「アマルフィ」 真保裕一 講談社 ★★★☆ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

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本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

フジテレビ開局50周年記念映画、原作本。
日本人少女が失踪。誘拐か、テロの序章か?

ローマ、ナポリ、アマルフィ海岸――イタリアを舞台に壮大なスケールで描かれるサスペンス。
外交官、黒田が見出した事件の全貌とは?


アマルフィ 外交官シリーズ (講談社文庫)



映画のノベライズということではなく、あくまで“原作本”です。


日本人少女の誘拐事件に対して、責任を回避することばかりを考え、


それは我々の仕事ではないとばかりにイタリア警察に丸投げをする大使館。


それに対して、イタリアを訪れた日本人を護ることが外交官の役目だという信念のもとに、


誘拐事件解決に奔走する黒田。



映画でこの黒田を演じるのは、織田裕二さん。



黒田のキャラクターは、組織の枠組みや意向を無視して、刑事の仕事をまっとうしようとする青島刑事と重なりますね。


様々な人たちの思惑に翻弄されながらも、事件の真相に一歩一歩近づいていく黒田。



緻密な計算がなされたサスペンスフルな展開は、さすが真保裕一さんだなあと思いました。


舞台を日本でなく、海外にしたのも面白いですね。



この事件は日本では決して起こり得なかったし、


日本で同じような誘拐事件が起きていたら、ありきたりな誘拐ドラマになってしまったでしょう。



日本では誘拐事件は紳士協定によって、報道管制が徹底されます。


事件が収束する前にニュースとして報じられることは絶対にない。



でも、イタリアでは協定破りが当然のように起こり得る。


また、イタリアではいかなる理由があろうとも、


犯人が身代金を得るために協力した場合、誘拐幇助として処罰の対象になる。



日本じゃこんなこと考えられませんよね。


そんな国で起きた事件だからこその面白さがこの小説にはあります。



ただ、残念なことがひとつ。


いくら「ノベライズではない」と言っても、


映画を前提として書かれた物語だけに「“映像”を失った映画」という印象があるのです。



たとえば、舞台となるアマルフィ。


小説を読んでいる限りにおいてはこの地が舞台となる必然性はありません。



これが映画だったら――観客は(本の表紙の写真のように)美しい海と街に魅了されるでしょう。


でも、小説ではそれがまったく活きてこない。


そのあたりは残念でした。



それからもうひとつ。



物語の視点はほとんど黒田側――つまりは捜査側――からのため、


犯人側の心情や動機、意図などが終盤までまったく明かされず、


なんだか感情移入しづらいのです。


平行して犯人側からも物語を描いていったら、


もう少し違う魅力が出てかもなあという気もします。