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浅慮相乗のブログ

このブログの内容は私が所属する/した、いかなる組織とも関係ありません。
Twitter ID @senryoAIIT と同じ人間が書いています。

先日、少なからぬ波紋を呼んだ新聞記事がありました。

神戸新聞NEXT|文化|村上春樹さん 高1でケッセル愛読 神戸の母校に貸し出し記録
http://www.kobe-np.co.jp/news/bunka/201510/0008458279.shtml

現在、この記事はログインしなければ詳細は閲覧できませんが、掲載当初はフルアクセス可能で、貸出カードの写真がありました。

この写真には村上氏の他にも、借りた方々の名前が書いてあり、神戸新聞がこれらの方々から了解を得て掲載したものではなかったそうです。神戸新聞に電話で問い合わせをされた方がブログエントリを書いておられますので、ご紹介いたします。

神戸・図書館ネットワーク 神戸新聞が村上春樹さんの学校図書館貸し出し記録を掲載
http://toshokannet.blog10.fc2.com/blog-entry-310.html

また、Twitter上でも様々な意見がありました。

神戸新聞が小説家・村上春樹の高校生時代の図書帯出者カードの内容を報じる - Togetterまとめ
http://togetter.com/li/883639

なぜ、問題だという方が多いのでしょうか?

現行の個人情報保護法では、特定の書籍を誰が、いつ借りたというのも条文を読むと、個人情報に該当するものと考えられます。

”第二条  この法律において「個人情報」とは、生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう。”
個人情報の保護に関する法律(平成十五年五月三十日法律第五十七号)
http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=2&H_NAME=&H_NAME_YOMI=%82%b1&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_FILE_NAME=H15HO057&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=2&H_CTG_GUN=1

撮影された貸出カードには借りた方の名前があり、その本を借りた方を特定可能です。但し、今回、情報を掲載した神戸新聞は企業であって、いわゆるプライベートセクタですので、個人情報保護法が適用されますが、情報を提供した神戸高校は兵庫県の県立高校ですので、兵庫県の条例で規制されます。

”第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(1) 個人情報 個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得るものをいう。”
兵庫県 個人情報の保護に関する条例(PDF)
http://web.pref.hyogo.jp/pa14/documents/25jourei.pdf

法律でも、条例でも、大変、問題があると思われますが、更に、基本的人権の軽視ではないかという見方もあります。

”図書館は利用者の秘密を守る”

この言葉を最近、どっかで聞いたという方もいらっしゃるかもしれません。『図書館戦争』という映画にもなったシリーズの中に出てきますから。でも、これは「図書館の自由に関する宣言」の一節なのです。

”第3 図書館は利用者の秘密を守る

1.読者が何を読むかはその人のプライバシーに属することであり、図書館は、利用者の読書事実を外部に漏らさない。ただし、憲法第35条にもとづく令状を確認した場合は例外とする。
2.図書館は、読書記録以外の図書館の利用事実に関しても、利用者のプライバシーを侵さない。
3.利用者の読書事実、利用事実は、図書館が業務上知り得た秘密であって、図書館活動に従事するすべての人びとは、この秘密を守らなければならない。”
図書館の自由に関する宣言
http://www.jla.or.jp/library/gudeline/tabid/232/Default.aspx

少し長いですが、この宣言の最初の部分を引用します。

〔引用開始〕
図書館は、基本的人権のひとつとして知る自由をもつ国民に、資料と施設を提供することをもっとも重要な任務とする。
1.日本国憲法は主権が国民に存するとの原理にもとづいており、この国民主権の原理を維持し発展させるためには、国民ひとりひとりが思想・意見を自由に発表し交換すること、すなわち表現の自由の保障が不可欠である
知る自由は、表現の送り手に対して保障されるべき自由と表裏一体をなすものであり、知る自由の保障があってこそ表現の自由は成立する。
知る自由は、また、思想・良心の自由をはじめとして、いっさいの基本的人権と密接にかかわり、それらの保障を実現するための基礎的な要件である。それは、憲法が示すように、国民の不断の努力によって保持されなければならない。

2.すべての国民は、いつでもその必要とする資料を入手し利用する権利を有する。この権利を社会的に保障することは、すなわち知る自由を保障することである。図書館は、まさにこのことに責任を負う機関である。

3.図書館は、権力の介入または社会的圧力に左右されることなく、自らの責任にもとづき、図書館間の相互協力をふくむ図書館の総力をあげて、収集した資料と整備された施設を国民の利用に供するものである。

4.わが国においては、図書館が国民の知る自由を保障するのではなく、国民に対する「思想善導」の機関として、国民の知る自由を妨げる役割さえ果たした歴史的事実があることを忘れてはならない。図書館は、この反省の上に、国民の知る自由を守り、ひろげていく責任を果たすことが必要である。

5.すべての国民は、図書館利用に公平な権利をもっており、人種、信条、性別、年齢やそのおかれている条件等によっていかなる差別もあってはならない。
外国人も、その権利は保障される。

6.ここに掲げる「図書館の自由」に関する原則は、国民の知る自由を保障するためであって、すべての図書館に基本的に妥当するものである。

この任務を果たすため、図書館は次のことを確認し実践する。
〔引用終了〕

この宣言が守ろうとしているものは、日本国憲法第19条が「これを侵してはならない」としている基本的人権の「思想及び良心の自由」の発露であり、権利として保障される「表現の自由」の源泉である「知る自由」です。

そして、先日閉会した国会で成立した「個人情報の保護に関する法律及び行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の一部を改正する法律」では、以下の通り、「要配慮情報」についての記述が個人情報保護法に加わることとなりました。

”この法律において「要配慮個人情報」とは、本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報をいう。”
”個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、要配慮個人情報を取得してはならない。”
第一八九回 閣第三四号
個人情報の保護に関する法律及び行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の一部を改正する法律案(個人情報の保護に関する法律の一部改正)(PDF)
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/189/pdf/t031890341890.pdf

日本の個人情報保護法には今まで「要配慮情報」についての規程はありませんでした。諸外国では”sensitive data”、日本語では主に「機微情報」と訳されています。諸官庁のガイドラインでは私が調べて限りのことですが、金融庁のガイドラインの記述を見つけただけです。

”第6条 機微(センシティブ)情報について
1 金融分野における個人情報取扱事業者は、政治的見解、信教(宗教、思想及び信条をいう。)、労働組合への加盟、人種及び民族、門地及び本籍地、保健医療及び性生活、並びに犯罪歴に関する情報(以下「機微(センシティブ)情報」という。)については、次に掲げる場合を除くほか、取得、利用又は第三者提供を行わないこととする。”
金融分野における個人情報保護に関するガイドライン
http://www.fsa.go.jp/common/law/kj-hogo/01.pdf

恐らく、このガイドラインも個人情報保護法改正を受けて改正されるでしょうが、金融分野という、諸外国との情報流通が多いであろうところでガイドラインに明記されていることの意味について考えさせられます。

機微情報(要配慮情報)の他に、年少者についての情報も諸外国では保護の程度が厚くなっています。もっとも有名なのは米国のCOPPA(Children’s Online Privacy Protection Act)でしょうか。

(参考になるかも)
オンライン上の児童のプライバシー保護の在り方について
-米国、EUの動向を踏まえて-
http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/9229730/www.soumu.go.jp/iicp/chousakenkyu/data/research/icp_review/06/irie2013.pdf
総務省 情報通信政策研究所情報通信政策レビュー第6号(平成25年3月8日刊行)掲載

神戸新聞の事例は、当時、未成年であった方の個人情報を許諾なしに掲載という、二重の意味でクリティカルな事例ではないかと思います。

さて、同じ学校図書を巡るもう1つの懸念をご紹介しましょう。

佐賀県武雄市と神奈川県海老名市で図書館の指定管理者となっているCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)。最近、雑誌や新聞で図書館の運営上の問題を相次いで指摘されています。このエントリを書いている今日も2件。

(天声人語)図書館の不都合な本選び:朝日新聞デジタル
http://www.asahi.com/articles/DA3S12012470.html

東京新聞:にぎわいか 知の拠点か ツタヤ式に賛否 問われる図書館像:核心(TOKYO Web)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/kakushin/list/CK2015101202000128.html

そんな指定管理者ですが、文部科学行政に関する有識者とされているようです。

”カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社カンパニー長”
学校図書館の整備充実に関する調査研究協力者会議 委員名簿
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/115/maibo/1362231.htm

なぜでしょう?

”3.学校図書室支援センター
4月から有馬図書館内に設置、市内小・中学校(19校)の図書室へ、各校週2回、1日7時間、学校司書を派遣します。選書支援、書架整理をはじめ、教職員や公共図書館と連携しての授業支援、図書館を使った調べる学習推進などを行います。児童・生徒が生涯にわたって図書館を活用していただけるよう、学校図書室を活発化します。”
海老名市立図書館の運営について~2014年4月1日から指定管理者として運営開始
http://www.ccc.co.jp/news/2013/20130331_004459.html

市立図書館だけでなく、市立の小中学校での図書活用にも関係するからです。それだけならばまあ、仕方ないでしょう。なぜ学校図書室支援センターを置く有馬図書館を担当するTRCの会長であり、統括館長である谷一文子氏ではないのかという疑問は残りますが。

瑞穂図書館を考えるblog
海老名市図書館を訪問、谷一統括館長と面談しました
http://blog.livedoor.jp/igrs1949/archives/1033122433.html

海老名市図書館のwebサイトアドレスを見ると、何やら不安を感じてしまうのです。

海老名市立図書館
https://ebina.city-library.jp/library/
※これはあえてリンクは貼りません。詳しくは前のエントリをご覧ください。

同じCCCが指定管理者の武雄市図書館webサイトアドレスは、自治体のサイトであることが分かります。

武雄市図書館
https://www.epochal.city.takeo.lg.jp/winj/opac/top.do

”LG.JPドメイン名は、地方公共団体を対象としたドメイン名です。”
株式会社日本レジストリサービス LG.JPドメイン名について
http://jprs.jp/whatsnew/notice/before2011/lg.html

しかし、海老名市図書館のドメイン名「CITY-LIBRARY.JP」はCCCが登録したものなのです。

”Domain Information: [ドメイン情報]
[Domain Name]                   CITY-LIBRARY.JP

[登録者名]                      カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社
[Registrant]                    Culture Convenience Club Company, Limited

[Name Server]                   ns1.net.ccc.co.jp
[Name Server]                   ns2.net.ccc.co.jp
[Name Server]                   ns3.net.ccc.co.jp
[Name Server]                   ns4.net.ccc.co.jp
[Signing Key]                   

[登録年月日]                    2015/06/09
[有効期限]                      2016/06/30
[状態]                          Active
[最終更新]                      2015/08/21 13:30:11 (JST)

Contact Information: [公開連絡窓口]
[名前]                          Whois情報公開代行サービス by お名前.com
[Name]                          Whois Privacy Protection Service by onamae.com
[Email]                         proxy@whoisprotectservice.com”

以上が、 http://whois.jprs.jp/ で「city-library.jp」を検索した結果の一部です。

つまり、海老名市図書館はデータを指定管理者側のシステムで、全てではないにしろ扱っているということです。

先日、かなり気になることを知りました。CCCと資本関係がある企業のことです。

株式会社ランドスケイプ 会社概要
http://www.landscape.co.jp/overview.html

「名寄せ」を行う技術があります。

 名寄せ
http://www.landscape.co.jp/dcln_nayose.html

無論、技術があるからと言って、むやみやたらと使うような企業は無いでしょう。データを持っているからと言って、むやみやたらと提供するような企業もないでしょう。そう、信じたいところです。

〔追記 20151012〕
@so6287氏より以下の指摘をいただきました。

”神戸市個人情報保護条例7条3項がセンシティブ情報取得の原則禁止を規定し、同9条が第三者提供を禁止しています。また公立高校ということで、地方公務員法34条は職員に守秘義務を課しています。”
https://twitter.com/so6287/status/653527670819389440

”金融庁のガイドライン以外にも、総務省の電気通信分野に関するガイドラインが、センシティブ情報の取得の原則禁止を規定しているようです。”
https://twitter.com/so6287/status/653528082653904897

ありがとうございました。