今回もフジ住宅の訴訟・裁判に関する情報をお届けします。

  カ 市川正人教授の論考より
  上記のような被告今井の主張の正当性は、表現の自由と人権の関係について述べた市川正人教授の論考「表現の自由②-表現の自由と「人権」-」(判例時報社『法曹実務にとっての近代立憲主義』47頁以下)中の、人種差別や人種等を異にする集団に対する暴力行為の煽動を処罰する法律(ヘイトスピーチ規制法)の合憲性に関する下記のような論述(同書61頁以下)によっても裏付けられる。
「『思想の自由市場』論からすれば、言論には言論で対抗するのが原則であり、言論で対抗する余裕がないような緊急の場合にのみ言論が禁止できるのが原則である。そうすると、差別や暴力行為の煽動についても、少なくとも言論が重大な害悪を発生させる蓋然性が明らかであり、かつ、害悪の発生が差し迫っている場合にのみ言論を処罰しうるという『明白かつ現在の危険』の基準が妥当すべきであるということとなろう。」
「ヘイトスピーチについては、『思想の自由市場』論、対抗言論の原則は妥当しない、あるいは、限定的にしか妥当しないという批判がある。(…中略…)しかし、人種差別の煽動に対しても、基本的に差別の不当性を主張する言論によって対抗することが可能である。」
「また、そもそも『思想の自由市場』論においては、本来、だれでもが思想の自由市場に登場することを禁止されていなければいいのであって、表現行為のしやすさや思想内容の受け入れやすさは問題とならない。それゆえ、実際に反論することが困難であるとか、反論が有効性をもたないがゆえに『思想の自由市場』論は十分には機能しないので、当該表現を禁止すべきだという主張は、『国家の規制によってこそ健全な思想の自由市場が確保されるという理解』をとるものであって、『思想の自由市場』論に立つ表現の自由論に大きな修正を加えようとするものである。しかし、こうした立論を安易に認めれば、『〈思想の自由市場〉の実質的な保障』、『表現の自由を守るため』といった名目で、国家による広い範囲の表現行為の禁止が認められることになり、表現の自由の保障は大きく損なわれることになるであろう。」

次回も第6準備書面について、続きから紹介していきます。