それぞれの土地には独特の訛や
節回しで根付く方言があるもので。
標準的な日本語は理解できても
発する時はお国言葉で語っちゃうのが
田舎の面白さでもあるんだけんども。
私の住む地域では訛も方言も
異次元レベルで飛び交う上に
個人の癖が加味されると
日本語としての原型までもが
霞んでしまうケースもよくある。
かなり山奥に住む高齢の方から
介護施設を通して依頼を受けた
住宅設備のメンテ作業に行って来た。
現場では担当者が仲介というか
お婆ちゃんの話を聞き取り
かなり濃い目の方言をやや軽めの
方言に変換して、、大声で丁寧に
一つ一つ私に伝えて下さったのだ。
「大丈夫ですよ、僕もそれぐらいの
語りは普通に分かるので 笑」
でも、お婆ちゃん側へ伝える場合は
ある程度の声量が必要だし
耳元で叫ぶぐらいに対応する
そのひと手間がかかりますので
と笑って私にも大声で伝えて下さった。
「まこてすまんどん、こけ
こん釘をうっ込こんでくれんどかい」
”申し訳ないけど、ここへ
この釘を打ち込んでもらえませんか?”
担当者:「はい、職人さんに伝えますね」
私は他の作業中だったけど
担当者とお婆ちゃんの会話は
かなり大声なので十分に聞こえていた。
「こけ、じさんのもっちょった
とんちがあっでつこっくいやんせ」
”ここに爺さんの持っていた
トンカチがあるから使って下さいな”
担当者:「すいません、ここに釘を
打って頂きたいのですが
このとんちも使って下さい
との事なんですけど、、」
えっ!!作業内容は分かるんだけど
”とんち”ってトンカチの事ですよね?
その"とんち"って単語はこの地域の
方言でもないはずだし、たぶん
お婆ちゃんの言い間違いだと思う?
けど、、ま、、今はそんな事を
いちいち問うて確認する程でもないし。
私は気にせず自分の玄翁で
指示された箇所へ釘を打とうとした
その時にその様子をじっと見ていた
お婆ちゃんに一言
クギを刺されてしまった。
「こんとんちでうっ込んでくれんどかい」
つまりは、わがままなお願いだけど
そこに釘を打つ際に爺さんの
形見であるこのトンカチを
是非、使ってもらえませんか?
昔はそれぐらいの事は
自分で出来ていたのに、、
今は体がかなわんので
誰かにお願いするしかないんです。
あなたがこのトンカチを使って
打ち込んでくれたらなら
このトンカチも爺さんも
きっと喜ぶと思うんだよね
……そういう事だったんですね♪
了解しました、お安い御用です!
担当者:「良かったですねー♪
お爺さんのとんちが
役に立ちましたねー!」
えっ!!やっぱりそこは
たぶんトンカチだと思うけど、、
担当者の方もきっとこの場は
お婆ちゃんに合わせて
”とんち”って言ってるのかも?
でもあんなに真顔でまったく
動じる様子もなくお二人の会話が
”とんち”で成立しているので、、
ついつい自分でもトンカチについて
こっそりと調べてみました。
やはり”とんち”からハンマーや
トンカチなどに繋がる情報は何も
確認ができなかったので、、
業種によって呼び方も使用目的も
違って見える程に種類が多いのは
確かなことなんだけどなぁ。
まさかの登場で動揺した"とんち"話は
飲んでわざわざ語る程でもないゆえに
完全に行き場を失ってしまった。
結局、とんちに突っ込むタイミングも
とんちの意味を聞く事もないままで
担当者とは世間話で終わってしまい
そのままにして帰ってきてしまった。
私は軽めのフラストレーションを
何となく引きずっていたけど
いつの間にか昨晩もぐっすりと寝れた。
鼻毛が出てますよぉとか
チャックが開いてるよぉとか
値札が付いたままですけどぉ
なんて場面を目にしても
お声掛けは難しい社会なんだけど
見て見ぬ振りも優しさだろうし
さりげなく指摘するのも愛情だろうし。
笑っちゃうのは失礼だけど
笑いに出来たら理想だな、とか
とんちの利いた会話ができる
一休さんにはなれなくても
釘を打ち込むひと手間に
拘ったお婆さんの感動話の内訳は
とんちに全部、奪われましたぁ!
