「久しぶりだね。」なんともないような、「ふと思い出したから」といったような口調で話を切り出してみた。

 

「ほんと、久しぶりだね。まだ東京にいるの。」

「変わらずね。そっちはどう。もう何年も帰ってないからみんなどうしてるのかな、って思って。」

「みんな、相変わらずだよ。そうだ、こっちに戻ってくる時があったら連絡してよ。みんなで集まろう。」

 

みんなか……、そう思ったものの「会いたくない」と言われるよりはましか。

まだ、会ってくれるんだと思うと少し嬉しくなった。

 

「そうだね、来月あたりちょっと長めの休みが取れそうだから一度、帰ろうかな。」

「ほんと、じゃ連絡待ってるよ。」

「うん、ね、今度帰ったらね、少しだけ。」

 

「パパ、ママがお風呂入ってだって。」

 

二人で会えないかと伝えようと思ったとたんに、男の子の声が聞こえてきました。

 

「あ、待ってて。電話が終わったらね。ママにそう言っておいて。」

「え~~、一緒に入ろうよ。早く、早く。」

「わかったから。」

 

そうだよね、あれから何年経ってるんだろう。私は何年、時が止まってたんだろう。

「止まってた」じゃなくて「止めてた」の間違いか……。

 

「ごめんね、突然電話して。ほら、子どもちゃん待ってるよ。」

「うん、またね。帰ってくるときは絶対、連絡するんだぞ。」

「わかった、じゃ。」

 

電話が切れた……。

 

「「みんな相変わらず」なんだよ、めちゃくちゃ変わってるじゃない。なに、ボケてんだよ。この嘘つきが!」

電話を切って思いっきり毒を吐いた。

 

ソファのひじ掛けにもたれてウトウトしていたリュウが飛び起きた。

そして、じっと恐れるような気遣うような目で私を見ていた。

 

 

いや……、彼の名誉のために言うと人生が進んだだけで人は「変わって」なかったんだよね。

思い返せば、別に結婚してることを隠したわけではなくて、会話の序章で現実が押し寄せてきただけ。

なんか情けなくなってきた。

自分は何をしてるんだろう。

恵美に調子に乗せられて、恥かくところだったわ。

あ~~、ばかばかしい。

泣きたくないのに涙が、ポロポロこぼれてきた。

 

ノロノロとリュウが近寄ってきた。