「短劇」 坂木司 光文社 ★★★☆ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

懸賞で当たった映画の試写会で私が目にしたのは、自身の行動が盗撮された映像だった。

その後、悪夢のような出来事が私を襲う(「試写会」)。

とある村に代々伝わる極秘の祭り。村の十七歳の男女全員が集められて行われる、世にも恐ろしく残酷な( v )儀式とは?(「秘祭」)。

ブラックな笑いと鮮やかなオチ。新鮮なオドロキに満ちた、坂木司版「世にも奇妙な物語」。


短劇 (光文社文庫)



梗概には「坂木司版・世にも奇妙な物語」と銘打ってあったが、


味わいは星新一のショートショートに近いのでは。



ブラックなテイストのものもあれば、


ちょっとほっこりするようなストーリーもあり、


ホラーあり、ミステリあり、


中にはちょっとしたコメディもあり。


とてもバラエティに富んだ作品集なので誰が読んでもお気に入りの一作が見つかるのでは。



オープニングの「カフェラテのない日」はいわゆる「日常の謎」に属するミステリ。


これは一般的に知られる坂木司のイメージ通りの作品なので、


誰もが違和感なくこの作品集に入り込んでいけるだろう。


ところが次の「目撃者」で、おやおや?という気分にさせられ、


さらに次の「雨やどり」がせつないラブストーリーなので意表をつかれる。


とにかく、バラエティに富んだ作品集なのだ。


と言っても、ブラックな味わいの作品がけっこう多くて……、

そうねえ7割くらいはブラックテイストかな?


その中にちょいちょい、いい話とかほっこりする話とか笑える話が混じってくるから、


ついつい油断をしてしまい、その後に襲ってくる毒にやられる。巧いと思う。



僕のお気に入りは、


顔の見えないネット掲示板での悪意に辟易とさせらる「MM」


スケベ親爺どもに天誅が下る皮肉なオチの「最後」


星新一ばりのシニカルなオチがどこか懐かしい「最先端」


「物件案内」は藤子・F・不二雄先生が描きそうな「ちょっと・ふしぎ」、


そして白眉は「秘祭」!!


とある地方のとある村に伝わる、他言無用の秘密の祭があるという。


この出だしで、どこかおどろおどろしいものを感じ、ホラーかなと思う。


どんなに残酷な生贄が捧げられるのかな、とか。


祭に参加した若者たちの、


「真っ青で何も話さなかった」「声も上げずに泣いていた」「ずっと悲鳴みたいな叫び声が」


という様子が描かれているのでなおさらだ。


びくびくしながら読み進めると。


このオチ!


いやまさか、こんな祭があるとはなあ。


ある意味これはホラーだけどな。


オチも含めて、この短編集のベストオブベストだと思う。