「なぎなた」 倉知淳 東京創元社 ★★★ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

完璧だったはずの殺人計画を徐々に崩壊へと導いてゆく、“死神”を思わせる風貌の警部。

米大統領選挙の熱狂の最中、勃発したひとつの殺人事件。

謎は、消え去った三発の銃弾。

たくらみに満ちたミステリ・ワールド、「運命の銀輪」「闇ニ笑フ」「幻の銃弾」など七編を収録。


なぎなた (倉知淳作品集)



なんで、「なぎなた」なんだ?


という疑問はさておき。


倉知淳のノンシリーズの短編集です。


同時刊行されたもうひとつの短編集のタイトルは「こめぐら」


こっちも、なんで「こめぐら」なん?


まあ、いいけども。


一番面白かったのは、「運命の銀輪」

倒叙形式のミステリです。


合作でヒットを飛ばしていた二人組の作家の片割れがパートナーを殺害中。

ジョギング中の被害者を撲殺し、そのまま草むらに放置する。

妙な小細工はなし。

たまたま、殺人のあとに帰り着いたところに宅急便が届いたので、せっかくだからそれはアリバイとして利用したが、わざわざアリバイ工作はしない。

証拠さえ残さなければ、余計なことはしないほうがいいというのが、犯人の考えだ。


そうなんだよなあ。

下手な小細工したところで警察の捜査は誤魔化せないんだから。

その小細工から犯行が明らかになることだって、ミステリの世界ではよくあるんだし。

何もしないのが正解……なんだけどね。


残念ながら、この犯人はまことに運が悪いことに、奇妙な偶然から犯行が露見するのですよ。


でも、それはただの偶然ではなく、死神のような顔をした陰気な風貌の刑事が、ささいな違和感を見逃さなかったから。

えー、そんなことから気がつくわけ?というような。


古畑任三郎もコロンボも福家警部補もびっくり。


ぜひ、この死神のような刑事はレギュラーシリーズとして書いてほしいなあ。


そのほかには「闇ニ笑フ」がお気に入り。


凄惨な死体が次々と映される映画のラストシーン。

誰もが顔をしかめそうなシーンで、闇の中、ひそやかに笑う美女がいた。

彼女はなぜ、笑うのか。


あらゆる可能性を消し込み、その上であっと驚く(そして美しい)真実が提示されます。