犯行時刻の記憶を失った死刑囚。
その冤罪を晴らすべく、刑務官南郷は、前科を背負った青年三上と共に調査を始める。
だが手掛かりは、死刑囚の脳裏に甦った「階段」の記憶のみ。
処刑までに残された時間はわずかしかない。二人は、無実の男の命を救うことができるのか。
※ねたばらし込みの感想です
手強い商売敵を世に出してしまった
という宮部みゆきさんによる宣伝オビが目にとまって購入しました。
死を待つだけの囚人たちの心理や、
彼らに死を与える側の刑務官の内面が何とも緻密に描写され、
かなり読みごたえがあります。
刑務官なんて仕事なんだから慣れも手伝って、
淡々と人を死刑台に送り込んでいるのではないか…
と安易な想像をしていた僕にとってはかなりショックでしたね。
ストーリー自体もなかなかサスペンスフル。
いくつかのどんでん返しの末に真実にたどり着くわけですが…
三上の指紋が凶器から発見されたときはかなり心臓が高鳴りました。
彼と南郷の必死の捜査を応援しながら読み進めていただけに裏切られたという思いは強く、かなりびっくりしましたね。
さらにどんでん返しが用意されていてひと安心というところですが、
結末そのものもかなり考えさせられるものでした。
さて、日本の死刑制度ですが…賛成か反対かと問われれば、
僕は答えに窮します。
もちろん、その身を八つ裂きにしてもまだ足りないような罪を犯す人間がいるのも確かです。
死をもってすら、償うことができないほどの大罪は間違いなく存在します。
だから、実は、殺人の罪を犯した者は(事故である場合を除き)すべて死刑でいいとすら思っています。
どれほど悔悛しようとも、殺された人は決して帰ってはこないのですから。
殺人者には更生の余地が残され、被害者には人生が再び与えられることはないというのは、
不公平にも程があります。
ですが、こうやって簡単に言えるのは、
僕が実際に死刑の判決を下したり、
実際に刑を執行したりする側の人間ではないからです。
僕は本作を読みながら、
南郷の苦悩を自分の身に置き換えてみたとき、
僕は背筋が凍る思いがしました。
受刑者を刑場に連れて行くことなど、僕のような小心者には絶対に堪えられないことだと思います。
想像しただけで震えがおきます。
それを実際に行っている人たちの心情を思えば、安易に「死刑制度は是」と言うことはできません。
おそらく、どれほどに考えても答えは出ないでしょう。
たぶん、誰も正解など出すことはできないでしょう。
人間が人間を裁くという為そのものが矛盾を孕んでいるのですから仕方のないことです。
こんなとき、神様というものが本当にいればなあ、などと益体もないことをつい考えてしまいます。