一度罪を犯したら、人はやり直すことはできないのだろうか。
罪とは何か、償いとは何かを問いかける究極の長編ミステリ。
捨てたはずの過去から届いた一通の手紙が、封印した私の記憶を甦らせる。
十五年前、アルバイト先の客だった落合に誘われ、レストランバーの共同経営者となった向井。
信用できる相棒と築き上げた自分の城。
愛する妻と娘との、つつましくも穏やかな生活。
だが、一通の手紙が、かつて封印した記憶を甦らせようとしていた。
「あの男たちは刑務所から出ています」。便箋には、それだけが書かれていた。
自分の顔の痣をからかわれ、怪物と揶揄された少年は、いつしか荒み、心までも怪物と化していた。
違法賭博で借金をこしらえ、返済を迫るヤクザ者を刺し、追われ、
見ず知らずの老婆に助けられて、整形手術と逃亡、それから戸籍を買う資金500万円を貰う。
もちろん、それには条件があった。
老婆はかつて愛娘を二人の男に凌辱され、殺されていた。
その二人の男を復讐のため殺す。それが彼に課せられた条件だった。
老婆に救われた男、向井聡はいつしかその約束を忘れ、バーテンダーとして懸命に働き、愛する妻と娘を得、幸せな日々を送っていた。
しかしその幸せを壊す手紙が向かいのもとに届く。
約束を果たさなければ、向井の家族に危害を加えるというものだ。
老婆には血縁はおらず、本人はとうの昔に他界してる。
向井は自分の家族を守るために、老婆の遺志を継いだ脅迫者の正体を探ることになるのだが……。
※このあたりからねたばらしが入ります。未読の方はご注意を。
正直、脅迫者の正体はかなり早い段階で、簡単にわかった。
オビで書店員の皆さんが、
「いつまでもわからない犯人にページをめくる手を止められなかったです」とか、
「真犯人がわかった時の驚き!」とか、
「予想もつかない意外な展開」とか、
書かれているのがまったく理解できない。どれだけぼんやりと本を読んでいるのか。
もちろん本気でそんなことを言っているわけではなくて、
あくまで頼まれてヨイショしているだけであると信じたい。
ただ、同じ書店員として、ウソ・大げさ・紛らわしいコメントをする姿勢には賛成できないジャロ。
ジャロってなんジャロ。
閑話休題。
サスペンスフルな展開から、ハートフルなオチというのは薬丸岳さんのパターンで、
少々、食傷気味ではあるのだけれど、このラストにはホッとさせられる。
取り返しがつかないことも多いけれど、それでもなるべく傷つく人が少ないほうがいいに決まっている。
この作品の最大の命題は「罪を犯したものは幸せになってはいけないのか」だけれど、
僕の答えは「罪を償うことができたならばゼロからスタートしてもいい」だ。
正直言えば、殺人を犯した人間は自らの死をもってしか償えないと思っているのだけれど、
まあ、日本の司法がそれを許しているのだからよしとしよう。
しかし、向井聡はその罪を償ってはいないだろう。
いくつものつまらない罪を重ね、馬鹿な借金をし、人を傷つけ、老婆の必死な思いを利用し、
何一つ償いもせずに卑怯な手段で逃げ出した男が幸せになっていいはずがない。
人を殺すという約束を果たせとは言わないが、
なんで俺が人殺しなんてしなければいけないんだ、というのは逆ギレ以外の何ものでもないだろう。
それなのに、なんだかいい感じの終わらせ方をされてもなあ。
という疑問は残った。