「北天の馬たち」 貫井徳郎 角川書店 ★★★ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

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本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

毅志は、横浜の馬車道近くで、母親と共に喫茶店「ペガサス」を営んでいる。

ある日、空室だった「ペガサス」の2階に、皆藤と山南というふたりの男が探偵事務所を開いた。

スマートで快活な彼らに憧れを抱いた毅志は、探偵仕事を手伝わせてもらうことに。

しかし、付き合いを重ねるうちに、毅志は皆藤と山南に対してある疑問を抱きはじめる…。


北天の馬たち (単行本)



馬車道は好きです。

作中でも「こんなに気持ちのいい場所はない」と語られていますが、本当にその通り。

歩いているだけで、横浜の歴史が感じられる場所で、散歩には最適だと思います。


さて、物語のほうですが。


馬車道のさわやかな雰囲気をそのまま、その身にまとった物語になっていますね。


そのぶん、貫井徳郎らしさはなくなっているように思えました。

どちらかと言えば……そうですね、道尾秀介が書いたのかな、というような。

「カラスの親指」とか、そのあたりの作品に近い読み味ですね。


ある人物を引っ掛け、警察に逮捕させるように誘導をするふたつの短編があり、そのふたつの事件のあとに姿を消してしまった探偵たちを喫茶店のマスターが探すというひとつの中編で構成されています。

ふたりの探偵を探す中で、彼らの本当の目的と、彼らの過去が明らかになってきます。


貫井作品にはもう少しサスペンスフルな展開、もっと言ってしまえば重いテーマを望んでいたので、個人的にはちょっと物足りなく感じました。

物語全体を貫いている、隠された「謎」そのものは決して軽くはなく、ラストも完全なハッピーエンドではないと思うのですが、それでも二人の探偵をはじめとする登場人物たちの軽快な掛け合いが楽しくて、全体的なテイストが軽めに感じられてしまいます。

ミステリを読んでいるというよりは、どちらかと言えば「男たちの友情物語」または「男の成長物語」を読んでいるような気がしました。


ちょっと考えると、重い内容を扱いながら軽いテイストで仕上げるってスゴイことなんですけどね。