宮部みゆき、綾辻行人、貴志祐介、錚々たる作家が選考委員を務める新人文学賞を獲得した「僕」。
隣には最愛の妻・キリカ。作家デビューは順風満帆かと思われたが、友人が作品を曲解して執拗な嫌がらせをはじめる。
しかしその結果、僕は妻のとんでもない秘密を隠し切れなくなり……。
主人公は作家・澤村伊智本人。
実在する作家さんや出版社、作品名なんかもじゃんじゃん登場してきます。
これKADOKAWAはよくオッケーしたな。
メタミステリというジャンルはありますが、これはメタホラー。
実在する人物や実際に起きた出来事をフィクション世界に再現することで、現実と虚構の境界線を取っ払った、ホラー。
この仕掛けによって読者は否応なしに作品世界に入り込まされます。
殺人衝動が抑えられない主人公・澤村伊智はネット書評で自作を貶している人物を次々に殺害していきます。
(ただ単に人殺しがしたいだけなので、自作を貶されたというのは単なる自分への言い訳に過ぎないわけですが)
読者は作品世界に引きずりこまれてしまっているので、実際にこの作品を酷評することはできないという。だって、殺されちゃうかもしれないからね(笑)
まあ、それはともかくとして、この試みは非常に興味深かったですね。
メタミステリのひとつに「読者が犯人」というのがあって、さまざまな作家さんたちが挑戦しているけれども、どれもこれも今一つ成功しているとは言い難い。ただの屁理屈じゃん、という作品ばかり。
でも、この手法ならば「読者が犯人」って成立するんじゃない?
この作品はホラーだけれど「作者が犯人」というメタミステリとしても読むことができるわけだし。
そう考えると、この手のメタで僕が読んだ中では一番しっくりくる作品だったなあ。
あ。別に殺されたくないから無理に誉めているわけではないんですよ(笑)