ブルー地にホワイトのロングタンクに浅めの前後フェンダー。原付だから当たり前だけど当然のシングルシート、でも何とシートの後ろには半帽のヘルメットみたいなシートストッパーまでが付いていた。これは2人乗りが必要ない原付のデメリットを、デザイン上のメリットに見事に変えていた。フレームこそ安っぽい鋼鈑プレスのTボーンフレームだったが、見た目の格好良さはメカに弱い俺達に、それを気付かせもしなかった。良い意味でお茶筒みたいなメッキエアクリーナーカバー。とにかく見た目は、まんま俺達のボーイズレーサーだったんだ。

 

でもエンジンを掛ければ、そこはやっぱり50CC。甲高いと云うよりは、残念ながらウィーウィーと唸る原付だった。そして悲しい事に原付の最高速30Km/hの速度規制。確かにお上が云うように、原動機付自転車に違いは無いんだよな。でも本気でアクセルを開ければ、俺達の“自転車”のエンジンはしっかりと応えてくれちまうんだ。そう、応えてくれないのは俺達の自制心だけだったみたいね。多摩川に掛かる、県境の鉄橋にある有名なネズミ捕りに一体何人の純真な?高校生達が泣かされた事か。おっさんのリヤカーを引くカブに並ばれて、アクセルを一捻りしない馬鹿が居るもんか。いかにもスピードに誘惑する様なバイクを作っておいて、今更原チャリは

30Km/hまでですよってのは残酷じゃんかよなぁ、みんな!メーカーも大きな構成改造もせず、外観の変更だけで安上がりなボーイズレーサーを手に入れたもんだよな。と云うより俺達がまんまと乗せられたって事なのか?

 

 バイクって奴は性能とデザインと価格のバランス。それと一番大事なのが“味”って奴だって事に、どうやら俺達は気が付き始めちまったみたいだ。違反切符は大人への苦い入場料みたいなもんだ。橋の向こう側に白バイが待ってるのを知っていたら、いくら馬鹿な俺達でもさ、アクセル開けるような本当の馬鹿は居ないよな、絶対に!