父に肩車をしてもらい、毎年見に行った花火大会。
私が友達と行くようになった頃、いつものように一緒に行こうと誘う父を初めて断ったあの時。
父の顔が少し寂しそうになったのを私は忘れない。
父はいつも優しく、いつも傍にいてくれようとしていたけど、私は成長するたびに父との距離をとるようになっていった。
でも、私はそんな父が本当は大好きだった。
それがずっと傍にあると思っていたから、今まで伝えようとも思っていなったけど今夜伝えようと思う。
きっと、今夜じゃないといけないと思うから。
ちゃんと言えるかな。
「お父さん、今夜の花火大会一緒に行かない?」
「え?別にいいけど・・・桃李君はいいのかい?」
宗佑は娘の誘いに少し戸惑い嬉しい気持ちに心を満たされそうになったが、一応彼氏に気を使ってみせた。
「いいの。お父さんと一緒に行きたいんだ」
「そ・・・そうか。わかった。すぐ準備するから待っててくれ」
父と娘。
十数年ぶりの二人だけの花火大会。
二人は止まっていた時間を再び確かめるかのようにその時間を少しずつ進めていく。
自宅から徒歩5分とかからない会場まで到着すると、打ち上げ開始30分前だというのにすでに会場の見やすい場所は場所取りが始まっていた。
「もう人でいっぱいだね。場所がないね。ここじゃあ、ゆっくり見られないかも」
「そうだな。昔は明莉を肩車してあげられたんだけどな。もうお父さんにはさすがに無理だからな。でも、今夜の場所は心配するな」
「?」
宗佑は明莉の手を引っ張ると花火が打ちあがるメイン会場とは逆方向に歩いていく。
どんどん進むと、人も少なくなり花火が見えるとは思えない場所に向かっていく。
「お父さん?こっちだと花火が見えなくなるよ?」
「明莉、覚えてないか。ほら、ここ」
宗佑が示した場所には、小さな船とおじいさんが待っていた。
「あ、斉藤さんお久しぶりです。今日は急に連絡してすいません」
「あー、いやいや、いいんだよ。あれ?!この子が明莉ちゃん?」
「はい。娘の明莉です」
キョトンとした明莉を背に二人の会話が進んでいく。
宗佑から斉藤さんと言われたおじいさんは明莉にも話しかけてきた。
「明莉ちゃん、久しぶりだね。美人さんになったなぁ。浴衣も似合う大人の女性になったんだね。覚えてないかい?おじちゃんのこと」
「・・・すいません」
「斉藤さん、無理もないですよ。明莉は幼いころに一回だけしか連れて行ってないですから」
「そっか。そうだったな。明莉ちゃんが3歳くらいの頃、この船で君とお父さんを乗せて下流の方まで遊覧したんだよ。その時に、明莉ちゃんから運賃として飴をもらってね。おじちゃんはひとりもんだから嬉しくなっちゃってさ」
「あの時はすいませんでした。明莉が渡した飴だけで乗せてもらっちゃって」
すると、斉藤さんは、ただでさえしわくちゃの顔をさらにしわくちゃにした笑顔で二人を船に乗船するよう促した。
「いいって、いいって。二人とも早く乗らないと花火が始まっちゃうよ?」
「あ、そうですね。ほら、明莉も乗って乗って!」
「あ・・・よろしくお願いします」
「うん。じゃあ、いくよ。一番いい場所で見させてやるからな。安心しろ」
斉藤さんは手慣れた操作で船を操ると、すぐにメイン会場近くのベスト観覧ポイントまで連れて行ってくれた。
「お父さん、今日はありがとう」
「明莉こそ、ありがとう。お父さん嬉しかったよ。でも、桃李君は本当に良かったのかい?」
「うん。今日はお父さんと見たかったんだ。ねえ、覚えてる?お父さんが花火大会に行くといつも言っていたこと」
「え?・・・なんだろうな」
「ふふふっ。お父さん忘れちゃったの?私はちゃんと覚えてるよ?お母さんが聞いたら怒るだろうな」
「あ・・・」
そう言った時、宗佑の顔が少し赤くなっているように見えた。
「明莉・・・覚えてたのか」
「うん。忘れてないよ。お父さん、この花火大会でお母さんにプロポーズしたって言ってたよね。お父さんは武勇伝のように話していたけど、お母さんから聞いた話とは大分違ってたよ。ふふふっ」
「あ・・・あいつ。あ、あのな、そうやって親をからかうんじゃないよ」
「あ、ごめんごめん。違うの、実はね・・・」
ヒュゥーッ・・・・・・
ドドォーン!ドドォーン!ドドォーン!
オオォー!
花火大会の始まりと共にあたりは歓声に包まれて、明莉の声は遮られてしまった。
「明莉、なんて言ったんだ?」
「お父さん!今までありがとう!大好きだよ!」
明莉は花火の音に負けないくらいの大きな声で叫んだ。
「明莉?」
花火の打ち上げの隙間に少し静かな時間が流れる。
「桃李もね、お父さんと同じでこの花火大会でプロポーズしてくれたんだ。偶然だけどね。なんかそれがおかしくて。でも、桃李のおかげでやっと素直になれた気がする。きっと、お父さんの言っていた大桜花火のおまじないのおかげかな」
「あ、あれは・・・お父さんの・・・」
「知ってるよ。でも、私にもそれが起きた。だって、一番大好きな人から言われたんだから。お母さんの気持ちも今ならわかるな」
「え?・・・お母さんの気持ち?」
「ふふふっ。え?なんのこと?自分で聞けば?」
お母さんは、当時お父さんのことが大好きだったけれど、煮え切らないお父さんとの付き合いを諦めて、実家から来ていたお見合いの話しを受けようかと考えていた。そして、最後の思い出にと考えていた花火大会で、とうとうお父さんからプロポーズされた。
お母さんは、嬉しくて舞い上がりそうな気持であったけれど、その姿はお父さんにわからないように気持ちを隠していたらしい。
今の宗佑の反応を見る限り、きっと気付いてないんだと思う。
「それと、お父さん。今までありがとうございました。お父さんとは長い期間ゆっくり話してなかったから、今日だけはゆっくり話したかったんだ。私は明日は式場のホテルに泊まるから、明後日の式までお父さんには会えないからね。良かったよ。今日は、言いたかったことは全部言えたから」
「明莉・・・」
その後は、一秒一秒刻まれる思い出を二人は大切に過ごした。
そして、花火大会はフィナーレを迎える。
「明莉、大桜が来るぞ」
「うん。お父さん。私、絶対に幸せになるから」
「・・・」
ヒュゥルルルーッ・・・
ドッドオォォーン!!!
空いっぱいに広がる満開の桜の花火は、あの頃と変わらぬ荘厳さで夜の空を色づけていた。
きっと、何年たっても変わらないだろう。
この花火も、今の想いも。
そして、忘れない。
お父さんに肩車をして初めて見たあの花火を。
それが、私の始まりだったのだから。
私が友達と行くようになった頃、いつものように一緒に行こうと誘う父を初めて断ったあの時。
父の顔が少し寂しそうになったのを私は忘れない。
父はいつも優しく、いつも傍にいてくれようとしていたけど、私は成長するたびに父との距離をとるようになっていった。
でも、私はそんな父が本当は大好きだった。
それがずっと傍にあると思っていたから、今まで伝えようとも思っていなったけど今夜伝えようと思う。
きっと、今夜じゃないといけないと思うから。
ちゃんと言えるかな。
「お父さん、今夜の花火大会一緒に行かない?」
「え?別にいいけど・・・桃李君はいいのかい?」
宗佑は娘の誘いに少し戸惑い嬉しい気持ちに心を満たされそうになったが、一応彼氏に気を使ってみせた。
「いいの。お父さんと一緒に行きたいんだ」
「そ・・・そうか。わかった。すぐ準備するから待っててくれ」
父と娘。
十数年ぶりの二人だけの花火大会。
二人は止まっていた時間を再び確かめるかのようにその時間を少しずつ進めていく。
自宅から徒歩5分とかからない会場まで到着すると、打ち上げ開始30分前だというのにすでに会場の見やすい場所は場所取りが始まっていた。
「もう人でいっぱいだね。場所がないね。ここじゃあ、ゆっくり見られないかも」
「そうだな。昔は明莉を肩車してあげられたんだけどな。もうお父さんにはさすがに無理だからな。でも、今夜の場所は心配するな」
「?」
宗佑は明莉の手を引っ張ると花火が打ちあがるメイン会場とは逆方向に歩いていく。
どんどん進むと、人も少なくなり花火が見えるとは思えない場所に向かっていく。
「お父さん?こっちだと花火が見えなくなるよ?」
「明莉、覚えてないか。ほら、ここ」
宗佑が示した場所には、小さな船とおじいさんが待っていた。
「あ、斉藤さんお久しぶりです。今日は急に連絡してすいません」
「あー、いやいや、いいんだよ。あれ?!この子が明莉ちゃん?」
「はい。娘の明莉です」
キョトンとした明莉を背に二人の会話が進んでいく。
宗佑から斉藤さんと言われたおじいさんは明莉にも話しかけてきた。
「明莉ちゃん、久しぶりだね。美人さんになったなぁ。浴衣も似合う大人の女性になったんだね。覚えてないかい?おじちゃんのこと」
「・・・すいません」
「斉藤さん、無理もないですよ。明莉は幼いころに一回だけしか連れて行ってないですから」
「そっか。そうだったな。明莉ちゃんが3歳くらいの頃、この船で君とお父さんを乗せて下流の方まで遊覧したんだよ。その時に、明莉ちゃんから運賃として飴をもらってね。おじちゃんはひとりもんだから嬉しくなっちゃってさ」
「あの時はすいませんでした。明莉が渡した飴だけで乗せてもらっちゃって」
すると、斉藤さんは、ただでさえしわくちゃの顔をさらにしわくちゃにした笑顔で二人を船に乗船するよう促した。
「いいって、いいって。二人とも早く乗らないと花火が始まっちゃうよ?」
「あ、そうですね。ほら、明莉も乗って乗って!」
「あ・・・よろしくお願いします」
「うん。じゃあ、いくよ。一番いい場所で見させてやるからな。安心しろ」
斉藤さんは手慣れた操作で船を操ると、すぐにメイン会場近くのベスト観覧ポイントまで連れて行ってくれた。
「お父さん、今日はありがとう」
「明莉こそ、ありがとう。お父さん嬉しかったよ。でも、桃李君は本当に良かったのかい?」
「うん。今日はお父さんと見たかったんだ。ねえ、覚えてる?お父さんが花火大会に行くといつも言っていたこと」
「え?・・・なんだろうな」
「ふふふっ。お父さん忘れちゃったの?私はちゃんと覚えてるよ?お母さんが聞いたら怒るだろうな」
「あ・・・」
そう言った時、宗佑の顔が少し赤くなっているように見えた。
「明莉・・・覚えてたのか」
「うん。忘れてないよ。お父さん、この花火大会でお母さんにプロポーズしたって言ってたよね。お父さんは武勇伝のように話していたけど、お母さんから聞いた話とは大分違ってたよ。ふふふっ」
「あ・・・あいつ。あ、あのな、そうやって親をからかうんじゃないよ」
「あ、ごめんごめん。違うの、実はね・・・」
ヒュゥーッ・・・・・・
ドドォーン!ドドォーン!ドドォーン!
オオォー!
花火大会の始まりと共にあたりは歓声に包まれて、明莉の声は遮られてしまった。
「明莉、なんて言ったんだ?」
「お父さん!今までありがとう!大好きだよ!」
明莉は花火の音に負けないくらいの大きな声で叫んだ。
「明莉?」
花火の打ち上げの隙間に少し静かな時間が流れる。
「桃李もね、お父さんと同じでこの花火大会でプロポーズしてくれたんだ。偶然だけどね。なんかそれがおかしくて。でも、桃李のおかげでやっと素直になれた気がする。きっと、お父さんの言っていた大桜花火のおまじないのおかげかな」
「あ、あれは・・・お父さんの・・・」
「知ってるよ。でも、私にもそれが起きた。だって、一番大好きな人から言われたんだから。お母さんの気持ちも今ならわかるな」
「え?・・・お母さんの気持ち?」
「ふふふっ。え?なんのこと?自分で聞けば?」
お母さんは、当時お父さんのことが大好きだったけれど、煮え切らないお父さんとの付き合いを諦めて、実家から来ていたお見合いの話しを受けようかと考えていた。そして、最後の思い出にと考えていた花火大会で、とうとうお父さんからプロポーズされた。
お母さんは、嬉しくて舞い上がりそうな気持であったけれど、その姿はお父さんにわからないように気持ちを隠していたらしい。
今の宗佑の反応を見る限り、きっと気付いてないんだと思う。
「それと、お父さん。今までありがとうございました。お父さんとは長い期間ゆっくり話してなかったから、今日だけはゆっくり話したかったんだ。私は明日は式場のホテルに泊まるから、明後日の式までお父さんには会えないからね。良かったよ。今日は、言いたかったことは全部言えたから」
「明莉・・・」
その後は、一秒一秒刻まれる思い出を二人は大切に過ごした。
そして、花火大会はフィナーレを迎える。
「明莉、大桜が来るぞ」
「うん。お父さん。私、絶対に幸せになるから」
「・・・」
ヒュゥルルルーッ・・・
ドッドオォォーン!!!
空いっぱいに広がる満開の桜の花火は、あの頃と変わらぬ荘厳さで夜の空を色づけていた。
きっと、何年たっても変わらないだろう。
この花火も、今の想いも。
そして、忘れない。
お父さんに肩車をして初めて見たあの花火を。
それが、私の始まりだったのだから。





