「1リットルの涙」 木藤亜也 幻冬舎 ★★★★★ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

十五歳の夏、恐ろしい病魔が少女から青春を奪った。

数々の苦難が襲いかかる中、日記を書き続けることが生きる支えだった。

最期まで懸命に生きた少女の言葉が綴られたベストセラー。



1リットルの涙―難病と闘い続ける少女亜也の日記 (幻冬舎文庫)




ずいぶんと前の話になりますが、


ドラマ化されたのをきっかけにして、僕は木藤亜也さんとこの本のことを知りました。


池内亜也役の沢尻エリカはじめ、成海璃子や薬師丸ひろ子らも好演でとてもいいドラマでした。


まだ沢尻エリカは「別に」とか言ってなかったころだなあ。




大人になってから本を読んで涙が出てきたのは、これで二冊目です。


それも、かなりわんわん泣いてしまいました。



亜也さんが、病魔に冒されはじめたのは十五歳。


まだ自分の夢も、将来の目標も持てていない、そして持てていないことが許される年齢です。


そんな歳の少女が、突然、夢も目標も持つことが許されない状態になる。



僕にはその気持ちが想像することができません。


安易に想像できる、というつもりもありません。




「神様、病気はどうして私を選んだの?」




そう問い掛けたくなるのは当たり前です。


それほどに唐突で理不尽なことだと思います。



僕はサッカーが大好きです。


サッカーだけでなく、フットサルも大好きだから、単純にボールを蹴ること自体が大好きなのかもしれません。


ボールを蹴ったときの感触はいつまでも足に残っているし、


その感触を思い出すだけで口元が自然ににやけてしまうくらいに、幸せな気持ちになれます。



中学生の頃、お前はあと何年かしたらボールを蹴ることなんかできない身体になってしまうんだよと言われていたらどうしたでしょう。


そんなこと、想像すらしたくないです。




亜也さんは、本当に泣き虫です。


いつもいつも泣いてばっかりです。


だけど、そんなの当たり前ですよね。


泣いても泣いても、


それこそ1リットルの涙を流しても、


それでも足りないくらいに辛いことを彼女は押しつけられてしまったのですから。



彼女の日記は、


泣いて落ち込んで、


立ち直って頑張ろうと思って、


でもやっぱりまた泣いて、


それからもう考えまいと思ってみて、


でもまた泣いて…その繰り返しです。



亜也さんは本当にとても優しい気持ちの持ち主です。


だから、彼女は周囲の人たちに迷惑をかけてばっかりの自分が許せないのです。



自分が将来に夢を持てないことは、もちろん自分が辛いものあるだろうけれど、


それ以上に、社会に貢献できない、いろんな人たちに恩返しすることもできない、


それが彼女にとって一番辛いのです。


誰かのために何かをしてあげられない自分は、生きている意味はあるのだろうか。


私は何のために存在しているのだろうか。そんな風に彼女は考えてしまう人なのです。



亜也さんがもっと弱くて、優しくなくて、いい加減な人だったら、


もしかしたら彼女はもっと楽だったのかもしれません。


諦めてしまうのは結構、楽なことだから。



でも、彼女は諦めないし、安易に楽を求めたりもしません。




“そうじゃあないんだよ。今をどう生きてくかを考えているんだ。安楽な場所を求めているんじゃあないよ”




そんな風に思っているのです。


もう歩くことも立つこともできなくなっても、彼女の文章は衰えていません。


しっかりした言葉で思いが綴られています。


きっと書かれている文字は、もうふにゃふにゃで判読が難しいくらいだったでしょう。


それでもきっと彼女の文章は力強かったのだと思います。



最初はふらついて時々転んじゃう、という程度だった彼女が、


そのうち、ゆっくりしか歩けなくなって、


電動車椅子を使うようになって、


そしてとうとう立てなくなって。



その過程をずっと彼女の日記で読んでいると、もうページをめくるのが本当に辛くなりました。


この先に彼女の病状が回復することはありえないということがわかっているのですから。


ページをめくるたびに、彼女の身体はどんどん悪くなっていくのですから。



亜也さんがお母さんに、


「お母さん、もう歩けない。ものにつかまっても、立つことができなくなりました」


と告げるシーンは、本当に心が痛くて、


僕も涙が溢れてきて、


もうやめてよ、これ以上彼女を辛い目にあわせないで、


と心の中で叫びました。



彼女にちょっとでも嬉しいことがあると、


僕も我がことのように嬉しい気持ちになれました。


こんなに感情移入して本を読んだのは初めてかもしれません。



僕は「超」がつくくらいのリアリストで、


天国だの、霊魂だの、そういう類は一切信じません。


死んだら終わり。当たり前の話だと思っています。



けれど、一度だけその信念を曲げて、天国にいる亜也さんに話し掛けようと思います。



天国の亜也さん、あなたの残した文章は、僕を含め、たくさんの人たちの心に届きましたよ。


あなたが生きていたことは決して無意味なんかじゃなかった。


あなたの存在がたくさんの人たちの心を動かし、たくさんの人たちを救った。



あなたにしかできないこと。


あなたが成し遂げたこと。


他の誰にもできないこと。


とても素晴らしいと思います。



でも、もしかしたらあなたは、


「そんなことで感謝されるよりも、ずっと健康で生きていたかったなあー」


なんて天国でぶつくさ言っているかもしれませんね。