こんにちは、たけよしです。
今年に入ってからいくつかご相談いただいていますが、ブログでこの件に触れないわけにはいかないと思い、注意喚起も含めての記事です。
去年から今年にかけて、随分と仮想通貨がもてはやされるようになり、「億り人」という仮想通貨で一発当てた人が本やテレビの取材を受けるようになりました。
ラッキーだったのか読みが当たったのか、どうやって儲ければいいのかはとりあえず置いておいて、みなさんきちんと税金のことは考えているのでしょうか?
特に今年の急落で文字通り破産する人もいるのかもしれませんが、脅しではない怖い話を質問・対話形式でしてみたいと思います。
参考文献:http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/171127/01.pdf
「仮想通貨とは、税務的にどのような扱いになるのですか?」
⇒個人で売買を繰り返している場合、原則として雑所得になります。
雑所得なので、仮想通貨取引で損が出たとしても給与や事業所得と損益通算することはできません。
例外的に、個人事業主が取引の決済として仮想通貨を使用している時や、仮想通貨の売買で生計を立てていることが客観的に明らかな場合(デイトレーダーのような状態)は、事業所得となる余地はあります。
「仮想通貨の売却による税率は何%くらいですか?」
⇒他にどれくらいの所得があるかによりますが、最高で住民税と合わせて55%の累進課税です。
例えば、他に給与や年金や不動産等の収入が全くない人が1年間で1億円稼いだ場合、所得税が約4000万円、住民税が約1000万円になります(簡便化のため、基礎控除のみ考慮しています。)。
「仮想通貨で家電を買ったのですが、課税されますか?」
⇒利益が出ている限りにおいて、課税されます。
イメージとしては、商品購入前に仮想通貨を現金に交換し、その現金で家電を買ったとみなされ、家電の値段と仮想通貨の取得価額の差額に課税されます。
「仮想通貨Aで仮想通貨Bを買ったのですが、課税されますか?」
⇒家電のケースと全く同様に課税されます。
「仮想通貨を現金で買った時は課税されますか?また、仮想通貨が分裂したときは課税されますか?」
⇒これはどちらも課税されません。あくまで等価交換した扱いになり、所得が発生していないためです。
国税庁が出している情報はここまでです。
ここまでは別に怖い話は何もありませんね。ただし、上記から派生する論点については非常に怖いものがあります。
「じゃあ、仮想通貨Aでは利益が出たけれど、仮想通貨Bでは損失が出ました。これはネットすることはできますか?」
⇒所得税法35条2項2号から、これは可能だと思われます。
また、仮想通貨を売買するのにパソコンやスマホを使った場合、経費割合を考慮する必要がありますが利益の範囲内でパソコンやスマホの取得や維持にかかった支出は経費にすることはできると思われます。
「所得税法
第三五条
1 略
2 雑所得の金額は、次の各号に掲げる金額の合計額とする。
一 その年中の公的年金等の収入金額から公的年金等控除額を控除した残額
二 その年中の雑所得(公的年金等に係るものを除く。)に係る総収入金額から必要経費を控除した金額」
「それは良いですね。私は趣味で"せどり"(本の投機的売買)をやっているのですが、仮想通貨の損失とせどりの利益をネットできますか?」
⇒同条項では、その年中の雑所得に係る総収入から経費を控除した金額(に課税する)とされており、取引の性質に応じて区別して損益を計算するようにという記載が無いことから、これはネットできると思われます。
「そうですか、良いことだらけですね。では、ある年に仮想通貨を売買しましたがうまくいかず、確定した損が出てしまいましたが、これを次年の利益と相殺できますか?」
⇒これはできません。株式や先物は租税特別措置法で損失の繰り延べなどが特別に規定されていますが、仮想通貨にはそのような規定がないため、翌年の利益と相殺できません。
例えば、
・X1年に100万円の損が確定した。
・X2年に150万円の利益が確定した。
という場合、X1年は損失なので税金はかかりませんが、X2年は150万円に対して税金がかかります。150-100=50万円に課税ではありません。
「そうなんですね、ちょっと残念です。株や先物の話が出てきましたが、株や先物は利益の20%(復興税除く)に課税され、利益が10万円でも1億円でも20%のようですが、仮想通貨の税率も20%ですか?」
⇒いいえ、これも特別な手当てがされていないので、上にも書いたように累進課税が適用され、最高税率は55%です。
つまり、損を出したときは将来の利益を減殺するようなメリットが無いにもかかわらず、利益が出たときは最高55%で課税される、かなり税制的には搾り取られる商品と思われます。
「うーん、そうですか。では、含み損や含み益はどうなりますか?」
⇒含み損や含み益の状態は、仮想通貨が別の物に変わっていないため、等価交換した状態が維持されています。
端的に言うと、含み損益の状態であれば課税や損失の切り捨ては無いので、例えば、
・X1年末に100万円の含み損があった。
・X2年中に、この100万円の含み損を確定させた。
・同じX2年中に150万円の利益が確定した。
という場合は、X2年は50万円に対して税金がかかります。
「判りました。ちょっと気になることがあります。実は、過去に10万円で買ったビットコインがあったんですが、平成29年はビットコインがかなり暴騰して1億円程度儲けました。さすがにビットコインはもう終わりだろうと思い、平成29年中に全額を別の仮想通貨であるリップル(時価1億円分)に変えたのですが、平成30年に入って全体的に暴落しちゃったんですね。もうこれ以上資産が減るのは我慢できないと思い、全額を100万円で売却しました。トータルだと90万円の利益になりますが、この時の課税関係はどうなりますか?」
⇒それは大変運が悪かったですね。
この場合、H29は1億円-10万円の9,990万円に課税になります。一方、H30は含み損が9,900万円あるので、そこまでは税金はかかりませんよ。
「え?すみません、聞き取れなかったのですが、いくらに課税ですか?」
⇒約1億円ですね。
「いやいやいや、それはおかしいですよ。私は10万円でビットコインを買って、リップルに変えたとはいえ最後は100万円に落ち着いたんだから、90万円に課税ですよね?」
⇒いえ、約1億円に課税です。なぜなら、ビットコインをリップルに変えたとき、税務上は時価で売却したとみなされるためです。そして、平成29年から平成30年になり、年をまたいでいるので相殺できません。
もし、暴落が30年ではなく29年に起こっていて、かつ、29年中に処分したならば90万円に課税ですけどね。
「たけよしさん、マジでそれおかしいですって。だって、私は現実世界で何も買ってないんですよ?確かに1億円稼いだときはタワマン1室にフェラーリでも買ってやろうかと思ってましたけど、実際に何も買ってないんですよ。それどころか、仮想通貨が暴落して文無しに近い状態になってるのに、それで1億円に課税はおかしいでしょう?」
⇒おかしいと感じる気持ちは判りますが、これが税金の世界なんですよ。
例えば、私がビットコインで1億円利益を出して、それを全部換金して全額宝くじに突っ込んだとしましょう。
当然殆ど当たらず、100万円くらい手元に残ったとしますが、その時に「オレは確かに1億円稼いだが今手元に残っているのは100万だ。だから、1億円への課税は勘弁してくれ」という主張が通ると思いますか?
要は、稼いだ利益をどういう使い方をするかという問題であり、1億円を寄付しようがパチンコに突っ込もうが宝くじに突っ込もうがリップルに突っ込もうが、一時的でも稼いだ利益が1億円である以上、1億円に課税ですよね。
お金を失ったのは自業自得でありそこまで国税は親切じゃない、ただし同一年を除く、という感じですよ。
裁判まで行くとどうなるか判りませんが、少なくとも税務調査入ると1億円に対して課税求められますよ。
「知りませんでした・・・。ちなみに、税額はいくらくらいですか?」
⇒さっきも言いましたけど、所得税と住民税合わせて、約5000万円ですね。
国税の世界は、知らないは理由にはならないんですよ。
「・・・・・・すみません、常識的に考えても私のサラリーマンの稼ぎでは払えないんですけど。・・・税金から逃げる方法ってありませんか?」
⇒良く聞かれますけど、こう考えてみてください。
あなたと国税で、宝探しゲームをします。
宝を隠すのはあなたで、宝を探す鬼役は国税です。
宝を隠し通せたらあなたの勝ちです。
ただし、以下の条件が付きます。
・宝を隠す場所は、土の中のどこかにしか隠せない。
・国税は、土を掘るための重機や金属探知機など、何でも何台でも使って良い。
・国税は、人を何人投入しても良い。
・制限時間は7年。
この宝探しの勝負に勝てると思えるなら、逃げられると思いますよ。
現実的な話をしますが、仮想通貨がここまで世間で話題になった以上、今年の国税は仮想通貨を調査の最重点項目に挙げているはずで、調査官向けの研修をみっちりやっています。
仮想通貨を狙い撃ちで調査をすることが見込まれますし、仮想通貨はネット取引がメインである以上簡単に足もつきます。
相手が本気で狙っているところなのに、言い方は悪いですがあなたのような税務の素人が、事後的な工作のみで隠し通せると思うのは、宝くじで10億円当てる以上に難しいものだと思ってください。
予想ですが、今年の申告期限であるH30.3.15を過ぎると、仮想通貨の儲けを申告していない個人が脱税で逮捕されるニュースが出ると思いますよ。
ところで、不動産ってお持ちですか?
「不動産は、投資用のマンションを5室持っています。」
⇒そうですか、では滞納処分に係る差し押さえが入る可能性が高いですね。
租税債権は最強の一般債権(国税徴収法8条)なので、あなたの総財産に対してかかってきます。
当然、居住用でない投資用マンションは格好の対象ですね。
「それなら、先に売却してしまいましょう。」
⇒売却しても構わないですけど、借入金の返済はできますか?
「いや、全額はできないです。今売ってしまったら借金だけ残ると思います。」
⇒それなら、実質的に売る意味ないですね。そうなると、家賃収入は国税に全て持って行かれると思ってください。
まあ、預金も銀行調べれば一発なので、これも持って行かれるでしょうね。
「何だかお先真っ暗で話が全然頭に入ってこないんですが・・・。じゃあ、こうしましょう。マンション5室持ってても仕方ないし、どうせ国税に取られるなら奥さんと子供にあげてしまいましょう。預金も併せて。贈与税が云々というのはあるかもしれませんが、一文無しになるよりましですよ。」
⇒ちなみに、国税通則法42条で民法424条を準用しているんですが、民法424条に詐害行為取消権というものがあるんですね。
要約すると、債権者(国税)の利益を害する目的で資産を減少させる行為をした場合、債権者は裁判でそれを無かったことにできるという規定です。
今回、奥さんと子供への贈与は明らかに税逃れなので、詐害行為認定される可能性は高そうですね。
つまり、そんな安易な方法で逃げることはできないということになります。
「(投げやりに)わかりましたよ。じゃあ、自己破産します。破産しちゃえばすべての債務は消えるので、国税もざまーみろってことですよね♪」
⇒残念ながら、どこまでも安易としか言えないですね。
破産法253条1項に、破産しても免責されない債務というのがあります。
この1号の筆頭に、租税債権というのがあるんですね。
つまり、自己破産しても租税債務は消えないので、文字通り死ぬまでお国のために税を納めることになります。
破産法
第二百五十三条 免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
一 租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権を除く。)
「・・・・・・世の中何でこううまくいかないんですか!本当に私は何も買ってないですし散財していないんですよ。うちには奥さんと小さい子もいますし、年老いた両親もいて今後は介護にもお金がかかる。それなのに、今後一生滞納税金を払い続けるなんて自殺するしかないじゃないですか!」
⇒この期に及んでさらに追い打ちをかけるようで恐縮ですが、租税債務は相続の対象になります。
おそらく、今のあなたが亡くなったとして正味の財産は無いと思いますが、遺族が相続放棄をしなかった場合、その税金は奥さんとお子さんが負担することになります。
相続放棄の期間は民法915条1項から3か月とされていますので、あなたの葬式からきっかり3か月後に、あなたの奥さんとお子さんのところに徴収職員が来ると思いますよ。
あなたに租税債務があることを奥さんやお子さんが知らずにあなたが富士の樹海に行ってしまわれた場合は、どうなるか判りますよね。
「・・・仮に私が自殺しても、自分の一族に国税が襲い掛かるということですね・・・」
⇒あと、仮に奥さんやお子さんがうまく相続放棄できたとしても、次はご両親、その次はご兄弟や甥御さんや姪御さんが相続人になりうるので、彼らにまで租税債務が及ぶことがあります。
もし、どこかで相続放棄を失敗した場合は、あなたの一族で5000万円を負担することになりますのでご注意ください。
仮想通貨でこんなに大損したなんてあまり他の人には言えないでしょうし、特に家族には口が裂けても言えないと思いますが、ご家族はご存じないですよね?
「たけよしさん、何とかしてください!」
以上は創作ではありますが、この相場の流れを見てみると悲観的な夢物語とも言ってられなくなってきますね。
税制も含めて、自分自身で理解できないものには投資しない、これが鉄則だと思います。
気休めかもしれませんが、仮想通貨に関するご相談も乗りますので、気になることがあればご連絡ください。(ただし、有料となります。)
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