完璧だったはずの殺人計画を徐々に崩壊へと導いてゆく、“死神”を思わせる風貌の警部。
米大統領選挙の熱狂の最中、勃発したひとつの殺人事件。
謎は、消え去った三発の銃弾。
たくらみに満ちたミステリ・ワールド、「運命の銀輪」「闇ニ笑フ」「幻の銃弾」など七編を収録。
なんで、「なぎなた」なんだ?
という疑問はさておき。
倉知淳のノンシリーズの短編集です。
同時刊行されたもうひとつの短編集のタイトルは「こめぐら」。
こっちも、なんで「こめぐら」なん?
まあ、いいけども。
一番面白かったのは、「運命の銀輪」。
倒叙形式のミステリです。
合作でヒットを飛ばしていた二人組の作家の片割れがパートナーを殺害中。
ジョギング中の被害者を撲殺し、そのまま草むらに放置する。
妙な小細工はなし。
たまたま、殺人のあとに帰り着いたところに宅急便が届いたので、せっかくだからそれはアリバイとして利用したが、わざわざアリバイ工作はしない。
証拠さえ残さなければ、余計なことはしないほうがいいというのが、犯人の考えだ。
そうなんだよなあ。
下手な小細工したところで警察の捜査は誤魔化せないんだから。
その小細工から犯行が明らかになることだって、ミステリの世界ではよくあるんだし。
何もしないのが正解……なんだけどね。
残念ながら、この犯人はまことに運が悪いことに、奇妙な偶然から犯行が露見するのですよ。
でも、それはただの偶然ではなく、死神のような顔をした陰気な風貌の刑事が、ささいな違和感を見逃さなかったから。
えー、そんなことから気がつくわけ?というような。
古畑任三郎もコロンボも福家警部補もびっくり。
ぜひ、この死神のような刑事はレギュラーシリーズとして書いてほしいなあ。
そのほかには「闇ニ笑フ」がお気に入り。
凄惨な死体が次々と映される映画のラストシーン。
誰もが顔をしかめそうなシーンで、闇の中、ひそやかに笑う美女がいた。
彼女はなぜ、笑うのか。
あらゆる可能性を消し込み、その上であっと驚く(そして美しい)真実が提示されます。