孤独に暮らす老婆と出会った、大学生の総司。
家族を失い、片方の目の視力を失い、貧しい生活を送る老婆は、将来を約束していた人と死に別れる前日のことを語り始める。
残酷な運命によって引き裂かれた男との話には、総司の人生をも変える、ある秘密が隠されていた。
切なさ溢れる衝撃の結末が待ち受ける、長編ミステリ。
両親が共働きで、祖父母に育てられた僕は、年寄りが出てくる話に弱い。
ピノキオなんて、ゼペット爺さんが可哀想過ぎて読めなかったほどだ。
だから、総司が性根の優しい、いいヤツでよかった。
カエ婆ちゃんは決して幸せな人生を歩んできたわけじゃないかもしれないけれど、
最後に総司に会えてほんとうによかったと思う。
冗談好きで、茶目っ気があって、でもさびしがり屋で。
そんなカエ婆ちゃんはとてもかわいらしいと思う。
僕が子供のころは近所にたくさん爺さん、婆さんがいたせいもあるけれど、
年寄りと若者(子供)の交流というものがフツーにあった。
年寄りはやたらと若者の世話を焼きたがり、
若者はそれをうざったく感じながらも、自分も得になることもあるし、まあいいか、なんて。
お小遣いももらえるのだし、
たまには年寄りの昔話にも付き合ってやるかなあ、みたいな感じでね。
総司もたぶん、最初はそんな感じでカエ婆ちゃんの話に付き合っていただんだろうな。
それがいつしか、総司の生活の中でも、けっこう大きくなっていって。
カエ婆ちゃんの名前でアナグラムをして馬券を買ってしまうくらいに。
そんな二人の交流に、ほんわかした気分になって読み進めていると、
突然、展開はミステリになってしまう。
あ、そういえば、僕、ミステリを読んでたんだっけ、って終盤にきて思い出させられるんだ。
※ここからちょっとねたばらしが入ります。
カエ婆ちゃんの死そのものは、なんとなく予想もついていたし、
哀しかったけれど驚きはしなかった。
それよりむしろ、
旧仮名づかいで書かれた、ちょっと読みづらいカエ婆ちゃんの若かりし日のロマンスが、
ぜんぶ丸ごと嘘だったなんて驚き以外の何ものでもない。
よくもまあ、ここまで凝りに凝った嘘を並べたてたものだよなと思う。
それも、いったい何の目的なんだよと不思議に思う。
でも、弁護士さんの推理を聞いて納得。
やっぱりカエ婆ちゃんはかわいいな。
もしも、叶うならば、本物の五十治さんが遺したアナグラムを、
カエ婆ちゃんに教えてあげたかったな。
それとも、カエ婆ちゃんのことだから、本当に四十九日まではそこらへんをウロウロしていて、
総司が自分のために調べてくれたことを感謝しているかな?
そうだといいな。
切ないけれど、読後感はとてもさわやかで、悪くない。
ミステリを読んだなーという感じは希薄だけれど、
いいお話を読んだなあという気持ちにはさせられる。