「雀蜂」 貴志祐介 角川書店 ★★★ | 水底の本棚

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雪の山荘に閉じ込められた小説家の安斎を突如襲う、凶悪なスズメバチの群れ。

安斎は山荘を生きて出られるのか。

最後明らかになる驚愕の真実とは!?

ノンストップ・サバイバルホラー、文庫書き下ろしで登場!


雀蜂 (角川ホラー文庫)



貴志祐介の文庫書き下ろしということで、非常に楽しみに読みました。


好きな作家さんの作品は単行本の時点で購入してしまうので、基本的には、文庫を買うワクワク感はほとんどないのですよ。

再読になるわけですからそれは仕方ないところ。


だから、520円で新作が読めるのはとてもうれしい。

ものすごい得をした気分でページをめくりました。


で、しばらく読み進めてまず思ったこと。


あ、これタイトルのまんまなんだ。


「雀蜂」っていうのは何かをたとえたもので、まさか、そのまんま雀蜂と戦うストーリーだとは思いませんでした。

物語の4/5以上、延々とハチと格闘


確かに、アナフィラキシー・ショックの危険性を持つ人の身になれば、たかがハチじゃんとは言えないでしょう。

モンスターが襲ってきたのと同じ恐怖があるはず。

でもまさかハチと人間の格闘で小説が成立するとは思わなんだ。


でもね。

面白くないわけじゃないんですよ。これがまた。

意外に、人間とハチの格闘も読めるものだなあ(笑)


これだけで終わっても、サスペンス小説としてそこそこ満足感があったかもしれないのですが……最後にはミステリ的などんでん返しが待っています。


トリックそのものには目新しさはなく、さほど面白いとは思えませんでしたし、正直、伏線がきちんと回収されていないと感じました。

わざわざ雀蜂を使って殺害をしようとした理由や、どうやって冬山の山荘に雀蜂を仕込んだのかという謎がそのまま放置されてしまいました。

そもそも、実際の犯人が誰なのかよくわからんし。


が……まあ、このどんでん返しはオマケのようなものと考えれば許せなくもないです。


「悪の教典」や「黒い家」「クリムゾンの迷宮」のように、圧倒的な悪に追い詰められていく恐怖感のようなものはありませんでしたが(何しろ、外に逃げれば蜂は追ってこないわけですから)、それでも貴志祐介の持ち味はそこそこ出ていたように思えます。


期待感が高かった分、評価は相対的に下がりますが……まあ、そこそこ面白かったという感じでしょうか。