sg-columbusさんのブログ

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「ああ。やっぱりアンタ、奢りなんだ」
「やっぱりって?」
「客寄せだもんね。イケメンだし」
 どうも、と頭を下げる。顔を褒められるのは嬉しいが、反応に困った。客寄せって言われたら怒るんだよ、馬鹿、とユリは鼻で笑う。タバコ吸ってもいい? と聞かれたが、俺が答える前にはもう火を点けていた。爪にブラジルの国旗が描かれているのが見える。
「しかしみんな卑屈だねー。楽しそうに話してるけどさ、あの墨田とかいう先輩、ギャグ漫画に出てきそうな程の不細工じゃん。彼女ら、アンタと話したくても無理なんだろうねぇ。余程容姿に自信あるか、変わり者か、やり手か……そういう人種じゃなきゃあこんな隅に逃げた男、追えないよ」
 ケラケラと笑って、ユリは煙をふうっと吐いた。自分はどの人種と言いたいのだろう。個性的でどぎつい化粧のせいで初めはわからなかったが、よく見るとスラリとした綺麗な目をしている。
「あーあ、あの子達、わざわざお洒落して、海の家で不細工の接待か」
 俺はそれを聞いて思わず吹き出してしまった。微かに面食らったように、ユリが俺の目を覗き込む。
「あ、いや、俺も海の家だと思ってたから、さ」
「ああそっちか。私はまた、不細工の接待って部分に笑ったのかと思ったよ」
「実はそれもツボだったりして」
 そう言って、二人はまた少し笑った。そんな俺らのところに、一人の女の子が近づいて来た。ほんの数分前まで、墨田先輩が一番熱心に話しかけていた女の子だ。真っ白な肌に薄茶のロング。大人しそうな顔立ちの割に、しっかり前を貫くような目つき。何とはなく、一度合った視線を離せなくなる。
「なんか、楽しそうだねー! 私も入れて欲しいなぁ」
 俺の前に立つなり、彼女は笑顔で話しかけてきた。
「あ……ああ、はい。どうぞ」
「ちょっと疲れちゃったから、ここで休憩させてもらうね」
 高くて繊細な声は--使い古された表現だが--まるでハープのようだった。隣にいたユリが、興味深そうに彼女を見ている。
 何か言いたげな表情に気がついているのか、いないのか、彼女はにっこりとユリにも笑いかけた。そして俺のもう片方の隣に座った。ふんわりと花畑みたいな香りがする。


 それが、俺と真田カナコの出会いだった。
「栗本君ってあまり笑わないね」
「ヨシキはもっと、愛想よくならないと駄目だよな」
 俺は、よくこう言われる。クールだよね、と。寡黙だよね、と。その度に俺は(そんな事言われても)なんて思いながらヘタに作り笑いをして、その場を盛り下げる。ひどい時など「なに怒ってるんだよ」とまで言われる。困ったものだ。俺は俺なりに楽しんでいるつもりなのに。楽しみながら自然な風に笑うなんて、そんな芸当、俺には不可能に近い。





「--アンタ、利用されてるんだよ」
 いきなり女に声をかけられた。その時俺は、先輩が主催する合コンのノリについていけず、雰囲気をぶち壊さないように店の隅でおとなしくコーラを飲んでいるところだった。どうせ暇なんだしと、頭を下げて挨拶する。確か自己紹介の時に藤堂ユリと名乗っていた人だ。緑色のショートカットに、パステルカラーのワンピース。同じような格好をした女子大生の群れの中で悪目立ちしていたから、覚えている。
「アンタは利用されてるの。わかってる? 幹事の人がアンタの写メ、回してたもん。コイツが来るんだぞーって。なんつーか、魂胆、ミエミエだよね」
 そう言うとユリは、当然のように俺の隣に腰を下ろした。これだよ、これ、と携帯電話の液晶を俺に向ける。そこには以前、墨田先輩に撮られた写真が浮かんでいた。(ああ、懐かしいなあ。新歓コンパの時だ。お酒を頑なに断ったら、墨田先輩にチョップされたんだっけ)しみじみと記憶が蘇る。まだ、髪が短い頃だ。
「ねぇ、ちょっと、聞いてるの?」
「あ……ハイ」
「何なんだよ、その反応は。つまらないなあ。怒るとか、驚くとか、ないの? 自分の写真が出回ってるのに」
「はぁ、すみません」
 すると彼女は、ショッキングピンクに塗られた唇を歪めて、俺を軽蔑するように睨んだ。もっと気の利いた答えを望んでたのだろうか。多分そうだろう。まいったな、と思いながら、コーラの瓶の側面を指でなぞる。
「あの……本当、すいませんッス」
「別に良いけどさ」
 ……「別に良く」はなさそうに見える。ユリは先輩達がワイワイ騒いでいるテーブルを見ながら、ぐいっと酒を飲んだ。先輩達は楽しそうにしている。そりゃそうだ。何しろ、この合コンは普段の何倍もの気合いが入っているのだ。だから、俺らの大学の近くにある、海岸沿いのバーを貸し切っている。めちゃくちゃお金がかかったらしいが、俺にはどうも、ちょっと立派な海の家くらいにしか見えない。
「なんていうか、ここって、バーには見えないよね。お酒はとっても美味しいけど」
 そう言いながら、ユリは抱えていた酒を一気に飲み干した。
「ですねぇ。なんか、木造ですし」
「そ。なんか侘しいっつーか。それとさ、敬語やめようよ? タメでしょ? 私も一年生だもん」
「そっか。そうだね」言われるがままに、頷く。
「それよりさ、ここ、貸し切り料金高かったんじゃない?」
「あー、ウン、そうらしいよ。俺は、奢りだけど」
 俺は話し方がぎこちない。自分でも感じる。もちろん他人もそう感じるはずだ。しかしユリはそんなこと気にしないで、話しを続けてくれた。

~第一話後半に続きます~