午前9時。
私は、時計を見ながら祈っていた。
年度末に近い3月19日。
朝のホームルームに、洋の姿はなかった。
4時間目の国語を休むと、単位が切れる。
単位が切れると、進級できない。
それが分かっていて、私にできることは何もなかった。
洋は高校2年生のクラス替えで私が担任になった生徒だ。
アニメとゲームが好きで、体育会系生徒からオタク系生徒まで誰とでも話せる、明るくひょうきんな子だった。
「洋、話を聞けよ(笑)」
「はーい、先生、すみません(笑)」
——そんな言葉のキャッチボールが、毎日のホームルームの定番になっていた。
でも、ある時期から、遅刻と欠席が増え始めた。
無届けのアルバイト、勉強への意欲の低下、「高校を辞めてもいいかも」という気持ち……。
私は繰り返し家庭訪問をして、「明日は来いよ」と軽い口調で声をかけ続けた。
叱るでも、詰めるでもなく、いつものノリとツッコミのキャッチボールを、玄関先でも続けた。
冬の三者懇談でようやく、洋の本音を聞くことができた。
アルバイトのシフトリーダーまで務めていたこと。
家を出て一人暮らしをしたいこと。
道外の国公立大学への進学を本気で考えていること。
……長い沈黙の後に出てきた言葉は、
「冬休みいっぱいでアルバイトを辞めて、受験勉強に切り替えます」
という宣言だった。
信頼関係が、ようやくここで実を結んだと感じた。
そして、3月19日の午前10時過ぎ。
「おはようございまーす(笑)」
職員室に、洋が来た。
「早く授業に行けや、ギリギリだべや(笑)」
「はーい、先生、すみません(笑)」
後から聞いた話によると、洋は「単位が切れてもいいや」と少し思ったらしい。
でも、「先生が困らないように」という気持ちが強くなって、登校したのだという。
それから10年後。
私にメールが届いた。
浪人して大学へ進み、就職したのち退職。
今はスペイン語を独学して海外で仕事をしている、と。
「高校2年生のとき、学校を辞めなかったことのお礼を言いたくて」
教師をやっていて、良かった。
心からそう思った瞬間だった。
進路指導って、「正解を教える」仕事じゃない。
ただそばにいて、軽い言葉のキャッチボールを続ける。
それだけで、人はちゃんと自分の道を歩いていく。
このブログでは、そんな「進路支援の現場」から学んできたことを、正直に、できるだけやさしい言葉で書いていこうと思います。
※ エピソードは、実際の思い出を元に創作しました。登場する生徒の名前は仮名です。
自己紹介
サトウカクマとは何者か
1975年、札幌生まれ、札幌育ち。
小さいころから吹雪をぼっと眺めるのが好きな、生粋の道産子です。
札幌第一高校から北海道大学に進学し、その後は工学部電気工学科を卒業しました。
さらに大学院工学研究科でパワーエレクトロニクスを学んでいましたが、ひょんなことから「教えること」の面白さに気づき、方向転換。
北大・大学院教育学研究科に進み直し、修士課程を修了しました。
9歳のころからパソコンに触れていて、当時はポケコンやMSX、ぴゅうたなどで自作プログラムをつくって遊んでいました。
あのころは「将来はプログラマーか技術者に」と思っていたのに、気づいたら教壇に立っていた。
人生って、不思議なものですよね。
30年近く、ずっと「進路」と向き合ってきた
- 塾講師:8年
- 母校・札幌第一高校(私立):9年
- 北海道E高校(道立):4年
- 北海道K高校(道立):4年
- 札幌Y高校(私立):5年
- 札幌S高校(私立):今
担当教科は理科(物理)ですが、気がつけば進路指導がライフワークになっていました。
進学校でも、進路多様校でも、公立でも私立でも。
あらゆる環境で「生徒の進路」と向かってきました。
2019年には国家資格キャリアコンサルタントを取得。
2023年からは北海道大学工学部の非常勤講師として、大学生向けに「職業指導論」を教えています。
著書(共著)として『高等学校所見文例集』(学事出版)があるほか、全国の現役高校教師グループ「チームSMASH」のメンバーとして、『高校教師のための進路指導・就職支援』(学事出版、2025年)を執筆しました。
「出口指導」から「伴走」へ
かつての進路指導は、正直に言えば「出口指導」でした。
偏差値を見て、受かりそうな学校を決めてあげる。
就職なら求人票を渡して「ここにしなさい」と言う。
でも、それだと生徒は「先生に言われたから」という理由で進路を決めることになります。
壁にぶつかったとき、すぐに折れてしまう。
人生のハンドルを握るのは、生徒自身です。
私たち教師の役割は、助手席に座って
「運転の調子はどう?」
とか
「あの道、工事中らしいよ。どうする?」
みたいに、一緒に考える伴走者だと、今は思っています。
これは、20年以上現場で失敗を重ねてたどり着いた、私の「進路フィロソフィー」です。
このブログで発信すること
主に3つの内容で書いていこうと思っています。
① 進路指導・キャリア教育の実践知
高校の現場で本当に使えるノウハウを、惜しみなく。
担任1年目の先生でも、明日から使えるものを意識して書きます。
② YouTube進路指導講座のテキスト版
「教員1年目の進路指導マスター講座」の内容を、読んで学べる記事として届けます。
動画が苦手な方もどうぞ。
③ 進路メルマガ「切磋革馬」の発展版
メルマガで書いてきた内容に加筆・再構成した記事も公開していきます。
将来的には、有料記事・有料マガジンで「より深い実践知」をお届けすることも考えています。
まずは無料記事で、このnoteの空気感を感じてみてください。
読んでほしい方
- 進路指導を初めて担当した(または担当する予定の)高校教員
- キャリア教育に関心がある教育関係者
- 「自分は何のために働くのか」を考えたい方
- 高校生や大学生のお子さんを持つ保護者の方
最後に
私が担任をしていたころ、学級通信のタイトルは「切磋革馬」でした。
座右の銘「切磋琢磨」と、自分の名前「革馬」を掛け合わせた造語です。
第1号はいつも、自己紹介から始めていました。
このブログも、その精神で。
お互いに切磋琢磨しながら、生徒の未来を一緒に考えていきましょう。
どうぞよろしくお願いします。

