JEWEL -3rd style- -2ページ目

サスペンス-03

密室と言うには少し無理があるが、窓の鍵が開いていた所で違いはあるのだろうか?
そりゃあ貴公子のように普段から出入りしている人間なら別ではあるが……。
密室殺人……泰知の言うとおり、連続殺人の前触れだとしたら。
もしそうなったとしても……杏子だけは俺が守らなければ。

悠「こっちの準備は出来た。そっちも準備が出来次第、杏子と合流して部屋まで来てくれ」
翔「ああ、分かった」
内線電話を切った俺は隣の部屋の杏子を迎えに行き、そして悠貴の部屋に向かった。
悠貴の部屋は俺達の部屋から正反対の場所にあるのに同じグループ……というのが気になったが、他のグループは部屋が隣同士だから仕方が無いのだろう。
なにより、会長の提案だし。

悠「反対側なのに悪いな」
翔「俺達の方が近いんだし先に合流したほうがいいだろ? だから気にすんな」
悠「そうだな。さてと、貴公子を迎えに行ってから食堂だな」
翔「それなら先に迎えに行けばよかったな」
悠「いや、今の貴公子は誰も信用しないだろうから会ってはくれないと思う。俺もあの後に説得するのは結構大変だった」
翔「そうなのか」
悠「会長ならあっさり説得出来るんだろうが、あの状態の貴公子を俺じゃあな……他に動ける奴もいないしな」
翔「なるほどね」
杏「……ねぇ、本当に尚哉が渚を殺したの?」
悠「昨日も言ったが証拠が無いからまだ断定はできない。だが……」
杏「……」
悠「大丈夫だ、俺も貴公子がやったとは思っていない」
杏「私も……私も信じてる」
翔「じゃあ、早く迎えに行こうぜ」
悠「ああ」

悠「貴公子起きてるか? 昨日言ったとおり迎えに来たぞ」
悠貴が部屋のドアを叩く。
杏「反応……ないね」
翔「またシャワーでも浴びてるんじゃないのか?」
悠「昨日も浴びて今日も浴びるなんてさすがにないと思うが」
しばらく待ってみるが、やはり反応が無い。
悠「貴公子……?」
悠貴がドアノブを回してみる……鍵が開いている!
悠「おい貴公子!」
そのままドアを開けて部屋に入る悠貴に続いて俺も後に続く……くそっ、嫌な予感がする。
悠「……来るな!」
先に部屋の半ばまで入った悠貴が大声で制止する。
悠「翔平、悪いが獅太郎からカメラを借りてきてくれ……」
その一言で察してしまった……。
同じく状況を理解した杏子は膝をついて震えている。
くそっ……なんでこんなことに?

獅「どういうことなんだ悠貴?」
食堂に集まり朝食……という空気にはならず、重い空気の中で獅太郎が質問する。
悠「単刀直入に言おう、貴公子が殺された」
佳「ちょっと、貴公子が犯人じゃないの?」
悠「そんなこと言ってる場合じゃなくなったことだけは間違いない」
佳「……」
舞「して悠貴、状況はどうだったんだ?」
悠「ああ……部屋の鍵はかかっていなかった。血も固まっていたところを見ると今さっき殺された……という訳でもない」
佳「何? どういうこと?」
舞「つまり、夜中のうちに殺された……そうだな?」
悠「ああ……」
泰「深夜の殺人となれば」
瑞「みんなのアリバイなんてある訳が」
悠「一応だ、夜中のアリバイがある奴は先に聞いておく」
「「「……」」」
悠「聞くまでも無かったか。さて……今のうちに言いたいことがあれば言っておけ」
佳「警察……そうよ、警察はどうしたの?」
悠「昨日のうちに通報はしたが、来ないと思ってよさそうだ」
佳「どういうことよ!」
悠「昨日南米で地震があったらしく、津波の関係で出て来れないらしい。またヘリも距離があるので無理だとのこと」
佳「そう・・・」
翔「なぁ、本当に俺達の中に犯人がいるのか? 言っちゃ悪いけど、ホテルの人の可能性だって考えられるだろ?」
悠「そう思って昨日確認しといたが、全員アリバイがあった。今日のアリバイも多分あるだろう」
獅「というと?」
悠「夜中は仮眠室で寝ているか、二人ペアで仕事をするらしい。その仕事場が仮眠室の隣だから、どちらの人間も抜け出して……ってのは無理だろう」
「「「……」」」
悠「他に無いなら今後について多数決を取る。朝食が終わったらみんなで食堂にいるか、それとも各自部屋で待機するか」
泰「俺はどちらでも」
瑞「同じく」
獅「デジカメの編集したいから部屋で待機かな」
佳「言うまでも無く部屋よ」
沙「あたしも部屋にいた方が落ち着くぜ」
舞「私もどちらでもいいが……どちらかと言えば部屋に戻りたいところだ」
悠「やはり一緒にいるのは嫌か……。後は翔平達だけだな」
杏「……」
翔「杏子?」
杏「……あ、ごめん。どうしたの?」
翔「朝食の後はみんなで食堂にいるか、それとも部屋に戻るかって話なんだけど」
杏「あ、うん……」
翔「大丈夫か? 顔色悪いんだけど」
杏「な、何でもないよ。だから大丈夫……」
翔「なんか大丈夫じゃなさそうだから部屋で」
悠「多数決取るまでも無かったな。それじゃあみんな、部屋に戻るときもグループ行動を忘れずにな」
その後、沈黙が支配する食堂で朝食を取った。
おいしい……おいしいはずなのに、なぜか箸が進まなかった。

悠「それじゃあ、何かあれば内線で」
翔「ああ、またな。行こう杏子」
杏「……」
翔「杏子?」
杏「ま、待って。二人に聞いて欲しいことがあるの」
翔「大丈夫か? 相変わらず顔色悪いぞ」
杏「そんなことよりも大事な事なの」
悠「……分かった。んーと、部屋に入ったほうがいいか?」
杏「うん、出来れば……」

悠貴にお茶を出してもらい、少し落ち着いた杏子が話し始める。
杏「この事件のことなんだけど、私も関係しているの」
翔「え……?」
杏「えっと……どこから話せばいいのかな?」
悠「まとまりが無くてもいい、思った順に話していけばいいさ」
杏「うん、えっとね、もしこの事件が続くなら次に殺されるのはきっと私だと思う……」
翔「なんでまた?」
杏「流時の誕生日……今月の一日になんだけどね、その日に私達は人を死なせてしまったの」
翔「冗談……だろ?」
杏「もちろん事故で……だよ。でも結果としては私達が殺したようなものなの」
悠「八月一日の事故で高校生が関係しているとなると……もしかして妊婦事故死のことか?」
杏「うん、それ……。私達がふざけながら歩いてたら女の人にぶつかってしまって、そのまま女の人は……」
悠「高校生とぶつかった女性が車道に押し出され、そこにトラックが突っ込んだ。たしかそれは事故で片付けられたはずだが……?」
杏「うん、そう……なんだけどね。でもそれだけでは終わらなかった」
翔「どういうことだ?」
杏「その女の人はずっと弟妹と三人で生きてきたんだって。そしてその女の人は最近結婚して、今度は出産間近ということですごくうれしかったと思うの」
悠「なるほどな。事故を事故と割り切れずに逆恨み……よくある話だな」
翔「それがこの事件とどう関係があるっていうんだよ」
杏「その弟さんか妹さんがうちの学校の生徒だって話なの」
悠「つまり、その人の弟妹が俺達の中にいて復讐しているってことか」
杏「みんなには言ってないけど、流時もその人か分かんないけど刺されて……今入院してる」
翔「流時が来ないのってそんな理由があったのか」
杏「だから……きっと次に狙われるのは私なの。怖い……怖いよ……」
杏子が泣き崩れる。
俺はそっと抱きしめて落ち着かせる。
悠「そうか……なら話は早い。事務所の人に調べてもらえばそれまでだ」
翔「そんなこと出来るのか?」
悠「ノーパソは持ってきてあるからな、データを送れば急ぎでやってくれるさ」
翔「すごいな」
悠「なに、これぐらいまかせろってもんだ」
杏「ぐすっ……ありがとう」
悠「気にすんなって。それよりもこれからはお前達は二人でいるのがいいんじゃないか?」
翔「ああ、そうだな」
悠「出来れば翔平の部屋にいた方がいい。さすがに杏子の部屋だと心配だ」
そう話がまとまった所で俺達は悠貴の部屋を後にする。
悠「翔平」
翔「なんだ?」
悠「守ってやれよ」
翔「もちろんだ」

昼食の時間になり、みんなが食堂に集まる。
しかしグループごとに固まって、他のグループの人と話そうとはしない。
悠「同じグループの人同士は信用しあってるってことなんだから、別にいいじゃないか」
翔「でも、せっかくの旅行だってのにみんなと会話がないんじゃ……」
悠「だが、それももう少しの辛抱だ」
翔「早くそうなって欲しいぜ」
杏「うん……」
翔「それよりも……どうなんだ?」
悠「……」
無言で首を振られる。
さすがに一時間二時間では調べるのは無理らしい。
悠「しかしさっきより顔色よくなったじゃないか? 二人っきりってのがよほど良かったと見える」
杏「そ、そんなことないよ」
照れながら否定する杏子が可愛くて見とれてしまう。
悠「その調子なら大丈夫そうだな。ほら、向こうにもお前を心配してこっちを見ているのがいるだろう?」
杏「あっ……」
さらに顔を赤くして照れる杏子……この笑顔だけは必ず俺が守る、そう決意させる瞬間だった。
悠「さってと、鯛の刺身も食ったし俺の方でも動いて見るか」
翔「何する気だ?」
悠「現場をもう一度見て回ってくる」
翔「大丈夫なのか?」
悠「他のグループは団体行動してるから俺一人でも安心して動けるのさ」
翔「なるほどな」
杏「でも、気をつけてね」
悠「ああ」

杏「渚はね、今では知的な感じだけど子供の時はすごい元気いっぱいで、尚哉とずっと遊び回ってた」
翔「……」
杏「私はあまり元気な方じゃなかったからよく置いていかれてね、代わりというかなんだろ、流時とよく遊んでた」
部屋に戻ってきてから杏子はずっと話している。
杏「二人のことをどう思うかって? んー……幼馴染として好きだけど、やっぱり男の子としては見れないかな。みんなとずっと居たいと思うけど、結婚するなら別の人だね」
委員長、貴公子、流時の話がずっと続く。
杏「流時って地区総体でいきなり優勝しちゃうからみんな負けた所は想像できないと思うけど、私達が道場に行くといつも流光さんに遊ばれてるんだよ」
翔「流光?」
杏「ああごめんね、流時のお父さんだよ。子供の頃から私達も一緒に剣道やってたりするんだ」
翔「意外だ」
杏「だよね……。でも私だって渚といい試合になるんだから」
こんなことが起きなければずっと続いたであろう四人の関係。
杏「それで、先生に追いかけられて逃げ場がなくなった尚哉ってば三階の窓から跳んでね、その場は無事逃げ切ったんだけど」
翔「……」
杏「校舎に入るときに先生に見つかっちゃって、結局ばれて怒られてた」
翔「……」
杏「それからかな、尚哉が窓から教室に入るようになったのは。『窓から入っていればばれなかった』ってよく言ってたよ」
こんなに楽しそうに話す姿を見れば誰だって杏子が三人のことが好きだったと分かるだろう。
杏「尚哉も流時も彼女がいるとか聞いたことないかな。二人ともカッコいいのにもったいないなって思うよ」
翔「委員長はどうなんだ?」
杏「渚はよく告白されたって言ってたけど、みんな振ったって。私達と遊んでる方が楽しいんだって」
翔「へぇー」
杏「もったいないって思うところもあるけど、逆にうれしいところもあるよ」
だから俺は……三人を襲った犯人を許さない。

夕食……今日は貝尽くしとのことだ。
悠「とりあえず、あの件についてはもう少しだそうだ。旧姓まで調べることが出来たから、後は生徒名簿と照らし合わせて終了との事だ」
翔「旧姓を聞けば解決じゃないのか?」
悠「万が一ということがあるからな、出来る限り真実を追究するのがうちの方針なんだよ」
翔「そうか……」
悠「それともう一つ。委員長の部屋と窓の下を調べたが、窓から飛び降りたという痕跡は見つからなかった」
翔「つまり、犯人はドアから逃げていったと?」
悠「ああ、その線で見ていいだろう。となるとやはり大きな問題にぶち当たる」
杏「問題?」
悠「俺が悲鳴を聞いてから部屋を出るまで長く見ても20秒、そして委員長の部屋まで誰にも会わなかったってことだ」
翔「難しいな……」
悠「ああ……」
杏「お願い悠貴、二人を殺した犯人を捕まえて」
悠「本職ではないが、こうなったからには頑張るさ。それよりお前ら……ヤったのか?」
杏「やったって、何を?」
翔「な……何言ってんだよ、まだヤってないぞ」
悠「なんだ、昼食の時より仲が良くなったように見えたからてっきりな。しかし若い男女が密室で二人きりだと言うのにお前らときたら……」
杏「っ……」
翔「こんな状況なのに出来るかよ」
悠「落ち着け翔平、みんなこっち見てるぞ」
舞「へぇ……こんな状況でヤるとは翔平もなかなかだな」
泰「素晴らしい青春だな」
瑞「青春は嫌いだが、こういうのは嫌いじゃない」
獅「くそっ、カメラ仕掛けておけばよかった」
杏「そそそ、そんなことない、なかったから!」
佳「……最低」
沙「相変わらず佳菜美ちんはこういう話題嫌いなんだな」
翔「くっ……」
悠「そのなんだ、すまなんだ」
翔「悪いと思うなら早く事件を解決してくれ……はぁ」
悠「善処する」

サスペンス-02

午前十時頃港到着、その後船で移動。
尚「情け……ないな……悠貴……」
悠「う、うるせえ……昨日は打ち上げで……飲み会だったんだよ……」
尚「高校生に……飲ませるって……どんな事務所……だよ……」
悠「うちはそういうの……気にしない……ところなんだよ……それよりお前だって……酷いじゃ……ないか……」
尚「流時の道場で……飲み会だったんだよ……悪いか……」
悠「お前のとこ……だって同じ……じゃないか……」
尚「家族ぐるみの……付き合いだからな……飲ませてくれるんだよ……」
悠「うっ……」
尚「うっ……」

俺達はこのターン、『船酔い』『残り酒』を生贄に『神のもんじゃ焼き』を特殊召喚する!!
※↑はイメージです。

佳「あの二人なにやってんの?」
渚「まぁ、汚いもの見たくなければ放っておくといいと思うよ」
沙「委員長は大丈夫なの?」
渚「船に乗るって分かってるんだから、飲むわけないでしょ」
沙「ですよねー」


午前十一時頃南島に到着、その後ホテルに移動。
悠「も、もうだめだよパトラッシュ……」
尚「わが人生に一片の悔いなし!」
渚「ホテルに着いたら昼食出るって聞いてるけど、あんたたち食べれる?」
悠「食べれるわけ……ないじゃないですか……」
尚「渚は我々に死ねと申すか?」
渚「はいはい、酔っ払いは部屋で寝ててね」
悠「かたじけないでござる」
尚「この恩……今日だけは覚えといてやろう……」


正午から昼食、ただし俺は部屋でダウン。
午後一時頃から浜辺で遊ぶ。
尚「海だな……」
悠「ああ……」
泰「お前たちもう大丈夫なのか?」
翔「大丈夫じゃなくても普通は出てくるだろ」
瑞「うむ、水着の女の子が眩しいな」
舞「それより翔平はここで油売ってていいのか? さっきから杏子が期待して待ってるぞ」
翔「あ、ああ……。それじゃあ行ってくる」
尚「がんばってこいよー」
悠「瑞恵と会長もこっち側?」
舞「私は翔平を煽りに来ただけだ、すぐ戻る」
瑞「私は運動がにが……見てた方が楽しいだけだって」
尚「本音と建前逆じゃね?」

獅「委員長会長ペアマッチポイント」
渚「アタッック!!」
沙「させるかぁぁぁ!」
佳「ナイスフォロー」
沙「いくぜ委員長!」
渚「抜かれたっ!?」
舞「だが私がいる」
沙「ちぃ」
渚「舞弥お願い」
舞「スマァァァッシュ!」
佳「と、届かない!」
獅「委員長会長ペア一セット目先取」
沙「さすが二の十が誇る完璧超人ペア、相手にとって不足はないぜ」
佳「動きが完璧なのが弱点と言えば弱点ね、次は取るわよ!」
沙「おーけぃ」
舞「しかし獅太郎に審判頼んで正解だった」
獅「いい写真を撮るためならなんだってやるぜ」
渚「下心丸出しのあいつらよりずっといいわ」
獅「ふっ……おだてても何も出ないぜ?」
舞「出さなくていいから、いい写真とナイス審判を頼むぜ」
獅「任せろって」

杏「私の水着……どうかな?」
翔「とっても可愛いよ」
杏「あ……ありがと」
翔「いえいえ……」
杏「……」
翔「……」
杏「……」
翔「……」
「「あ、あの……」」
杏「しょ、翔平から先にどうぞ」
翔「杏子からでいいよ……」
杏「……」
翔「……」

瑞「何あの青春、見てて吐き気がするんだけど」
泰「翔平がもう少し押してればまた別なんだが」
尚「お前ら、素直に応援するってことは考えないのか?」
瑞「他人の恋愛よりも」
泰「展開考えてた方が」
瑞「楽しい」
尚「へーへー」
悠「似たもの同士で惹かれあうとかないのか?」
泰「僕達のこと?」
悠「他に誰がいるよ」
泰「僕は三次元に興味はない!」
瑞「男子より女子見てた方が楽しいし?」
悠「はいはい」

舞「なにぃ」
渚「まさか二セット目を取られるなんて」
沙「あたし達がいつまでも同じだなんて思うなよ」
佳「副部長としての意地があるのよ!」
獅「いいねーいいねー」
沙「さぁ、三セット目いくよー」
舞「私達だってさっきと同じようにはいかないぜ」
佳「望むとこよ」
渚「いくよー」
獅「三セット目、委員長会長ペアサービスプレイ」

尚「私達の戦いはこれからだ」
泰「獅太郎先生の写真にご期待ください……ってか」
瑞「これは期待せざるを得ないな」
悠「それより翔平達は?」

翔「そうそう、そんな感じで息継ぎを」
杏「ぷはぁ……こんな感じかな?」
翔「いい感じいい感じ」
杏「ごめんね翔平、泳ぎの練習に付き合ってもらって」
翔「いいって」
杏「ありがと」

悠「いい感じじゃねーか」
尚「そうだな」
悠「でも、それはそれ」
尚「うむ……おっ、渚達が盛り上がってるぜ」
瑞「沙耶佳菜美ペアがマッチポイントだってよ」

沙「はぁっっ!」
渚「このコースなら!」
獅「アウトー」
佳「どんまい、まだ同点に戻っただけよ」
舞「この流れで決めるぞ」
渚「ええ」
獅「マッチポイントで燃える女子四人、いい絵になってるわー」


午後五時頃に撤収、その後勉強が出来る生徒を囲んでの勉強会……もとい宿題処理。
舞「なんだ、この組は結構出来るじゃないか」
渚「翔平は杏子が見てるし、他にやばいのは……」
佳「勉強なんて飾りよ飾り」
沙「あ、あははははは……」
獅「ほら、俺はカメラマン目指してるから勉強必要ないし」
悠「それでも一応勉強はしておいたほうがいいぞ」
舞「赤点ぎりぎりのお前が言うのか?」
悠「俺だって勉強より知識の方が重要な世界だが、せめて高校生レベルは……って思ってるぞ」
渚「結構宿題進んでるじゃない」
悠「俺は勉強出来ないんじゃなくてしてないだけだからな、教科書見ながらでいいんなら解けるぞ」
舞「出席してないからってことか。確かにその調子なら放っていても大丈夫そうだな」
渚「という訳であんた達三人には頑張って貰うからね?」
「「「ひぃぃぃぃぃ」」」

泰「貴公子って結構頭いいのな」
尚「渚の教え方が上手いだけさ、この学校に入れたのもあいつのおかげだし」
瑞「で、本当のところ委員長のことをどう思ってるわけ?」
尚「勉強教えなくていいか?」
瑞「ごめんなさい、現国だけはお願いします」
泰「素直に謝るんなら自重しろってば」
瑞「さーせん」

杏「微分する時は定義に従って解くより、定理を使った方がいいよ」
翔「なるほど……期末では全部定義で解いてたから時間足りなかったんだ」
杏「言ってくれれば教えてあげたのに……」
翔「なんか悪いなと思ってさ」
杏「そんな、遠慮しなくていいのに」

瑞「ぺっ」
尚「お前、学園青春モノのエロゲやったことないだろ」
泰「確かにそんな話は聞かないな」
瑞「カップルなんて死ね、氏ねじゃなくて死ね」
尚「今度『いちご100%』と『初恋限定』持ってくるわ」
泰「『I"s』と『電影少女』も追加しとこうぜ」
瑞「ごめんなさい、もう黙ります」
尚「分かればいいんだよ」


午後七時半から晩御飯。
尚「海老……だと……?」
翔「俺はまだ本気を出していない……って言えばいいのか」
悠「ごくり……」
泰「まだ蟹に鯛という切り札を残している」
佳「男子の方は盛り上がってるわね」
沙「そりゃー、ほんな料理がへたら、誰だっへ浮かれるでへょー」
佳「食べながらしゃべるなって」
瑞「海老海老海老海老……海老海老ぃ」
杏「こっちにも男子みたいなのが二人……」
舞「向こうで冷静なの獅太郎だけじゃないか」


午後九時から全員でドラマ鑑賞。
内容についてはネタバレ防止のため省略。
そして、みんな集中して見てたから会話もなかったな。


午後十時半頃、悲劇の幕開け。
「きゃああああああああああああああああああああ」
隣の部屋から悲鳴が聞こえた。
隣……委員長の部屋か?
急いで部屋から飛び出して委員長の部屋のドアを叩く。
悠「どうした委員長?」
ドアをかけようとするが開かない!
仕方ないのでドアを叩きながら声をかける。
そんなことをしているうちに悲鳴を聞いた奴等がやってくる。
佳「悠貴、まさかさっきの委員長の?」
悠「隣の部屋から聞こえてきたから間違いない」
舞「部屋は開かないのか」
悠「ああ」
舞「なら佳菜美、フロントまで合鍵を貰ってきてくれ」
佳「分かったわ」
佳菜美がフロントまで走る。
佳菜美とすれ違うようにまた人が集まる。
獅「何があったんだ?」
沙「さっき佳菜美ちんが走ってったけど……」
翔「さっきの委員長のだったのか?」
事が事だけに……というより、委員長だから混乱が広がる。
悠「委員長に何があったかはまだ分からん。今は佳菜美に合鍵を貰いに行ってもらってる」
泰「ドアはぶち破れないのか?」
瑞「いや、このホテルは開くタイプだったかと」
杏「渚! お願い渚返事をして」
この場にみんなが集まっている……いや貴公子と佳菜美がいないか。
佳「はぁはぁ……お待たせ……はぁはぁ」
悠「さすが副部長早いな」
佳菜美を労いつつ、急いでドアを開ける。
……開けた瞬間に部屋の中から嫌な感じがした。
これは……血の匂いか?
これだけの騒ぎであっても委員長が姿を見せないことに胸騒ぎを覚えて部屋に入る。
一緒に部屋に入ってきたのは会長、杏子、翔平の三人。
そして……
杏「渚!!」
近づこうとする杏子を翔平が抑える。
悠「入るな!! 見せられるような現場じゃない。まだ見てない奴は入らない方がいい」
舞「ちょっと翔平、杏子を部屋から連れ出して落ち着かせてくれ」
翔「分かった」
杏「渚、渚!」
悠「さてと、こんな状況だがらこそやらなければならんか」
俺は委員長の脈を取った……反応は無し。
死体と周りの状況から見てナイフで心臓を一突き、その後ナイフを抜いたと見てよさそうだ。
となると死因はショック死か失血死といったところか。
部屋の中で変わったことは……特に無し。
窓は閉まってはいるが、鍵は掛かっていない。
後はバスルームか……。
ん? なんでバスルームに鍵が?
部屋番号から見てこの部屋で間違いなさそうだが……。
実際に使って見るのが一番だが、その前に写真を撮らなければ。
悠「獅太郎、ちょっとカメラを貸してくれ」
獅「俺が撮ろうか?」
悠「いや、見てないお前にこれを見せるのは忍びない」
獅「そうか……ほら」
借りたカメラで部屋の中を撮影する。
その後、バスフロアの鍵がこの部屋のものであることを確認して元に戻す。

佳「悠貴……どうだったの?」
悠「ここで話すもの場所が悪い、食堂に行くぞ」
沙「そういえば貴公子がいないんだけど?」
悠「なら部屋まで俺が迎えに行こう。獅太郎、カメラさんくす」
獅「あとでメモリを入れておくから、そこに移しておくぞ」
悠「ああ、頼んだ」
舞「じゃあ先に食堂に行ってるぞ」
悠「ああ」

みんなと別れて俺は貴公子の部屋に向かった。
どうやらシャワーを浴びていたらしく、気づかなかったらしい。
「きゃああああああああ」
また悲鳴が上がる。
しかも複数の声だ。
尚「おい……なんなんだよ」
悠「そんなことは後で話す、急ぐぞ」
食堂に向かっているメンバーを追って走り、踊り場に留まっていたみんなに追いつく。
舞「すまん、階段を踏み外してしまっただけだ」
悠「なんだ……心配させるなよ」
舞「悪い悪い……っ!」
佳「舞弥、大丈夫?」
舞「頭は打ってはいないが、どうやら足を挫いたみたいだ」
沙「肩貸すぜ」
舞「さんくす」

尚「で、何が起きたんだ?」
食堂に集まってみんなが席に着くと同時に貴公子が聞いてくる。
悠「委員長が部屋で殺されていた」
尚「冗談だろ……?」
「「「……」」」
否定する声が上がらないことに貴公子は事実と認識したようだ。
悠「部屋の状況を説明する。まず鍵は部屋の中にあった、そして窓は閉まっていたが鍵は開いていた」
尚「渚の部屋は四階だったよな? ってことはほぼ密室って考えていいのか?」
「「「……」」」
尚「そういうことじゃないのか?」
佳「言わせて貰うけどね」
悠「待て佳菜美、証拠がない」
佳「証拠が無くたって、みんなだって同じ事考えてるんでしょ?」
沙「そうだそうだ」
杏「待ってよみんな、状況だけで決めるのは良くないよ。ねぇ翔平も言ってよ」
翔「……ごめん」
杏「そんな……」
泰「一度暴動が始まると止められない……か」
瑞「いや、お前も同じこと考えてるんだろ」
尚「どういうことだ?」
獅「俺もお前のことを疑いたくないんだが、他に考えられないんだ」
佳「そうよ、ドアが開かないんだから犯人は窓から出て行ったのよ」
沙「四階から出て行けるのなんてあんたしかいねーじゃん」
尚「おいおい……そんなことだけで決め付けるのかよ!」
佳「それだけじゃない、あんただけ委員長の部屋に来なかったのよ?」
沙「それを説明して見ろって」
尚「シャワーを浴びてたんだって」
佳「つまりアリバイ無し」
沙「決まりじゃん」
尚「ふざけんなよ、何で俺が渚を殺さなきゃいけないんだよ」
悠「貴公子の言うとおり、動機はこの際置いておいても証拠が無いんだ。だから決め付けるのは良くない」
佳「じゃあ悠貴は他に何か方法があるって言うの?」
悠「可能性だけなら何通りかは……な。だからその可能性が無くなるまで落ち着け」
尚「そんなの待ってられねーよ! わりーけど部屋に帰らせてもらう」
悠「おい貴公子待てよ」
尚「うるせー!」
貴公子を落ち着かせることが出来ず、そのまま部屋に戻ってしまった。

悠「気持ちは分かるが、言いすぎだ」
佳「ごめん……」
沙「ごめん……」
舞「過ぎた事はしょうがない、それよりも今度をどうするか考えなければな」
泰「最初が密室殺人だから、連続殺人に繋がるってか?」
杏「そんな……」
翔「杏子は俺が守るよ」
杏「翔平……」
舞「まぁ、そんな訳で複数で動くのがいいな」
瑞「犯人と一緒に動くのか?」
悠「その可能性も考えて三人でチームを組むのがいいだろう」
舞「私佳菜美沙耶、悠貴翔平杏子、瑞恵泰知獅太郎で組むのがいいと思うが、反対はいるか?」
「「「……」」」
舞「反対無しだな、後は尚哉だが……悠貴頼めるか?」
悠「ああ」
舞「じゃあ、今日は解散しよう」
悠「そうだな。それより会長、このあと少し付き合ってくれないか?」
舞「何をするんだい?」
悠「疑いたくは無いが……一応従業員のアリバイも聞いておきたくてな」
舞「分かった、じゃあ佳菜美と沙耶は二人で部屋に戻ってくれるか?」
佳「ええ……」
沙「任せろって」
悠「という訳で翔平、頼んだ」
翔「ああ」
獅「俺達も行くとしますか」
泰「だな」
瑞「女子のいない組とかついてないわ」
泰「おいおい」


午後十一時半頃部屋に戻る。
従業員のアリバイは全員あったと証言された。
となるとやっぱり犯人は俺達の中か。
他の可能性……あの場でそう言ったが、しかしそんなの思いつかねえ。
でも、貴公子が犯人とは思えない。
まぁいい、今日はまず寝よう。

~~~~~

プルルルルルルル……
「もしもし?」
「犯人はお前だろ?」
「……」
「だんまりか? ならトリックでも解説してやろうか?」
「……何が言いたい?」
「そんなの脅迫に決まっているだろ」
「何が望みだ?」
「そうだな……」

サスペンス-01

「きゃああああああああああああああああああああ」
渚の叫び声がホテル中に響き渡る。
私はもう……戻れない!
運命の賽は投げられたのだから。

~~~~~

長かった一日目がもうすぐ終わる。
その前に事件解決のため、必要となる記録を残す。


朱鷺戸高校二年十組の生徒の中の十一人はクラスマッチでの優勝景品として南島に旅行に来ていた……南島と言っても、東京都に含まれるけどな。
そして、十一人とは次の通り。
 藍枝渚、委員長の中の委員長と言われている南島組の代表者。
本来この旅行は担任同伴が条件なのだが、担任だけでなく学年の先生達からも信頼が厚い委員長と後述の生徒会長が同行することで許可が下りていた。
 厳島舞弥、生徒会長。
一年でありながら生徒会長に就任した学校始まって以来の超問題児。
生徒会長なのに問題児なのかって?
そんなの彼女の行動を見れば誰でも納得するはず。
入学当時はおしとやかな少女で、双子の姉と共に周りの目を集めたってものだ。
暇があれば運動部の応援に行ったりと、先輩達からの評判もよかった。
中には告白した人物もいるのだが、特定の男子と付き合ったという話はない。
また男子だけでなくて、誰彼構わず話せる性格のおかげで女子からの評判も上々。
そんな彼女が生徒会長に立候補するもんだから、みんな揃いに揃って票を入れたようだ。
入れなかったのは対抗の関係者と彼女と同中の奴らだけだろう。
なんで同中の奴らは入れなかったかって?
生徒会長就任の彼女の挨拶を聞けば全て分かる。
「私は今日このためにお前たちが好みそうな女子を演じてきた」
信じられるかい?
生徒会長になるために半年近く猫を被ってきたって言うんだぜ?
もちろん、そんな発言をするもんだから回りからは反発を食らう。
だが彼女は早々と公約を実現させる目処を立たせ、その上で生徒の意見を聞いていった。
年が明ける頃には反発の声も無くなり、むしろこの会長なら……と言わせる始末。
発言に問題があっても行動はちゃんと起こす、そんな彼女は自主性を評価する学校の方針もあってか、先生達の評価は良い……評判は最悪だが。
会長の話で盛り上がりすぎてしまったが、そんな二人のおかげでこの南島組は旅行に来れた。
 渡来尚哉、通称貴公子。
一年の時はクラスが違ったので聞いた話になるのだが、彼は授業中に消えたり現われたりしたとの事。
もちろんドアから出入りしたわけではなく、窓からだ。
これならただの問題児のように聞こえるが、ただ……一年の教室は四階なのだ。
どういうことかは多分君達の想像通りであっている。
そんな彼を賞賛する声がいつしか彼を貴公子と呼ぶようになった。
かっこよく説明したが、事実を言えば遅刻早退常連だ。
ただ、委員長組の一人なだけに成績は中の上。
 委員長組と言えば長谷杏子もだ。
委員長、尚哉、杏子、流時の四人は家が近く幼馴染なんだそうだ。
そんな訳で四人の中で一番しっかりしている委員長を筆頭にして委員長組と呼ばれている。
他の三人と違って目立つ部分がないため印象が薄いのだが、来瀬翔平と付き合っている。
 二人の名前を出してしまったが、先に白神流時。
本来はこいつを含めて十二人で来るはずだったのだが、急な用事でドタキャン。
俺の掴んだ情報では行方不明と聞いたが、本当のとこはどうなのか?
まぁ、十一人に入ってないので以下略。
 来瀬翔平、杏子の彼氏だな。
同じクラスで幼馴染という比嘉世涼奈と良い仲と聞いたが、誤報だったみたいだ。
地学部所属なため地味な印象を持たれるが、クラスでは周りとよく会話しているのを見かける。
運動も出来る方で、バランスの良い人間だな。
ちなみに涼奈は別組で十一人に入っていない。
 翔平と仲の良い百瀬獅太郎。
写真部員で、常にデジカメを持ち歩いている。
カメラ野郎と言えば世間の目はキツイのだが、彼にはプロ魂が芽生えていて美しいモノしか撮らないみたいだな。
前に決定的瞬間を撮って女子と揉めた事があるのだが、それはそれ。
 世間の目と言えば野々原瑞恵と葉山泰知の二人。
普段から触手だの陵辱だのそんな会話をしている二人だ。
しかし、他人と話すときはいたって普通。
また、漫研なだけあって漫画に詳しく、ヲタ寄りの生徒とよく話し込んでいる。
泰知は二次元にしか興味ないらしく、瑞恵はタチな性格とのことで二人は付き合っていると言う訳ではなさそうだ。
好みと思考が一致するから一緒にいる感じだ。
 後は……田上沙耶。
こいつも双子の兄妹で、妹の方だ。
陸上部所属でそれなりに成績は良いのだが、本人曰く「体を鍛えるために走っているだけ」。
そんなゴーイングマイウェイを素で行く、手の付けられない奴だ。
なんでこのクラスの双子の妹はこんな奴ばかりなんだ?
双子が二組いるだけでも驚きだと言うのに、性格まで似ているとか。
幼馴染も二組いるし、まさにこれなんてエロゲだよ。
ちなみに兄の紘は頭脳派で、運動は出来ない方。
 谷津佳菜美は女子バスケ部の副部長。
人望で選ばれる部長、実力で選ばれる副部長というこの学校のスタイルから考えて実力者なのは間違いない。
夏休みという忙しい時期に南島に来る理由は海でトレーニングするためらしい。
どこかの猛虎も海で必殺ショットを習得したしな。
 そして俺、芹沢悠貴で十一人。
ちなみに、南島組以外には軽井沢組とディズニー組がある。


今日された会話はどこまで必要なのか分からないので、覚えている限りで記す。

午前八時校門前集合、その後バスで移動。
舞「あれ? 流時はどうした?」
渚「ちょっと……ね。急な用事で来れなくなったわ」
舞「ふーん。佳菜美でさえ来るのに、帰宅部の流時はサボりかい」
尚「へー、流時って帰宅部だったんだー」
沙「副部長候補にすら名前が挙がらなかったって話だから、クビになってんじゃねーの?」
獅「地区総体で団体戦には出てたからそれはないな。ただ一年には『誰あの人?』って言われてたぜ」
佳「部長会で聞いた話だと、団体戦に出てくれればそれでいい扱いだって」
獅「それはいい情報聞いたな。新人戦では写真に収められそうでうれしいぜ」
尚「ひどい扱いには触れないのかよ」
舞「高校生級では敵無しなんだからそんなもんだろ。それより佳菜美と沙耶、お前たちは新人戦どうなんだ?」
佳「うちはレギュラー陣の体力強化とベンチ育成が課題ってとこかな。ちなみに私は海でトレーニングするために南島を選んでたりする」
沙「あたしは別に記録のために走ってるわけじゃないし、どうでもいいよ」
渚「そうなんだ」
佳「県大会は狙えるってのに、勿体無いね」
沙「体弱い糞兄貴を守るとか言って走り始めただけだしね。今となっちゃ男を守るとか恥ずいだろ」
尚「それでも走っている沙耶なのであった」
沙「うっさい」
獅「記録はあくまで結果だからな、過程を重要視してるならそれでいいじゃないか」
佳「だね。考え方が違うだけで、やってることは一緒なんだから」
渚「一緒と言えば……あの四人も二人ずつだね」
悠「カップルに同思考者だから別にいいかと思うわけだが」
舞「確かに二人だけの世界にいるうちは放っていいな」
渚「そうそう悠貴、あんた出席大丈夫なの?」
悠「六割は出席してるから、この調子なら大丈夫だ」
獅「残りの四割は何してんのさ?」
悠「探偵の仕事だよ」
尚「そんなにこの付近で事件起きてたか?」
悠「あのな、毎度毎度殺人事件に遭遇して『真実はいつも一つ』とか言うのはフィクションの世界だけだ。現実は浮気調査やら行方不明者の捜索がほとんどだ」
佳「ちょっと本当に探偵なの? 何か面白い事件とか聞かせてよ」
悠「残念だが事件での面白い話はないな、パーティとかの話なら無くも無いが」
沙「どんなの?」
悠「依頼があった縁で某電化製品会社のパーティに出たが、社内製品を配りまくってたぜ」
尚「何貰ったか白状しろや」
悠「俺はi-podとノーパソくらいしか貰ってないな、というより上司にいいもの全部持っていかれたわ」
渚「だから学校にノーパソ持ってきてたのね」
悠「あん時は急ぎの報告書があっただけで他意はないぞ? それに学校でエロゲやってたあいつ等よりはマシだと思うんだ」
獅「エロゲと言えばあいつらどこから調達してるのやら」
尚「今時エロゲぐらい高校生でも買えるぞ?」
舞「お前ら女子の前でエロゲエロゲ連呼すんなや」
尚「双子の沙耶や俺や流時と一緒に育ってきた渚は問題ないだろ、会長も今更可愛い子ぶることもねーし」
佳「っ……」
沙「あたしは確かに気にしねーけどな、でも佳菜美ちんが顔真っ赤にしてるから謝っとけ」
獅「すまん佳菜美、今度藤村の写真撮ってきてやるから」
佳「そこでどうして藤村の名前が出てくるのよ!」
悠「俺の情報だと、三月から五月にかけて一緒にいるとこがよく目撃されているぞ」
佳「あんときはスランプだったから、相談と練習の相手になってもらっただけよ!」
尚「佳菜美さんや、煽られたからって顔まっ……」
佳「あぁん?」
尚「ごめんなさい」
舞「まーまー、二人とも落ち着けって」
渚「学校でネトゲやってた舞弥が締めるのね」
舞「さすがに教室ではやらんて」
渚「はいはい、ただでさえ先生達に目をつけられてるんだから気をつけてね」
沙「よくそんなんで生徒会長になれたのか不思議だぜ」
獅「それは禁句だ、今の会長と去年の会長は別人だ」
悠「俺の情報だと、宇宙人に改造手術を施されたって話があるぜ」
沙「ごめん、冗談に聞こえないくらい説得力あるわ」
渚「その話流した人勇気あるわね」
舞「最初の一ヶ月だけ深雨の真似して遊んでただけなんだけどな。そしたら周りが騒ぐもんだからこのまま生徒会長までなってやろうと考えてな」
渚「あんたの就任後は深雨まで変な目で見られて大変だったそうじゃない」
舞「そこは同中の奴らがフォローしてくれると分かってたからな、心配はそこまではしなかった」
獅「それも計算のうち?」
舞「うむ」
尚「流石だな、深雨嬢の妹者」
沙「AA略ってところか」
悠「お前も妹者だろう」
沙「てへっ」
泰「妹っていったらお兄ちゃん大好きっていう大事なポジションだと言うのに、お前ときたら……」
瑞「所詮三次元ってことよ」
渚「噂のエロゲーマーが会話に入ってきたわね」
獅「お前らも佳菜美に謝っとけな」
泰「そのなんだ、エロゲ貸してやるからもう少し耐性つけるんだな」
瑞「最初は触手とか自重しろな」
佳「パソコンないからいらないです!」
泰「残念すぎる」
尚「代わりに俺に貸すべきだと思うんだ」
瑞「幼馴染の隣でその発言は嫉妬フラグが立つと思う」
渚「幼稚園前から一緒にいる尚哉とフラグとかありえないから」
尚「だよな、こいつが下着姿でうろついてもなんともないぜ」
渚「それはそれで傷つくわ……」
舞「という訳で渚まで下会話に入ってる以上、佳菜美をこの空気に慣れさせた方が早いという結論に」
佳「はぁ……」
獅「藤村の写真で耐性つけとけ、な?」
佳「それが下会話とどう関係あるっていうのよ!」
舞「落ち着け佳菜美、その態度では否定しても信用されん」
杏「佳菜ちゃんって本当のところ誰が好きなの?」
佳「なんで好きな人がいること前提の質問なのよ……」
舞「こらこら、佳菜美だけに好きな人を言わせるのは酷いだろ」
杏「私は翔平が好きだよ……」
翔「みんなの前で言うと恥ずかしいって」
泰「僕は長門だな」
瑞「私はみくるちゃん」
尚「誰が二次元で好きな子を言えと言った?」
泰「二次元でも」
瑞「好きな子には変わらない」
悠「コンビネーションはいいのに、好きなキャラは違うんだ」
杏「で、どうなの佳菜ちゃん?」
佳「い、いない。私は好きな人なんかいない」
舞「そういうことにして触るのは止めよう、ちなみに私にもいない」
渚「舞弥に好きな人が出来たら即効で篭絡されそう」
舞「一週間もあれば十分だな」
尚「怖ぇぇぇぇぇ……」
獅「俺はこのカメラが恋人だ」
悠「これは俺も言わなきゃいけない空気か?」
沙「だな、あたしも好きな人はいないぜ」
悠「一応事務所の新人と付き合ってはいるが名前までは出せん」
尚「何歳なん?」
悠「新卒で、誕生日はまだだから22だ」
獅「瓶滋に続いて社会人と付き合ってるの二号か」
瑞「オネショタというにはきついが、これはご飯がおいしくなりそうな話だ」
悠「もちろんこれ以上話す気はないぞ」
瑞「ちっ……」
泰「あとは委員長と貴公子に……翔平は言わなくてもいい」
尚「俺は……渚が好きだ」
渚「え……?」
泰「まさかの幼馴染フラグが?」
杏「本当なの尚哉?」
獅「すまん委員長、その表情が素晴らしかったのでシャッターを押してしまった」
尚「すまん、嘘だ」
渚「……死ね」
杏「さすがにその冗談は……死ね」
舞「オブラートに包んで言おう、死ね」
悠「よかったな貴公子、今流時がいたら間違いなく殺されてるぞ」
尚「殴られてからそんなこと言われても嬉しくないわ」
佳「ちなみに流時って好きな人いるの?」
獅「流時の写真ならあるぞ」
佳「あんたの恋人壊してあげよっか?」
悠「俺の情報だと、いないみたいだ。会長情報はどうだ?」
舞「私の方もそんな話は聞いてないな」
杏「私達も聞いたことないかな」
渚「道場にも女子って私達以外小学生しかいないから、多分いないんじゃないかな。あと、私もいない」
沙「ということで、最後は翔平に締めて貰おうぜ」
翔「え……?」
悠「誰かは分かっているが、さっき杏子がみんなの前で言った訳だし」
沙「がんばれ男の子」
舞「さすがに言わない……なんてことはないよな?」
翔「分かったよ、言うよ……俺も杏子が好きだよ」
瑞「これはこれで」
泰「メシウマ」
獅「いいシャッターチャンスだった」
舞「もちろんここでの会話は葉矢ちゃんには禁句だ」
悠「さすがに死にたくないわ」
渚「未だに杏子と翔平が付き合ってるの知らないんだから、大丈夫な気もするけどね」
尚「人柱は瓶滋一人に頑張って貰いましょ」
沙「とか言ってるうちに着いたようだぜ」

サスペンス-登場人物

藍枝 渚(あいえだ なぎさ)/委員長
厳島 舞弥(いつくしま まや)/生徒会長
来瀬 翔平(くるせ しょうへい)/彼氏
芹沢 悠貴(せりざわ ゆうき)/探偵
田上 沙耶(たのうえ さや)/双子妹
長谷 杏子(ながや きょうこ)/彼女
野々原 瑞恵(ののはら みずえ)/ヲタ女
葉山 泰知(はやま たいち)/ヲタ男
百瀬 獅太郎(ももせ したろう)/写真部員
谷津 佳菜美(やづ かなみ)/女子バスケ部副部長
渡来 尚哉(わたらい なおや)/貴公子

以下、名前だけ登場。

葛城 葉矢菜(かつらぎ はやな)/担任
厳島 深雨(いつくしま みう)/徒会長姉
佐治北 瓶滋(さじきた へいじ)/担任弟
白神 流時(しらがみ りゅうじ)/行方不明
田上 絋(たのうえ ひろ)/双子兄
比嘉世 涼奈(ひがせ りょうな)/幼馴染
藤村 宗樹(ふじむら そうき)/男子バスケ部副部長

記憶喪失-09(完結)

May 13, 20xx

今日は私の二十ろ・・・げふんげふん。
とりあえず誕生日で、そして明人と付き合い始めてちょうど10年目の日。
ホワイトデーもかねてというのは少し嫌だけど、今日はデートに連れていってくれるのでとても楽しみにしていた。
本当はそんな暇なんか無いくらい忙しいらしいんだけど、無理矢理休みを取らされたんだって。
「てめーの穴なんかジェバンニの如く、一晩で埋めてやるよ。だから行ってきな」
って舞弥さんに言われたと明人がモノマネしながら言ってた。
若くして会社を立ち上げただけあるというか、さすが舞弥さんと言うべきか・・・。

デートは・・・と言うと、最近話題になっているカフェテリアでランチを、そして映画の試写会に行った。
この映画は私が高二の時に流行語を産んだ有名なドラマの最新作の映画ということだけあって期待に包まれていた。
感想は・・・聞くよりも、実際に見に行って貰った方がいいとしか言えないかな。
その後はショッピングを楽しんでディナーに。
ここも今話題なだけに、期待に胸が膨らむ。
でも、どこも予約やチケットがそう簡単に取れる訳じゃないよね?
だから・・・自然と分かってしまうんだよ。
「春香、俺と結婚しないか?」
ほら・・・ね。
そう言って指輪を見せてくれる。
話題に沿った今日のデートコースとは違い、前にデートした時に私が気に入った指輪。
私はずっと・・・ずっとこの時を待っていた。
すごく、すごく嬉しい。
でも・・・でもここでは指輪は受け取れない!

複雑そうな顔をしている明人と一緒に家に帰宅。
べ、別にそういう事を期待している訳じゃないですよ?
と言っても、そんな空気じゃないんだけど。
私は明人を安心させるために急いでPCを起動させる。
そして、今では打ち慣れてしまったPASSでログインして・・・。




「指輪は・・・指輪はもう一人の私の前ではめて欲しいの」




fin

記憶喪失-08

day8

「名前は?」
「西条春香です」
「学校とクラスは?」
「朱鷺戸高校で二年六組です」
「誕生日と年齢は?」
「19xx年3月13日の16歳です」
「ふむ・・・では、あなたの両親の名前は?」
「お父さんは俊也で、お母さんは奈津美です」
「あなたの祖父母は今どちらで?」
「父方の祖父母は秋田に、母方は山形にいます」
「兄弟はいますか?」
「兄の秋成と妹の雪乃がいます」
「彼氏がいるとの事ですが、お名前は?」
「えっ・・・あ、東原明人君です」
「クラスは一緒ですか?」
「は、はい」
「誕生日は6月23日だったりしますか?」
「どうしてその事を?」
「診察した事がありまして、その時にです」
「なるほど」
「続けますよ。彼の両親の名前は知ってますか?」
「お母さんの名前は美並と聞いたことがあります。お父さんの方はまだ・・・」
「では、ご兄弟については?」
「姉がいると聞いています」
「ふむ・・・記憶の方も大丈夫そうなので、退院してもよさそうですね」
「本当ですか?」
「元々、体の方は大した怪我ではなかったのですから。ただ、なかなか目覚めなかっただけで」
「はい・・・」
「おっと、一つ忘れていましたよ。事故については覚えていますか?」
「大体は・・・」
「覚えているなら口に出さなくても結構ですよ。辛いでしょうし、なにより後で警察が・・・」
「はぁ・・・」
「ご両親と彼氏さんには連絡しておきますので、それまで部屋でゆっくりしていてください」
「・・・あの先生?」
「なんでしょう?」
「春人って人知ってますか?」
「・・・いえ、あなたが入院している間には患者としても知人としても会ったことないですね。ですが、どうして?」
「そんな名前を最近聞いたような気がしたので。おかしいですよね、今日まで昏睡状態でしたのに」
「寝ている間は記憶の整理が行われますから、それで聞いた気になることも珍しい事ではないですよ」
「そうですか・・・ありがとうございます」
「では、ご両親がいらっしゃったらまた来ますよ。それではまた」
「はい先生」




「これで本当に良かったのですか、春人君・・・?」

記憶喪失-07

day7

「こんにちは」
「・・・」
「考え中かもしれないけど診察の時間はリラックスですよ」
「すみません、先生。でも明日には春香に戻っていると思いますので、今日は・・・」
「そう・・・ですか。では一つだけ質問良いですか?」
「はい」
「これは医者としてでなく精神科について学んだ者としての質問ですので、答えたくなければそれでも結構です。君はいったい・・・誰なのかね?」
「僕は・・・今の僕は春人です」
「明人の人格を持つ春香で春人ですか・・・。では、また明日」
「はい」
「くれぐれも無茶はしないでくださいね」

~~~~~

あれから春香の記憶が次々と甦ってきている。
まるで、眠っていた春香が目を覚まし始めたかのように。
このままいくと、明日には春香は目を覚ますと思う。
そうなった時、僕はどうなるんだ?
このまま僕でいられるのか?
それとも春香に戻ってしまうのか?
別に僕でなくなるのが怖い訳でも、嫌な訳でもない。
ただ・・・ただ・・・

僕は新しく垢を取って新キャラを作り始めた。
名前は『Haruto』、今の僕の名前である。
できれば一人で育てたかったんだけど、なぜかAngeさんに見つかった。
「今日は君がなかなかINしてこないから、もしやと思ってな」
もしや・・・で見つけるとかおかしいだろ。
でも、それでもこの人ならと思えてしまうのも事実。
実際見つかってる訳だし。
「昨日今日で解決するとは思わなかったが、まあいい。ギルメンの悩みは私の悩みだ、遠慮なく相談されてやる」
無視するという選択肢もあるけど、考えるまでもなく無理かな。
「ふむ・・・ということは金がいるな。それを育て終わったらBOSS行くぞ」
強引ではあったけど、そんなAngeさんのおかげでなんとか準備は間に合った。
そういう意味ではAngeさんには感謝しています。
そして僕はINした春香と結婚した。
そう、僕は残っている時間を春香と結婚するために使った。
何故かって? それは・・・

僕は春香が好きだ、明人が好きだ、春香を演じてくれている明人も好きだ。
僕という人格が生まれてきてからずっと持っていた感情、それも多分春香に戻る事で変わるだろう。
だからそんな感情を持っていた僕が居たということを二人には覚えていて欲しいかった。
明人には結婚を記憶として、春香には結婚を結果として。
少し自分勝手かもしれないけど、いいだろ?
だって僕は明人で春香なんだから。
最後に春香、明人と幸せになれるように祈っているよ。




後はこのBlogのブクマを消してっと。
先生にもお礼と僕の事について手紙を書かないとな。
ふぅ・・・これで僕の事は春香にはすぐには気付かれない。
Angeさんや舞弥さんが言う訳ないし、明人も・・・。
これで僕の日記も終わりだ。
アメブロだからいつまでも残ってしまうけど、誰に読まれても大丈夫だよね。
最後にこんな僕の日記を見に来てくれた何人かの方、ありがとう。
そして、さようなら・・・

記憶喪失-06

day6

「こんにちは、二日ぶりですね」
「こんにちは、先生」
「早速ですがここ二日の調子はどうですか?」
「体の方は問題ないです。ですけど・・・」
「ですけど?」
「考える事が多くて頭の方はパンクしそうです」
「例えばどんな事を考えてますか?」
「俺が知らない自分を何故みんなは知っているみたいに言えるんだとか、気付かなきゃいけない事はなんなのか・・・とかですね」
「みんなというのはネットゲームの・・・?」
「はい」
「んー・・・という事は、思考の壁にぶち当たったって感じですかね」
「そんなとこです」
「私で良ければ出来る限りのアドバイスをしますよ」
「では・・・俺が考えている事に答えがあるとして、それを教えてもらう事は良い事何でしょうか?」
「悪い事であるとは言いません。ですが、良い事であるとも言えません」
「そうですか・・・ではもう一つ。先生には答えが分かりますか?」
「あなたの考えている事が全部分かる訳ではないですが、その中の一つに関しては分かっています」
「ということはやっぱりそこまで難しい事ではないのですね。もう少し一人で考えてみます」
「そういう考え方ができるあなたにはすぐに分かるでしょう。頑張ってください」
「はい」

~~~~~

僕は馬鹿だ・・・こんな簡単な事に気付かなかったなんて。
ヒントはたくさんあったっていうのに・・・。
自分を戒めるためにも日記に残す事にする。

そう・・・Labyrinthさんは僕の事を知っていると言った。
そして、僕の恋人の春香もLabyrinthさんの事を知っているという。
という事は、二人はお互いを知っていると考えてもおかしくない。
それと春香はこうも言っていた・・・絶対的な信用を持っている、と。
僕にも信用できる人間ならいるけど、絶対的に信用している人なんてそうはいない。
でも、こんなレアな条件を満たしそうな人に心当たりがある。
生徒会長の厳島舞弥だ。
そんな彼女は双子の『妹』で、彼女の姉と双子なのは誰もが知っている。
Labyrinthさんが彼女なら確かに僕は彼女を知っているし、Labyrinthさんが誰かは知らなかった。
勿論ここまで全部僕の想像である・・・なのに一つの仮説が思い浮かんでしまう。
もしAngeさんの仮説と同じだとしたら、確かに導かれた答えではトゥルーにはならないだろう。
・・・待て、今まで先生は何と言っていた?
ここまでの仮説を否定する発言は確かに無い、ということはまさか・・・。

何を考えているんだ、そんな事などある訳がない。
そう思い、頭を冷やすために洗面所に向かった。
・・・無い! そんなばかな、無い訳が無い!
洗面所に鏡がないなんてそんな馬鹿なことがある訳がっ・・・。
洗面所を飛び出して部屋を確認する。
部屋にも鏡はない・・・それだけじゃない、PCのディスプレイにも反射防止板が貼られている。
今まで馬鹿な考えだと思っていた事が現実味を帯びてきた。
心臓の鼓動が速くなる・・・汗が体中から滲み出てくる・・・。
素数だ、素数を数えて落ち着くんだ。
ふぅ・・・もう大丈夫だ、これで落ち着いて考える余裕ができる。
そう・・・落ち着いたからこそ、初日から感じていた違和感も仮説を肯定している事に気付いてしまう。
僕は部屋を飛び出していた・・・馬鹿な考えを否定する為に。
無意識の内にトイレに向かい、そして僕は見てしまった。
僕が、そう僕が・・・




春香だ。

記憶喪失-05

day5

「今日は藤山先生はお休みなので、代わりに私が」
「よろしくお願いします」
「とは言っても、問診だけですが」
「はい」
「ネットゲームをし始めたとのですが、何か思い出したりは?」
「忘れていた事を思い出した・・・というのは無いと思います。そんなことあったな・・・というのを思い出したのはそれなりに」
「想定の範囲内ですね」
「逆に、知っていたはずの事を忘れているような気もします」
「ほう?」
「相手のキャラを忘れているというか、違う人と会話しているような・・・」
「それも想定の範囲内ですな。あなたの症状ならおかしい事ではないです」
「はぁ・・・」
「今日はこんな感じですかね、緊急な事がなければ以上です」
「はい」

~~~~~

「暇を見てはるかと話をするべきだな。記憶を失ってからまだまともに話してないんだろ?」
と、Angeさんは言う。
この人はなんでも知っているように喋るから、不思議とそうしなくてはいけないように思う。
春香がINしたらゆっくり話をしよう。
それとは別に、なんでも知っていそうだからどうすれば記憶を思い出せるかと試しに聞いてみた。
「私の仮説が正しければ答えを導く事もできるだろう。だがこれはお前が自分で気付かなければトゥルーにはならない」
俺には分からなくて、Angeさんには分かっている。
それは一体なんだ?

Labyrinthさんにも不思議な事を言われた。
「俺はあんたが誰か知っている。あんたも俺を知っている、でも誰かは知らない」
ネトゲだからってことか?
でもそうだとすると言ってる事がおかしい。
春香と話す事が増えたみたいだ。

春香がINしてからいろいろと話した。
ここ数日の話、夏休み中にした事、退院したらしたい事、12時がこんなに早く訪れるとは思わないくらい話をした。
「Angeさんは相変わらずだね、でも言いたい事は分かるよ。Labyrinthは何が言いたいのか分かんないな、絶対的に信用してるだけに不安だよ」
春香も俺と同じ状態みたいだ。
気付かなきゃいけない事、Labyrinthさんが言いたい事、今日も考える事が多いな。

記憶喪失-04

day4

「気分良さそうですけど、恋人さんの事を思い出したりしたとか?」
「医者ってそんな事まで分かるんですね」
「いえいえ、今のあなたを見て分からない方が医者にかかるべきですよ」
「先生も面白い事言いますね」
「私も人間ですから、たまにはハメを外したくもなりますよ」
「それは失礼しました」
「いえいえ、こうしてあなたと砕けて話せるようになったと思えば、医者としても人間としても嬉しいですよ」
「俺も先生が担当で良かったです」
「患者さんからそう言われるのは慣れてますけど、照れるのは慣れませんよ」
「ははは。・・・所で先生」
「はい、なんでしょう」
「ネットゲームってやっても大丈夫ですか?」
「んー、チャットだけならいいですよ」
「え?」
「いつ何が起きても相手に迷惑がかからないようにして欲しいのが理由ですね」
「あっさりOK貰えるとは思わなかった・・・」
「ただし12時には就寝、7時には起床してください。それが条件です」
「はい」
「恋人さんにもINするように言っておきますので、チャットを楽しんでくださいな」
「ありがとうございます」

~~~~~

医者からOKが出たのでROにログイン。
こんな時間からいるAngeさんは大丈夫なのだろうか。
たとえニートだとしてもギルマスなので、記憶喪失の事を伝えておく。
そしたら医者と同じような事を言うもんだ。
実はすごい人なのかもしれない。
「私はニートじゃねえ」って怒ってたけど、そんな事思ってもないですよ?

夕方過ぎ辺りから人が増えてくる。
狩りに行けない俺の為に、みんなも狩りに行かずに会話に付き合ってくれてる。
中には2PCで狩りに行っている人もいるけど、会話には参加してくれてる。
俺はこのGに入れてよかった、Angeさんと知り合えて良かった。
「私は男であり女でありタチでネコでSでMだからな、どんな人間とだって付き合えるぜ」
タチ? ネコ? 春香に聞いてみたら、攻めとか受けとかそういった意味らしい。
Angeさんってたまに超理論繰り出すからついていけなくなる時がある。
でも、人を引き付ける何かがあるから最終的にはついていくんだよな。
この人になら今後も相談できると思う。

そういえば、Labyrinthさんが俺の事を知っているみたいなことを言っていた。
双子の姉妹なら心当たりがあるんだけど、姉弟は流石にないかな。
双子とは知らずに弟を知っている可能性はあるけど、双子であるのは誰でも知っているらしい。
「あんたのことは良く知ってるつもりだから、いつでも相談しろよ」
春香はLabyrinthさんが誰だか知っているみたいだ。
なら、安心して相談していいのかもしれない。

春香とは記憶を失ってから初めて話すけど、いつも通りだったと思う。
やっぱり春香は春香だ、話していて心安らぐよ。