ペットと飼い主さんを言葉でつなぐ 動物対話士
上田 真一郎 です。
12月募集は継続コースのみで
新規募集は未定です。
通常セッションは残4名お受けできます。
下記よりお問い合わせいただきましたら
折り返しこちらから詳細をお送りします。
彼女は少しだけ遅れて待ち合わせた三宿の
ファミレスにあらわれた。平日の昼下がり
だから静かかなと思っていたけど賑やかな
子供連れの団体と隣り合わせになってしま
ったので席を離れた場所に変えてもらった。
席に着くなり徐ろに八つ切りの印画紙が入
っていた薄手の袋の中から数枚のプリント
を取り出して見せてくれた。
サービス判のスナップの他に、一枚だけ八
つ切りサイズに焼かれたカラープリントが
あった。スナップ写真にはとても綺麗な顔
立ちのグレーの猫が写っている。
あまり猫の名前は詳しくないんだれけど、
ロシアンブルーという名の猫だろうか。
一枚だけ、彼女と頬を寄せ合って写ってい
る写真があった。
僕は思わず呟いてしまった。
「おんなじ顔してますね」
人間の女性と猫が同じ顔、というのも可笑
しな言い方だと思われるかもしれないけど、
本当にそっくりの二人だった。
「よくそっくりだって言われてました」
彼女の(人間の)瞳が泣き腫らしたように
赤かったのが気にはなったけどそれは余計
な詮索に思えて触れないでいた。
それよりも驚いたのが八つ切りに引き伸ば
された写真だった。
日中の部屋の中で、床に置かれた小さなミ
ラーボールに陽があたってキラキラと反射
している写真なんだけど、その光の中にク
ッキリと明らかに猫だとわかるフォルムの
光の影が映り込んでいた。
僕はそのプリントを手にとってじっくりと
見させてもらった。
「これ、ネガだよね」
「そう」
まだ今のようにデジタルカメラが出回る前
の、銀塩カメラ時代の写真だった。
愛猫が亡くなった後に写真に映り込んだ影
は明らかに彼女の愛した猫だった。
僕は隈なくその写真を見て、合成ではない
事と同時に、彼女の依頼の答えもその写真
から伝えてもらった。
猫の彼女の名前は仮にヴァレニエとしよう。
ヴァレニエは3年と6ヶ月でその短い生涯
を終えた。
その事を人間の彼女はこの十数年間ずっと
心に後悔の念や申し訳なさを刻んだまま生
きてきたそうだ。
「ヴァレは恨んでませんか?私のこと」
その答えはすべてこの光に溢れた写真の中
にありました。
この二人は双子、ツインズです。
いつも動物とセッションさせてもらうと実
感することがあります。
どうして動物たちって時空を超えて自分の
人生を決定していけるんだろう。
という想いにいつも僕の心は満たされます。
ヴァレニエは、その後の彼女の仕事の為に
その命を捧げました。
そして、哀しい別離(わかれ)をする事で
猫好きの彼女がどこかで猫を拾ったりして
目標に向かう途上の足枷にならないように
したのです。
その後の彼女は見事に目指した道の第一線
で活躍しています。彼女自身のショップに
は【ヴァレニエ】の名がついています。
「嫌がってないですか?
自分の名前を使われて」
ここまで読んでくれた人ならヴァレニエが
どう想っているか、わかりますよね。
僕が「素晴らしい子でしたね」と言うと、
最後に彼女がこう洩らしました。
「でもね、突然暴れて手がつけられなくな
って安楽死を考えたこともあったんです」
「それ、貴女もそうだったんじゃないです
か?情緒不安定になったりヒステリック
になったり」
「・・・・そうでした・・・・」
だって二人は掛け替えのない双子ですから。
今回のタイトル、なんとなく S&G の名曲
【 April Come She Will 】が浮かんだので。
感想をいただきました。
ありがとうございました。
今回写真掲載のお願いをした際に、最初は
大切な写真だから、と断られたのですが、
とても素晴らしい話なので無理をお願いし
て掲載させていただきました。
重ねがさねありがとうございました。