あなたはわたしじゃない
わたしだってあなたじゃない

でもそうであれば
ちかくあれば

すこしのせつなさも
くるしさも
こいしさも
知らずに済んだ?

それならば
とおくても
さわれなくても

いつだって
あなたに恋してたいわ

いつだって
苦しさを乗り越えるわ

悲しみの雨、降るときは
傘を差し出したい
濡れた身体にタオルを押し当てて
冷えた皮膚を温めたい

あなたはわたしじゃない

一時すれ違えるならば
とおくてもいいよ

あなたのあたたかな笑顔
わたしの希望だから
まだ私が制服のスカートを短くするのを躊躇うような子供だった頃。

美術準備室のベランダ。
CDプレーヤーを聴きながら絵の具を盛り付けたような入道雲を見ていた。
持っていた唯一のCDは椎名林檎の『無罪モラトリアム』だった。
空と初夏の香りに合わせて一番最後に入っている『モルヒネ』をリピート再生して1日過ごした。
私は授業に出ない子で、人間関係が嫌いだった。
どうしたって仲良くなったりとかが出来ないのだ。
複数人でいるのは楽しくない。
1人で空を見ているほうが楽しかった。
ベランダで数学の教科書やら理科のプリントやらを膝に置いて、1日分が終われば昼過ぎに下校する生活。
みんなが帰るような時間に帰るのが嫌だったから。

それなのに一回だけ、18時頃までいたことがある。
うたた寝をしてしまい、気付けば目の前には夕日で燃えた街並みが見えた。
何て素敵なんだろうか。

ベランダの柵に肘をかけてみたら、下に見慣れた男子がいた。

『おい。何やってんだよー!』

彼もまた私に気付いた。
6年も片思いしていたひと。
そうだ。あいつはテニス部だった。
このぐらいの時間まで壁打ちぐらいやっている。
『なんでもなーい。今から帰るー!』
私は応えて、急いで帰る準備をした。
窓の戸締まりはしっかりと。
CDプレーヤーは隠して。

『よぉ』

やっぱり来てしまった。
テニス部に入ってから足も早くなったようだ。
いつも、来るんだ。

『なに?なんなの?』
『べつに』
『はぁ?』
『ちょっと来いよ』

腕を乱暴に掴まれ、また美術準備室に入る。
授業に何で出ないのかとかすぐ帰るのかとか聞かれたが、漠然とした答えしか出せなかった。
面倒くさいという感覚はわからない人にはわからないのだから。
彼は顔を赤くしたまま、私を殴った。
痛いし、腹が立った。
帰ろう。

『帰るね。』
『ちょ…』



『ちょ…』



数秒後に私も同じ事をつぶやいた。
少し汗臭い匂い。
太陽に照りつけられたジャージの匂い。
体温の高い腕。
呼吸の音と、私の心臓の音。


カーテンが引かれていて良かった。
夕日が沈んで薄暗い部屋で青少年にあるまじき行為。

『帰る。これ、ここの鍵』

鍵を押し付けて、廊下を走る。
廊下を走らないように、そんなポスターが見えた。
それでも私は走った。
上履きのまま下校した。
6年の片思いは実ったのではない。
無碍にされたのだ。
レモンみたいにすっぱい記憶にしたかったのに。
告白というステップを飛び越えての抱擁。
悔しさが目から流れ出る。
私のちっちゃなかわいい記憶は、思春期の青さに踏みにじられた。
制服のまま布団に入り、寝た。
付き合うという事が出来る人間だったらよかったのに、と本当に思う。
彼は私なんかを大切にできるタイプじゃない。
私も彼と一緒のことで笑い合える女の子じゃない。


また、涙が流れた。








-私はひたすら唾液を吐き捨てる 密やかな 密やかな 恋に専念しました

驚きなのは
空色のカーテン

私の頬が赤く染まりゆく中で
高らかな 高らかな あなたの声を聞き

私はひたすら目を瞑って昔の 密やかな 密やかな 夢を見続け…-
飽きるような眩暈の朝。
またこの感覚。
泣きたくて綺麗。
そのうち放射能でこうやって朝を感じることが出来なくなるかもしれない。
こんな状況だから、余計に地球と日常が愛おしい。



『朝焼けが綺麗だね』
『クリームみたいだよね』

『いつもこんな会話してるね』
『うん』

『改めておはようございます』
『おはよー』