「美しく強かな継母が父を殺した」
再婚してわずか一年半足らずで父が急死。
遺産とビジネスを受け継ぎ活躍する継母の姿にそう確信した女子高生の瑠璃。
自らの死で継母の罪を告発しようと訪れた自殺の名所で“幽霊”の少年と出会い、ある約束をする。
六日後―それが瑠璃の自殺予定日となった。
瑠璃は父の無念を晴らせるのか?
「秋吉理香子さんっていうのは、いわゆる湊かなえさんあたりの系譜だよね」
「そうだな。イヤミス作家として沼田まほかるさんとか真梨幸子さんあたりと一緒に括られることが多いかもしれないな」
「この作品もやっぱりそういう感じ?」
「んー……そうでもない。読後感に嫌な感じは全然ないね」
「あ、そうなんだ?」
「ストーリー展開はわりとイヤミス風なんだけどね」
「へえ。というと?」
「冒頭、いきなり主人公の少女の自殺から物語は始まる。
高名なレストランプロデューサの父親とそれを献身的に支える母親の三人暮らしで、とても幸せに過ごしていた日々が、母親の病死で少しずつ暗転していく」
「あ、そこは別に事故とか殺されたとかじゃなくてフツーに病気なのね」
「そう。それで母親の死を乗り越えようとますます仕事に打ち込むようになった父親は、サポートのために新しく秘書を雇い入れる」
「ふむふむ。これが魔性系の美人だったりして?」
「魔性系かどうかはともかく美人なのは間違いない。そして、ご想像の通り、父親は秘書と再婚すると言い出す」
「はあーそれは娘が抵抗を覚えるよなあ」
「最初は娘も秘書を憧れのお姉さんみたいに思って仲良くやっていたし、父親が望むなら再婚も止む無し、とは思うんだよな」
「へえ、そうなんだ」
「でも、程なくして父親が病死するんだけど、後から振り返るとその死には不自然なことが多いと気がつく」
「後妻の秘書が財産目当てで殺した? 本性を表した、って感じなのかな」
「財産だけじゃなくて父親の事業も引き継いで、美人フードプロデューサとして売り出し始めたからなおさら疑いは強くなる」
「それは確かにそうかもねえ」
「でもそれを証明する術はなく、娘は自殺することで継母のことを告発しようと考える」
「高校生が遺書に告発を残して死んだら、さすがに世間も無視はしないかもね。
少なくとも、美人フードプロデューサとして派手に活動するのは難しくなるかも」
「それで、自殺の名所と言われる場所に行くんだけど、そこで幽霊と出会う」
「はあ? 何それ? 急にオカルト要素?」
「出会うんだから仕方ない。そこでかつて自殺したと自称する男子高校生の幽霊。
彼は娘の自殺を止め、どうせ死ぬ気なら全力で継母の殺人を立証しようとしてみたらどうだと勧める。
それで駄目ならそのときは死ぬのも仕方ないだろう、と」
「自殺したやつに言われても説得力が……」
「逆に説得力があるとも言えるよな。
で、彼女はその捜査の期間を一週間と決める。その間は全力で頑張る、駄目なら自殺する、と」
「つまりそれがタイトルの『自殺予定日』ってことなんだね」
「そういうこと」
「なるほど、それでどうなる?」
「まあその先は読んで確かめて欲しい。嫌な展開には決してならないから。
いや、むしろびっくりするくらいハートフルな展開になる」
「あ、それ言っちゃっていいの? ねたばらしにならない?」
「んー何て言うかさ。そこまでは誰でも予想つくでしょ。
イヤミス作家の秋吉さんだし展開もイヤミス風だし、それなのに実は…というのを狙ったのかなって。
怪しまれている継母がそのまま父親殺害の犯人だったら、イヤミス以前にミステリとして成立しないじゃん。
そこがひっくり返るのは当然だと思うんだよな」
「実際その通りになる?」
「そういうこと。
だからさ、この作品はそういうミステリ的な愉しみ方をする物語ではないんだよな。
主人公の成長譚というか、少女から大人になるための試行錯誤の物語というか」
「個人的にはあまり好きじゃないかなあ、ありきたりで」
「それはそうだな。メインストーリーであるミステリ的にも驚きはないし、友情・恋愛の脇筋もいたってフツー」
「よくまとまっているとは言える?」
「まとまっているというのは褒め言葉じゃないけどなあ。まあ読みやすくはあるんじゃないか」
「読みやすい、も別に褒めてないよね?(笑)」