「パワー・オフ」 井上夢人 集英社 ★★★★ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

高校の実習の授業中、コンピュータ制御されたドリルの刃が生徒の掌を貫いた。

モニター画面には「おきのどくさま」というメッセージが表示されていた。

次々と事件を起こすこの新型ウィルスをめぐって、プログラマ、人工生命研究者、パソコン通信の事務局スタッフなど、さまざまな人びとが動き始める。


パワー・オフ (集英社文庫)


※物語の結末に触れています。未読の方はご注意を。





ここまで優雅に生命の躍動を感じさせる「人工知能」というものはさすがに夢物語だよな、という気はする。


ワクチンを販売してひと儲けを企んだちっぽけなソフト会社がばらまいたウイルス騒動が最初の事件。


ここまでは現実にだってありそうな、よくある事件だ。


だが、人工知能「アルファ」がそのウイルスを取り込んだ辺りから事件は一変する。




「生き延びる」。



その目的のためだけに繁殖を続けるウイルス。


ここまでくれば完全にSFの世界になってしまうが、


ウイルス=悪事を働くもの、という固定概念を打ち破り、


彼らを独立したひとつの生命と考えたアイディアには感心した。



僕は元々、古くは映画「ウォーゲーム」に代表される「コンピュータ(機械)vs人間」という図式がとても好きだが、


そこで僕が気に入っているのは人間の叡智なのだ。


機械がそれを作った人間よりも優れているというようなことがあってはならないし、


ありえないと思っている。



だから「パワー・オフ」の結末はあまり好きではない。



どんなに優れた(?)ウイルスでも命など持ってはいないし、


彼らが人間にとってより良い方向にプログラムを改良してくれるのだとしても、


それでもウイルスは根絶させなければいけないと僕は思う。



機械が自分の意思を持って判断・行動をするのは構わない。


だが、あくまでそれは人間が制御した範囲内での話だ。


人間の手を離れて勝手に機械が動き出すことなど、素晴らしくもなんともない。


それが便利だなんて僕には思えない。


機械を使うのはいい、だけど機械の方に主導権があっては絶対にいけないのだ。