流星の漫画家たち「すくらっぷブック」「マリオネット師」他、 永遠なる青春グラフティ 小山田いく① | 20世紀漫画少年記

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                     わたしの胸に生きている あなたのいった北の空 

 

                     ごらんなさいね 今晩も 泣いて送ったあの空に 

 

                    流れる星は生きている

 

             

                     藤原てい 「流れる星は生きている」より

 

  3月23日で漫画家の小山田いく先生が亡くなられてから、早いもので5年たった。

 

 藤子・F・不二雄先生、水木しげる先生、そして小山田いく先生は私が「直接お会いしたかった」漫画家だった。

 

 小山田いく 本名 田上 勝久(たがみ かつひさ) 1956年6月10日生まれ 長野県小諸市出身 

 

 地元 小諸市の坂の上小学校卒業、芦原中学校卒業、長野工業高等専門学校卒業、高校卒業後は印刷会社に勤めるも、本人曰く身体を壊して退職。下記リンク先参照。

 

 1979年、本名で描いた『五百羅漢』(『別冊ビックコミック』12月1日号)で漫画家デビュー。これ以前にも“幻のデビュー作”として、第4回小学館新人コミック大賞を受賞した「菩薩」がある。

 同年、『12月の唯』で第13回週刊少年チャンピオン新人まんが賞佳作を受賞。同時にペンネームを小山田いく名義に変更し、「週刊少年チャンピオン」にてデビューした。同期の受賞者には、入選の神矢みのる(代表作「プラレス三四郎」) 佳作の木村和昭(代表作「べにまろ」)がいる。その後、『春雨みら〜じゅ』『三角定規ぷらす1』といった読切短編を発表する。

 

 翌1980年、故郷の小諸市と自身が卒業した芦原中学校をモデルとした「市立芦ノ原中学校」を舞台とした青春ラブコメディ『すくらっぷブック』で連載デビューする。この作品は読みきり『春雨みら〜じゅ』の「柏木晴(かしわぎ はる)・通称 晴ボン」を主人公に『三角定規ぷらす1』『12月の唯』のキャラも含めた「市立芦ノ原中学校」での学園生活(2年から中学卒業まで)をリアルタイムで描くというもので、一躍人気となり「週刊少年チャンピオン」の看板作品となった。『週刊少年チャンピオン』2009年30号に創刊40周年記念企画として完全新作の読み切り『夢のありか』が掲載されたことからもわかるように、同誌においてこの作品は『ドカベン』『がきデカ』『ブラックジャック』『マカロニほうれん荘』にも匹敵するレジェントとも言える作品だった。

 

 『すくらっぷブック』は作品中の時間の流れがほぼリアルタイムで進行していたのが特徴的で、作中で主人公達が中学2年になったばかりの頃から卒業までの2年間を実際に1980年から1982年までの約2年かけて描き上げた。

 

 「学園漫画をリアルタイムで描く」 これは簡単なようで実に難しい。

 

 当たり前の話だが、一つのエピソードを数回かけて描いたり、シリーズで描けば、リアルタイムでは何週間か何ヶ月か或いは数年たってしまう。スポーツ漫画の場合は特にそれが顕著で、県大会から全国大会まで描くと軽く数年かかってしまう。

 

 その為、ほとんどの学園を舞台にした漫画や学生を主人公にした漫画は現実と時間の流れが違うか、もしくはループするかのどっちかになってしまう。新沢基栄氏の「ハイスクール!奇面組」もリアルタイムで進行していたが、途中で主人公たちが留年したり、タイムマシンで作者が過去に戻るなど途中からループ設定になっていた。これは学園漫画の常として「卒業したら完結」という問題があり、「人気のある作品は連載を続けてほしい」という編集部の意向もあるので、そういった大人の事情が「リアルタイムで漫画を描く」ことを難しくしている。

 

 小山田いく先生もそこが難しかったようで、「連載を続けてほしい」と言うチャンピオン編集部を説き伏せるため、「次回作をすぐに描くから」という条件で『すくらっぷブック』の連載を卒業シーズンで完結させた。その為、次回作の『ぶるうピーター』は『すくらっぷブック』の最終回から、なんと2週間後という異例の速さで連載がスタートした。

 

 私が小山田いく氏の作品と出会ったのはこの『すくらっぷブック』が最初だった。

 

 たまたま当時、近所のスーパーにあった文房具屋と玩具店が一緒になったような店があった。その店には雑誌と漫画単行本のコーナーもあった。その単行本コーナーの一角に『すくらっぷブック』の第6巻があった。

 

 当時は「週刊少年ジャンプ」が「Drスランプ」「キン肉マン」「キャプテン翼」等のレジェンドとなる作品群が連載を開始しており、対して「週刊少年チャンピオン」は「ドカベン」「がきデカ」「マカロニほうれん荘」等のレジェンド作品は連載が終了しており、「ブラックジャック」も不定期連載になっていた。一時期は「週刊少年ジャンプ」を抜いていた同誌が再び追い抜かれていた、ハッキリ言えば凋落していた時期だった。

  

 おそらく当時の小学生は殆ど「週刊少年チャンピオン」は読んでいなかっただろう。「少年サンデー」も「少年マガジン」も当時から中高生から大学生向けだったし、「少年誌」と銘打っても少年向けとは言えなかった。「コロコロコミック」「コミックボンボン」といった児童向け漫画誌から始まり、やがて「少年ジャンプ」に移行する。それが当時の小学生のスタンダードだった。それは今も変らないだろう。

 

 そんなスタンダードが出来つつあった頃に私は『すくらっぷブック』と出会った。

 

 そしてそれは漫画の新たな魅力に気づかされた時でもあり、神話・民話・伝承・文学・星座・自然・動物・・・等、あらゆるジャンルの魅力を知った時でもあった。

 

 続く