もちろん両思いの恋は初めてだった。


加賀谷先輩は
背は低いしイケメンじゃないけど、
取り柄の少ない私にとっては
尊敬するところを沢山たくさん持っていて
とても素敵な彼氏だった。


目立つ男子グループにいて明るく面白くて、
バンドでギターボーカルをしていて
音楽の話をたくさん教えてくれた。

いつもふざけているようでも根は真面目で、
将来のことをちゃんと考えていて
公務員試験の準備をしていた。



でも、"加賀谷の彼女"っていう
背負ったことの無い存在感大きめの看板が、
私にはかなり、かなり、かなり重たかった…。

登下校や休み時間に3年生とすれ違うと
「アレが加賀谷の彼女らしい」
「へぇー…(特にコメント無し)」
っていう一連の流れと後ろから感じる視線。
凄く嫌だった。
今まで人からこんなに
注目を浴びたことが無かったのだ。
それだけで緊張で息苦しくて、とても胃が痛くなった。


しかも、付き合って3ヶ月後、
クラスメイトで隣の席のミキちゃんが
中学の時から加賀谷先輩に片思いしている
いうことが判明した。

自尊心の低い私は、罪の意識に苛まれた。
ミキちゃんが先に先輩を好きだったし、
たまたま偶然彼女になれた私なんかより、
ミキちゃんのほうが
ずっとずっと先輩を好きなんだろう。
隣の席に一途に想い続けた人の彼女がいるなんて
どんなに苦しいんだろう。



たったそれだけの理由で、
1人で悩んで先輩には何も理由を告げず
別れた。


いま自分が、
先輩をどんな風に好きか、
どのくらい好きか、
先輩がどのくらい私を好きかどうか
は、かなり遠くに置いておいて、の話で、だ。





そこそこでいいんだ。
少女マンガやテレビドラマの主人公が
夢見るような将来像なんか
ハナから期待していないんだ。

常に想定できる最低ラインの
人生プランの中から
小さな幸せを見つけられたら、
それで充分なんだ。