何度か日記に登場している仲の良い女の子と会ってきた。

彼女との関係を世間ではセフレというのだろうけれど、何となく、そう思いたくない。セックスをするけれど、それだけではないし、純粋に友達だと思いたい。


最近、言い知れない焦燥感が背中にべったり張り付いているようで、気分が晴れない。死にたくなるほどではないけれど、何をしても楽しくない。滑ったり、映画を観たり、音楽を聴いたりすると、そのひと時は気分が晴れたような気がするけれど、すぐに「こんなことをしても無意味だ」という気になってくる。


そこで、彼女に連絡してみた。最近は仕事が忙しいらしく、「少しで良いなら」と時間を作って会ってくれた。


ホテルに入り、ふたりで湯船に浸かりながら、「急に呼び出してごめんね」と言うと、彼女は「良いよ、別に」と笑った。

「何かあったの?」

「いや、別に何もない。ただ、会って話したかっただけ」

「じゃあ、話すだけでエッチしない?」

「それはヤダ」

「分かってる」と彼女は笑った。「男って寂しいとか悲しいとか虚しいとか、何かあるとエッチしたくなるもんね」

「女の子は違うの?」

「違うよ」と彼女は言った。「女の子は性欲がある時にしかエッチしないもん。性欲と他の感情を結びつけて考えるなんてバカみたい」

「男はバカってことかなぁ」

「そうだよ。もっと自覚してよ」と言って彼女は笑った。笑いながら、俺の首筋にキスをした。


風呂から出て、いざセックスをしようとしたのだけれど、俺のポコチンは全く勃たなかった。勃たないと焦ってしまい、焦れば焦るほど萎んでしまう。通常より小さくなって縮こまってしまった。

俺は冷や汗だらけになりながら、「おかしいな」と言った。彼女は、舐めたり、しごいたり、唾液を垂らしまくったり、おっぱいで挟んだり、ビーチクに押し当てたり、色々してくれたけれど、やはり勃たなかった。

「ほんとに何かあったの?」

彼女が訊ねた。

「何もない」

俺は答えた。

「体調悪い?」

「別に悪くない」

俺が項垂れると、彼女は俺を両手で抱き締め、「何も考えない方が良いよ」と言った。「誰にでもそういう時ってあるから」

「うん」

俺は頷きながら彼女の髪の毛の匂いを嗅いだ。汗とシャンプーの匂いがした。


彼女と別れた後、凄まじく不安になってきた。体調が良くないとか、その場の雰囲気が悪いとか、何回かした後とか、女の子が全く好みではなかったとか、そういう理由で勃ちが悪いことは過去にあったけれど、今回のようなことは初めてだった。彼女はめちゃくちゃ魅力的だし、その辺の風俗嬢よりテクもあって、付き合いも長く、心を許している相手だ。それなのに。

このまま性的に不能になったらどうしよう、と思った。絶対に嫌だ。

確かめるために風俗に行こうと思ったけれど、今は手持ちのお金もない。いつものように保険会社から借りるにしても、当日は無理だ。

イライラして持っていたペットボトルをアスファルトに叩きつけた。ペットボトルはアスファルトでバウンドして転がった。やれやれ。俺はそれを拾い、コンビニのゴミ箱に捨てた。


原付で帰宅しながら、B'zを聴いた。「ながい愛」を聴いていたら、叫び出したくなった。「いつの日か世界が消えてしまっても瓦れきの中輝く朝露のように美しい気持ちだけを残したい」という歌詞が胸にのしかかってきた。