「重力ピエロ」 伊坂幸太郎 新潮社 ★★★★☆ | 水底の本棚

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本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

兄は泉水、二つ下の弟は春、優しい父、美しい母。家族には、過去に辛い出来事があった。

その記憶を抱えて兄弟が大人になった頃、事件は始まる。

連続放火と、火事を予見するような謎のグラフィティアートの出現。

そしてそのグラフィティアートと遺伝子のルールの奇妙なリンク。

謎解きに乗り出した兄が遂に直面する圧倒的な真実とは。


重力ピエロ (新潮文庫)


※ねたばらし……かな? 




壁に残されたグラフティーアートの落書き、そして連続する放火。


一体、誰が何の目的で行っているのか。


トリックそのものは単純な暗号でチープだが、


それでも整合性はとれているし、推理の過程はシンプルでわかりやすい。


とはいえ、この小説の命題はトリックにはないと僕は思う。



春と泉水。二人のスプリング。


この兄弟の微妙なバランス感覚がとても面白い。



僕にも弟がいるから、とても親近感がわく。


どんな理由があろうとも、殺人を犯した春を許すことはできないと思うけれど、


僕も泉水同様、心の中では自首するという春を必死に止めていた。



自分の母親が強姦されたということは悲しく衝撃的なこと。


ただ、その事実を否定することは春の存在を否定するということ。


このジレンマはずっと、二人のスプリングにつきまとう命題なのだろう。



父親の「お前は俺に似て、嘘が下手だ」という言葉は、


どれくらい二人を救ったのだろうか。



DNAがすべてを統べるなんて考えたくもない。


自分の遺伝子を残すためだけに生きているなんて馬鹿らしくて話にもならないと思う。


だから僕は春の考え方に少し共鳴できる。


二人のこれからの人生が素晴らしいものであればいいと、心から思う。