人から何かを聞かれることは結構あった。聞かれたことに対して真剣に考え、こたえるからだろうか？聞かれることを嫌がらなかったというのもある。自分が経験することなどたかが知れている。自分が経験しないことを他人が経験し、そのことで問題が生じるなら、自分に起こったこととして考えることができる。これは他人の将棋を観戦しながら「自分ならどう指す？」と同じことだ。つまり、他人から学ぶということになる。他人の指し手と自分の指し手は違うが、他人の将棋の責任は他人にある。

同じように、他人が抱える問題の責任は他人にある。相談を受ければ共に考えるが、自分の意見は自分の性格に沿ったもので、押し付けや強制はすべきでない。「人生相談」の類は、他人が他人に自身の主観をアドバイスすることだから、他人の主観に馴染めぬことはある。ましてや自分に合わないことを行為しても上手くいかない。相談を受けて「こうすれば解決する」とアドバイスして解決をみたことは幾度かあった。が、自分の提示した方法を、「私にはできない」というのは少なくなかった。

「できない」・「いえない」はその人の性格である。だから、「なんでそんな簡単なことがいえないの？」などというべきでない。女性に思いを告白すべきかどうか？という相談は多かったが、「何かをしないで何も起こらない」とだけ言ったが、何かが起こるというのは、良いことばかりでない。良くない結果にあっても、自身が処理するしかない。「告白」にはそういう覚悟がともなう。上手くいったときは、「ほんとうかい！」自分のことのように喜んだが、打ちひしがれることもあった。

「白黒ついた以上はキッパリと気持ちを切り替えることだ。女なんか腐るほどいるじゃないか」を定番にしていた。男には慰めより励ましを選ぶのがいい。「女なんか腐るほどいる」が大事である。諦めの悪い男も中にはいるが、そういう奴には「ダメをダメでなくする方法はない。だから問題は解決したんだよ！」と釘を刺した。「不可能を可能にする方法」は、自身のことなら「努力」もできるが、しつこく迫るの努力というより、相手の迷惑となる。恋というのは対象喪失も含めて恋なのだ。

告白して断られた相手に罪はない。潔く諦めることが、自分が想いを寄せた相手を生かすことになる。だから、「女はいくらでもいる」と思うしかないが、「自分にとっては彼女以外の女性は考えられない。」という男は困ったものだ。困ってもつけるクスリはないので「お前の気持ちだから勝手にしろ」とサジを投げるしかない。うじうじする男の傍にはいたくない。好転することもない無駄で空虚な時間を過ごすが、それを望むなら仕方がない。男に同情は無用で、甘やかして何のいいこともない。

男は男への対処を分かってやっている。傷つきやすい人間が傷つくのは当たり前のことだ。それを弱さといっても、弱いから傷つくのだから、批判をしても意味をなさない。女からこんな風に問われたことがある。「私は傷つきやすいんだけど、どうすれば傷つかないで入れますか？」これはすごく簡単なこと。「傷つきやすいなら、傷つかないようにすればいいだろ？答えはこれしかないな」。「それができないから聞いてるのに…」。「答えは一つ。それができないなら傷つかない方法はないよ」。

　　　

これほど単純で明解な理屈はない。あとは、自分にあった方法を見つけて実践するしかない。「自分ならこうする」といっても他人には向かない。「悩むのは問題が解決できないからで、悩まないためには問題を解決するしかない」。このことは持論となったが、そのことを自らに言い聞かせて邁進したものだ。傷つく人間が傷つかないようにするための方法はいくらでもある。それを自らで見つけ、努力する人間の勝利と思っていた。しょせん人間は弱いのだから、鞭で自分の尻を叩くしかない。

傷つくことは絶対に避けられない以上、傷つかない生き方を選ぶよりも傷ついた時の対処が大事。自分は半端ないほどに傷つきやすい人間だった。そうであるなら、傷つくことに慣れるしかないというのが出した答えで、決して傷つくことを避ける、傷つく場に足を踏み入れないことではなかった。医学的にいうなら免疫をつけること。温室でぬくぬく育つ花より、野に咲く雑草が強いのは、雨風に耐えるからだ。物事をどのように受け止めるかで人は方法論を身につける。強さというのはそういうことか。

将棋の強い人は、相手の戦法に対する対策を用意している。強さとは折れない対策を用意することでもある。だから不可避なことは避けないことだ。随分前、巨人軍の長嶋茂雄選手は「私はプレッシャーを楽しんでいます」と発言して話題になった。傷つくことを楽しめとはいわないまでも、人は人間関係で傷つくのだから、受けた傷を過大視しないことも大事。とかく人は受けた傷を大げさに考えがちだが、被害意識を高めることで感傷的になろうとするのは、自身を美化していることではないか。

自己に甘えていると言い換えられる。ある人が「十」に受け取ることも、別のある人には「三」となる。この違いを感傷度の差というのだろうか？「これしきのごとくでクヨクヨなんかしていられない」と鼓舞するもよし、「こんな傷は屁でもない」と思うもよし、すべては思い方ひとつ。会話途中に、「ごめんなさい。傷ついた？」という女がいる。なぜに傷ついたと思うのだろうか？まったく傷ついていないにもかかわらず。それで、「ごめんなさい」と点数をあげる。いい子ぶりっこの一人芝居か。

どうすれば相手からいい女と思われるか、甚だしき自作自演に思えてならない。口の悪さを誇るなかれ。「口は災いのもと」といい、「言葉は暴力」などといわれている。「言葉は心を隠すために与えられた」という聖職者もいた。言葉が何のためにある(存在する)か知らないが、あると便利で便利なものは使うに限るが、言葉は真実を伝えるとは限らない。嘘八百の言葉もある。どちらも人間が発することだから、騙されることもあろう。「騙された、騙された」と喚くが自分の罪はないのか？

そんなことはないが、人は自分のことが見えない。自分が受けたことは大げさにいい、他人に与えた傷については気づかない。それが人間である。人間だから納得するではなく、改めるべきは改めるのも人間の学習。学習人間と不学習人間とでは開きが大きいのは当然だ。「どうすれば傷つかないか？」それも学べば身に着こう。学んで得られないこともあるが、学ばぬよりはマシだ。人が真に学ぶということは、それによって自分が変わること。変わらないなら学んだことにならない。

「傷つきやすい人が傷つかないためにどうするか！」「傷つかないようにすればよい」と、女性にいった。「いじめを受けないためにどうするか？」「いじめられないようにすればよい」。どちらも同じでこれ以外に正解はない。答えは簡単、難しいのは方法論である。あとは自分にふさわしい方法を見つけて実践・努力すること。問題解決は生易しくないので努力が必要だ。「こうしろ・ああしろ」は自分の性格に即すもので、他人に当てはまらない。人は努力で自分を克服するしかない。

傷つかないためには