心の支えになります」と本質に迫った意見が出された。

 

〇ときははやくすぎる ひかるほしはきえるだから きみはいくんだほほえんで

やなせの略歴を知る前

高1アスリート

  • 時の流れにつれて気持ちが変わっていく
  • 暗闇だけの世界

中2

  • 時間がすぎるのは早すぎるから今できることを今しとくべきということ
  • 今を一生懸命に生きるべき
  • 考えてから行動するまでが遅かったら、自分のやりたいことができなくなるかもしれないから、考えたことは早く行動に移したほうがいいということを言っていると思った
  • 動けなくなる前に動き出せ
  • 過去のことを考えても、もうどうにもならないから今を頑張るべきということ
  • 「きみ」は微笑んでひかるほし=命がきえた?

やなせの略歴を知った後

高1アスリート

  • 結婚からアンパンマン発表まで長かったその間で時は早く過ぎた
  • もうこの時代にはあれだけ社会に影響をあたえた戦争のことが忘れかけられているからときは早くすぎると言っているんだと思った
  • 誰しもいつかは消えるから今を大切に
  • 今の幸せが当たり前じゃない

中2

  • 戦争経験者って聞くとさらに深く感じる
  • 弟のことを抽象的に表現していると思う。

 

 やなせの弟が特攻隊員で戦死していることから、この歌詞はその弟に捧げられたものという意見がインターネット上に見られるが、生徒の反応も同じであった。やなせ自身はこれに対して「ぼくはそんなつもりはなかったのですが」と否定しつつも「それだけ、弟と最後の言葉を交わした記憶が深く残っていたのでしょう」(『ぼくは戦争は大きらい』2013)と深層の心情が歌詞に表れた可能性は認めている。

 やなせがもともと伝えたかったメッセージに近いのは、はじめに中2生が言っていたように、「今を一生懸命に生きるべき」ということであろうと思われる。そうすると、作者の略歴など背景を知ることが返って歌詞の理解を妨げていることがあるかもしれない。しかし、やなせの弟のことを知る前から「「きみ」は微笑んでひかるほし=命がきえた?」(中2)と命が失われるイメージを持った生徒もいた。

 

〇そうだ うれしいんだ いきるよろこび たとえ  どんなてきがあいてでも

やなせの略歴を知る前

高1アスリート

  • 人生山あり谷あり
  • どんな困難あろうと生きる喜びはうれしい
  • 敵=人生の山
  • 敵も自分の仲間
  • 自分にベクトルを向け続ける
  • 敵は常に自分自身

中2

  • どんな困難にも打ち勝って自分が納得できる人生にしようという考え
  • 自分の前に大きな壁が立ちはだかっても、乗り越えられるように頑張ろうということ
  • たくさんの困難を乗り越えて、生きる喜びを感じていくこと
  • 戦うのが生きがいだということ

 高1生も中2生も、ここでいう「敵」を倒すべき相手というよりは、自分自身の中に見ようとしている。高1生はアスリートらしく、「自分にベクトルを向け続ける」という言葉が出てきた。これは、かれらが日ごろからよく指導者に言われているもので、うまくいかないことを他人や環境のせいにしないで、自分に原因がないか考える、ということである。この部分については、やなせの略歴を知った後も、生徒たちの感想は大きく変わらなかった。

 

まとめ

 やなせたかしが『アンパンマン』の中で描こうとしたのは、「分け与えることで飢えはなくせるということと、嫌な相手とでも一緒に暮らすことはできるということ」(『ぼくは戦争は大きらい』2013)である。これが、やなせの考える「正義」であり、『アンパンマンのマーチ』の歌詞には、それが込められているはずである。やなせは「ボクは子供を「ちびっこ」というようないい方でいうのが嫌いです」(『もうひとつのアンパンマン物語』1995)といっており、この歌詞でも自分の思いをそのまま歌詞にして対等な立場の子どもたちに伝えているといえる。

やなせの略歴を伝えて考えさせることは、余計なバイアスをかけることになりはしないか、という不安もあったが中高生にとっては、戦争のことや正義のことについても考えられる良い教材であろう。

 

授業計画

 私はLHRや担当科目である美術の余ってしまった時間などに実施したが、国語、音楽、公民の授業としても展開可能かと思う。50分の授業1回で完結することも可能であるが、慌ただしくて十分に考えを巡らせることができないと思われる。2回以上の授業時間を充てることが望ましいのではないか。私の場合は、この後に関連する映像を鑑賞して感想文を書いてもらった。「アンパンマンワールドにお金がない件について」考える授業も行い、1クラスにつき最大5回の授業になった。「無料で食料が分け与えられる世界なのに、なぜばいきんまんは奪おうとするのか」も興味深いテーマだが、学校で「アンパンマン」の話ばかりするわけにもいかず、実施できずにいる。

 

余談

 心肺停止状態の患者に心臓マッサージを行うとき『アンパンマンのマーチ』のリズムで行うのがよいらしい、というような話を余談として授業で伝えるのもおもしろい。

 

 

参考

楽曲

『アンパンマンのマーチ』作詞:やなせたかし 作曲:三木たかし 歌:ドリーミング1988バップ

文献

『もうひとつのアンパンマン物語』やなせたかし1995 PHP研究所

『わたしが正義について語るなら』やなせたかし2009ポプラ社

「アンパンマンが応援「弱い心やっつけて」」サンケイスポーツ 2011.3

『ぼくは戦争は大きらい』やなせたかし2013小学館クリエイティブ

 

『アンパンマンの遺書』やなせたかし1995 岩波書店

『アンパンマン大研究』やなせたかし1998フレーベル館

『人生なんて夢だけど』やなせたかし2005フレーベル館

『オイドル絵っせい 人生90歳からがおもしろい!』やなせたかし2009フレーベル館

『何のために生まれてきたの?』やなせたかし2013 PHP研究所

『オイドル絵っせい これじゃあ死ぬまでやめられない!』やなせたかし2014フレーベル館

『やなせたかし みんなの夢まもるため』2014 NHK出版

『おとうとものがたり』やなせたかし2014フレーベル館

映像

『それいけ!アンパンマン』トムス・エンタテインメント、日本テレビ1988~

Webサイト

『「アンパンマンのマーチ」は特攻隊の歌ではありません』

https://www.ne.jp/asahi/niko/pink/yanase.html

 

2024年8月27日 アップロード